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若者はなぜ「不憫な状況」を愛でるのか?がんばるんだけど報われないことが日常になっている、Z世代。

ほぼ日

物心ついたときからインターネットやスマホが身近にあったZ世代。新感覚を持つ彼らは、どんなことを心地いいと感じ、どんなことをいやだと感じるんだろう?上の世代にしてみれば「仲良くなりたい、だけどちょっと気後れする」そんな存在でもある気がします。そこで、Z世代特有の発想や感性について、長年、若者研究をされていて、「さとり世代」や「マイルドヤンキー」といった言葉の生みの親でもある原田曜平さんに聞いてみました。もっと彼らに近づいていいんだ、と原田さん。しかも、いまは世界的に「Z世代の世紀」。理解を深めておくと、さまざまな場面でちょっと役に立つかも?しれませんよ。全5回でおとどけします。


──
今日のテーマは「Z世代」です。Z世代と仲良くなるにはどうすればいいのかを伺えたらと思っています。

原田
Z世代とは、ざっくりいうと1997年から2012年生まれ、10代から26歳くらいの人たちのことを指します。その世代とうまく付き合うというのは中高年にとっては気になるテーマですよね。

──
まずはZ世代の若者に流行っているグッズがあるということで、ご紹介いただけますか?

原田
わかりました。坊主で髭のおじさんがいきなり何を取り出すんだっていう感じかもしれませんけど(笑)、こちらです。

「アグリーベイビーズ」といいまして、いまこの人形がZ世代の若者の間でとても流行っています。ゲームセンターに行くとこれが取れるクレーンゲームがけっこうな割合で置いてあります。
訳すと「醜い赤ちゃん」。名前からしてちょっとびっくりですよね。しかもこの人形、引っ張るとびよ~んと伸びるスクイーズ素材でできているんです。Z世代の子たちは、これをむにゃー、うにゅーと伸ばして、「かわいいー」と愛でているんですよね。

──
うわぁ。

原田
『北斗の拳』でいったら「ひでぶ」状態で、私なんかは胸が傷んじゃう。もうよくわからないですよね。

──
アグリーベイビーズ、初めて知りました。

原田
上の世代にはちょっと理解しにくい感覚かもしれません。なぜこの人形がZ世代にウケているのかを説明するのに、私は「不憫(ふびん)かわいい」というキーワードをつけています。
心理学の世界では幼い動物や赤ちゃんのほっぺをつねったりいじめたりしたくなるという、かわいいものを見ることによって引き起こされる行動を「キュートアグレッション」といいます。それに近い感覚ですかね。
若者に人気の「おぱんちゅうさぎ」も、ひたむきで一生懸命なのに努力が報われない、「不憫かわいい」キャラクターです。たとえばおばあちゃんが財布を落とすのを見て、真っ先に拾いに行くんだけど、そのあと周りの人がお金を持っていっちゃって財布とおぱんちゅうさぎだけが取り残されてしまう話があったりとか。その不憫さを、あわれんだり見下したりするのではなく、「かわいい」と受け止めているんですね。
ほかにも実例があって、ここのところ、不憫な状況を愛でるという文化が若者を中心に広がっているんです。

──
不憫な状況を愛でる文化ですか。

原田
そして、若い子に流行ったモノは、彼らの年齢が上がっていくにつれてだんだん大人に伝わっていきます。それが若者研究のおもしろいところです。
昔からそういう構造があるので、たぶんこの「不憫かわいい」もだんだん広がっていき、5年後か10年後には普通の感覚になっているかもしれません。

──
若者たちはなぜ「不憫かわいい」という感覚を持つようになったんですかね。

原田
おそらく昭和、平成のある時期までは日本の経済は右肩上がりで多くの日本人の給料も上がっていました。エンタメの世界を見ても、『巨人の星』も「少年ジャンプ」の『ドラゴンボール』も、登場人物がだんだん強くなっていくような、状況がよくなっていくコンテンツが多かったですよね。
ところがこの30年間、給料も変わらず、がんばってもあんまり状況が変わらない、という時代になっているわけです。Z世代の子たちはこの低成長な時代が当たり前なので、「がんばれば報われる」という図式に共感を持ちづらいのではないか、と思うんです。

──
なるほど。

原田
Z世代の子はがんばるんだけど報われないことが日常になっているので、おぱんちゅうさぎの様子に「不憫だけどかわいい」という強い共感を抱くという仮説を持っています。
広告表現などでも「不憫かわいい」感覚に訴えるものが増えています。「不憫かわいい」は、いまホットなキーワードかな、と思います。

──
Z世代はなぜ「Z世代」と呼ばれるようになったんですか?

