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【松田聖子と呉田軽穂メロディ】これぞ1980年代の奇跡!輝きを失わないユーミンポップス

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2025年10月15日 松田聖子の作曲家別企画アルバム「Seiko Matsuda Composer Series」発売日

ユーミンが初めて松田聖子に楽曲提供した「赤いスイートピー」


松田聖子のデビュー45周年を記念して、作曲家別の企画アルバムが10月15日に発売された。財津和夫、大瀧詠一、細野晴臣、呉田軽穂といった4名の作曲家の作品集で、今回紹介するのは呉田軽穂ワークス『Seiko Diamond -Karuho Kureda Works-』である。

呉田軽穂という名前がユーミンこと松任谷由実のペンネームであるのはご存知かと思うが、ユーミンが初めて松田聖子に楽曲提供したのは、1982年1月リリースの「赤いスイートピー」。この曲は、作詞の松本隆から “ライバルに曲を書いてみない?” と依頼されたことがきっかけだったというのも有名な話である。

その際、ユーミンは作曲にペンネームの “呉田軽穂” を使用することを条件に引き受けた。知名度のある名前で依頼を受けるより、“誰が作ったのかがわからなくても、曲調だけで聴き手の心を掴めたら” という願いがあったそうである。当初、提出されたメロディーはBメロやサビ部分で音程が下がるように書かれていたが、これを当時の若松宗雄ディレクターから、音程を上げるように手直しを要求され、現在のメロディーになった経緯を持つ。

松本隆と呉田軽穂、互いの作風を理解し合った絶妙のコンビネーション


ユーミンは松田聖子に、1982年から1984年の間で12曲を提供しているが、そのすべてが松本隆の作詞。シングル2作目の「渚のバルコニー」まではさほどユーミン色は強くないが、1982年7月に発売された3作目「小麦色のマーメイド」は、ユーミンが得意とするまったりとしたミディアムテンポの楽曲で、自身のアルバム、例えば同年リリースの『パール・ピアス』に収録されていてもおかしくない。

この「小麦色のマーメイド」も制作側から手直しの要求があったそうだが、ユーミンと編曲の松任谷正隆は、このままで行きたいと述べ、結果、アイドルポップスのキラキラ弾けた音作りとは一線を画す、大人っぽいAORに仕上がった。言い換えれば地味とも捉えられそうな曲だが、これを完璧に歌いこなした松田聖子の表現力はもとより、こういう曲調が歌謡曲のシングルA面として受け入れられる土壌を作ったとも言えるだろう。

今年(2025年)の9月、ニッポン放送『松任谷由実のオールナイトニッポンGOLD』で松田聖子がゲストに招かれた際のトークで、“ユーミンからの提供曲の中で一番難しい曲” と語っていたのが「小麦色のマーメイド」だった。今回の企画アルバムには、監修の栗本斉氏によるユーミンへのインタビューが掲載されており、そこではこう答えている。

「地味派手というか、従来のアイドルとは違うところを狙っていたのはありますよね(中略)キャピキャピしたアイドルソングを作るつもりはありませんでした」


そしてもう1曲、1984年の「Rock’n Rouge」のB面に収録された「Von Voyage」も同系統のユーミン調ミディアムナンバー。こちらは松本隆が高原のペンションに向かうカップルの、初のお泊まりデートを描いた作品。高原を走るローカル線のテンポ感と曲のテンポが合致しており、松本隆と呉田軽穂、互いの作風を理解し合った絶妙のコンビネーションが楽しめる。

ユーミン自身が最も気に入っている「瞳はダイアモンド」


松本&呉田コンビは基本的にメロディー先行で曲が作られているが、1曲だけ詞先で書かれた作品がある。それが1983年にリリースされた「秘密の花園」で、当初は別の作曲家に依頼していたものの、なかなかディレクターからOKが出ず、結果的に完成していた松本の詞にユーミンが曲をつけることになった。

詞先はほとんど受けないというユーミンだが、この曲は詞を渡されてわずか30分ほどでメロディーを付けてしまったそうである。サビ直前のフックになっている「♪あーせーる・わ」や、締めの「♪は・な・ぞのー」といった箇所の詞と曲のはまり具合は完璧で、これもまた松本&呉田コンビの、互いの作風に対する理解度の高さを思わせる。

ユーミン自身が最も気に入っている松田聖子への提供曲は1983年の「瞳はダイアモンド」だという。実際、ユーミンが2003年に発表した、提供作のセルフカバーアルバム『Yuming Compositions:FACES』で歌われているのみならず、2004〜2005年に行われた自身のコンサートツアー “VIVA!6×7” でも披露していた。際立って美しいメロディーラインを持つ曲だが、殊更マイナーで沈んだ曲調にせず、“明るくはないが暗すぎない” 中間色のメロディーが実にユーミンらしい。そしてアイドルポップスの世界で、こういった曲調を的確に表現できるシンガーは松田聖子をおいて他にいなかった。

1984年リリースの「Rock’n Rouge」と「時間の国のアリス」は、どちらもアップテンポの華やかな曲調で、ボーカルもキュートで弾けた歌い方に変化している。松田聖子のキャンディボイスがロックンロール・スタイルの曲調と相性がいいのは確かだが、その上手さを証明するのが、1982年のクリスマス企画アルバム『金色のリボン』に収録されている、ユーミンの「恋人がサンタクロース」のカバーだ。このノリの良さ、可愛らしさ、ひねりの効いたストーリーを的確に聴かせるボーカルの伝達力など、すでにここで完成されていたことがわかる。

デリケートな心象を描いた呉田軽穂作品


今回リリースされた作家別のアルバムのうち、大瀧詠一作品はナイアガラ・ワールドに松田聖子が招かれたという印象を持つ。細野晴臣作品には神秘的なナンバーが多く、財津和夫作品はドライブ感のあるロックテイストの楽曲が多い。では呉田軽穂作品はというと、デートのシチュエーションや失恋ソングにしても、ヒロインの一瞬の心の動きやデリケートな心象を描いたものが圧倒的に多い。

「制服」や「蒼いフォトグラフ」といったB面曲も含め、数多い松本隆の提供作の中で女の子のリアリズムに最も接近しているのが呉田軽穂作品なのだ。おそらく作詞・作曲の双方が影響しあってこういう形になるのだろうが、今回の企画アルバムを通して聴くと、恋の喜び、別れの悲しみ、強く生きようとする女性像といった、このトリオでしか生まれなかったであろう世界がそこに浮かび上がってくる。

最後になるが、アレンジャー松任谷正隆の功績も忘れてはならない。呉田軽穂作曲の松田聖子作品は、「レモネードの夏」の新川博、「時間の国のアリス」の大村雅朗を除いて、全て松任谷正隆の編曲。例えば「赤いスイートピー」の春の暖かさを思わせるピアノのイントロ、「制服」の雨の匂いが漂うかのようなストリングスのピチカートなど、松任谷正隆アレンジは音で季節感や気候、湿度まで表現してしまう。“季節の中の主人公” という1985年までの松田聖子のコンセプトを最もよく表現した世界となっているのだ。

ユーミンが松田聖子に提供した純度の高いポップスは、発売から40年以上が過ぎ、いまだ輝きを失わない。これぞ1980年代の奇跡と呼べるだろう。

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