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世界の神話・伝承に登場する「虫の怪物」たち

草の実堂

画像 : セルケト 草の実堂作成

「虫」は、我々人類にとって身近な動物の一つである。

特に昆虫は、この地球上でもっとも種類が多い動物として知られている。

自然のサイクルにおいても重要な役割を担っており、例えばハチや蝶は花粉を運び、ボウフラは水を濾過する。
こうした生態系の働きによって、自然の均衡は保たれているのだ。

しかし、神話や幻想の世界に目を向けると、恐るべき虫たちの伝承が存在する。

今回は、そんな「虫の妖怪」伝承について詳しく解説していく。

1. アペヤキ

画像 : アペヤキ 草の実堂作成

セミといえば、夏の風物詩である。

セミの鳴き声は、うだるような夏の到来を、嫌というほど感じさせてくれる。
そんな夏の暑さを体現したかのような、セミの妖怪の伝承があるのをご存知だろうか。

アペヤキはアイヌ民族に伝わる、セミの怪異である。
作家・中田千畝の著作「アイヌ神話」などで言及されている。

日高国(北海道南部)幌泉郡に、このセミは生息すると信じられていた。
アイヌの言葉でアペは「火」、ヤキは「セミ」を意味する。

その名の通り、このセミは全身が真っ赤に燃えており、木に止まればたちまち黒焦げにしてしまう程の、凄まじい高熱を有していたとされる。

こんなセミがもし体に止まったりすれば、当然火傷だけでは済まず、一瞬にして焼死してしまうこと必至だ。

このため、アイヌの人々は、このセミを大いに恐れていたという。

2. 最猛勝

画像 : 最猛勝 草の実堂作成

日本の地獄は、実に多種多様な姿を持つ。

ガンダーラ(現在のパキスタン北西部)出身の僧侶・闍那崛多(523~600年?)が漢訳した仏教経典『起世経』によれば、この世界の地下には八つの大地獄があり、その周囲にはさらに十六の小規模な地獄があると説かれている。

この十六の地獄の中の一つに「膿血地獄」という地獄がある。
その名の通り膿でドロドロになっている地獄であり、亡者たちは鼻の当たりまで膿に浸されるという。
愚かで腹黒く、人に汚物を食わせた人間が死後、この地獄に堕ちると考えられていた。

この膿血地獄に生息するとされた虫が、最猛勝(さいもうしょう・さいみょうしょう)である。

最猛勝はハチによく似た虫であり、膿の海で溺れる亡者たちを、容赦なく針で刺したり、顎で噛み砕いたりするという。
この虫から逃れるには汚染された膿に沈むしかなく、それはそれでとても不快なこと極まりない。
どう足掻いても、亡者たちは苦しむよりほかにないのである。

現実においてもハチは、刺されれば命を落とす危険さえある、危険な昆虫の一つだ。
顎の力も存外強く、噛まれれば肉を食いちぎられることもある。

もしハチの巣をみつけても、決して面白半分で近づいてはならない。

3. ナマラカイン

画像 : ナマラカイン 草の実堂作成

ナマラカインは、オーストラリアに生息すると伝えられる妖怪である。

作家・中岡俊哉の著書『恐怖大怪物』などで、その存在が言及されている。

この妖怪の体はカマキリのように細く、両手は鋭利な鎌となっている。
ナマラカインは自分より弱い動物を餌とし、特に人間は格好の捕食対象だったそうだ。
人間を襲う際はきまって、自身の体を3つに分ける、いわゆる「分身殺法」を駆使し、惑わしながら襲ってくるという。

だが自分より格上の存在には滅法弱く、特にサソリの姿をした「ギギ」という怪物には手も足も出ず、尻尾をまいて逃げ出すのだそうだ。

4. セルケト

画像 : セルケト 草の実堂作成

セルケト(Serket)は、古代エジプトの神話に登場する、サソリの女神である。

足と尻尾のないサソリを頭に乗せた、女性の姿で壁画に描かれている。
(古代エジプトでは、壁画に描かれた生物は実体化し、動き出すと考えられていた。ゆえにセルケトのサソリは人間に害を及ぼさないよう、足と尾をもがれているのである)

サソリといえば砂漠に生息する有毒の虫であり、尾の毒針に刺されれば、命を落とす危険性さえある。
特にオブトサソリという種のサソリは、通称「デスストーカー」と呼ばれ、エジプトのみならずアフリカ全土で恐れられている。

セルケトは人間をサソリの毒から守護してくれると考えられており、古代エジプトの人々はこの女神を熱心に信仰していたという。

5. ミルメコレオ

画像 : ミルメコレオ 草の実堂作成

ミルメコレオ(Myrmecoleo)は、ヨーロッパに伝わる怪物である。

なんとこの怪物は、半身がライオンで、もう半身がアリという、極めて奇怪な姿を持つと伝えられている。

古代の博物図鑑「フィシオロゴス」によれば、ミルメコレオの父はライオン、母はアリであるとされる。

肉食のライオンと、草食のアリ(当時はそう考えられていた)、双方の性質を合わせ持つため、肉を食っても消化ができず、最終的に餓死してしまう哀れな存在だと説かれている。

また、「二兎追うものは一兎も得ず」と言うように、物事は一つにしぼらないと破綻するという例えに、ミルメコレオが引き合いに出されることがある。

この怪物は、聖書の誤訳から生まれたと考えられている。

ヘブライ語の「旧約聖書」がギリシア語に翻訳される際に、「雄ライオン」という言葉が「ミュルメクスライオン」と訳されてしまった。
「ミュルメクス」はギリシャ語で「蟻」を意味するため、結果、この奇妙な「蟻ライオン」ミルメコレオが誕生したというわけだ。

参考 : 『アイヌ神話』『大人を恐がらせる恐怖大怪物』他
文 / 草の実堂編集部

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