原田
Z世代というのは、もともとアメリカで広がった言葉なんです。なぜZかというと、アメリカの世代論が「ジェネレーションX」ということで、アルファベットのXから始めちゃったからなんですね。1965~80年生まれがX世代、81~96年生まれがY世代。Y世代は「ミレニアル世代」とも呼ばれますね。というわけで、X、Yの次だからZ、という単純な理由です。
ちなみにZ世代の次は、α(アルファ)世代です。α、β‥‥と続いていくんでしょうね。
ただ、世代論って科学的なものじゃなくて、ざっくりと人々を捉えるってもの。そういうものとして考えていただきたいんです。
日本では「ゆとり世代」といわれる人たちの下の世代に当たります。私も「ポストゆとり世代」「脱ゆとり世代」と言っていたこともありますが、しっくりこなかった。それで私も本当は嫌だったけど、著書のなかで「ジェネレーションZ」を和訳して「Z世代」として紹介したところ、多くの人が知る言葉になった、という感じです。

──
原田さんとしても、アメリカ発の呼び方を日本で使うのは違和感があった。

原田
最初はね。でもいまは、この世代こそ世界共通の呼び方にする意味がある、とも思っています。
私は長い間、海外の若者の調査もしているんですけど、Y世代まではアメリカの若者と日本の若者ではライフスタイルも価値観も全然違っていたんですよ。「どんなドラマを観ているの?」って聞いても、アメリカの子が教えてくれるドラマは日本では放送されていなかった。ネット検索をしても、なかなか情報が見つからない。
それが、Z世代になると変わってきたんですよ。「Netflixで何を観ているの?」「TikTokでバズってる動画って何?」と聞くと同じコンテンツの名前が上がってくるんです。
スマホという同じツールを使い、同じSNSやサブスクリプションサービスを利用している。見ているコンテンツも近くなっています。初めて、世界中の若い世代を同じ呼び名にしていい時代になったと思いますね。

──
若者の文化がボーダーレスになってきたというか。

原田
はい。そして日本は少子化で若者が減っていますが、世界に目を向けてみると、Z世代以降の人口がいちばん多い。若者の志向を理解することは企業にとっても大事なことだと思います。
一方で、いつの時代も大人は「若者は何を考えているかわからない」と嘆くものですが、そのわからなさ度合いはかつてないほど高まっているかもしれません。

──
いままで以上に、わからない。

原田
はい。その原因としては、触れているメディアが違うことが大きい。たとえば20年前は、どの世代もテレビを見ていました。若者は深夜帯に見て、大人は夕食後のゴールデンタイムに、おじいちゃんおばあちゃんは昼間のワイドショーを見るという視聴時間帯の違いはあったかもしれない。でも、みんながテレビを見ていたんですね。
ところが、いまはテレビ以外にも情報源となるメディアがたくさんあります。たとえば、いま日本でTikTokを見ている人の約半数はZ世代です。40代以上でTikTokを見ている人は10%以下。要は、若い人しかTikTokを見ていない。
法律やスポンサー企業などの制限がある中で作られるテレビ番組と、普通の人がおもしろいと思うことをいい加減な情報もまじえて発信しているTikTokでは、まったく別物だと思うんですね。
世代ごとに触れるメディアが違うから、いくら時間がたっても世代が違うと情報が共有されない。そのために、かつてない世代間分断が起きているんです。

(出典:ほぼ日刊イトイ新聞「Z世代って、どんな世代?(1)不憫な状況を愛でる文化?」)

原田曜平(はらだ・ようへい)

1977年東京都出身。芝浦工業大学教授。大学卒業後、博報堂入社。博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーとなる。2018年に退職し、マーケティングアナリストとして活動。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。
主な著書に『寡欲都市TOKYO─若者の地方移住と新しい地方創生 』(角川新書)『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)『アフターコロナのニュービジネス大全』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

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