【箱根びと訪問】生まれ変わったホテルの支配人として…
奈須 由美
「はつはな」支配人
◆箱根湯本の最上級ホテルを目指してリニューアル
1993年(平成5)に〝女性に優しい宿〟をコンセプトにして開業した「ホテル はつはな」ですが、開業30年の節目を迎える直前に大規模なリニューアルを実施しました。よりプライベート感を高めた特別のおもてなしでゆったり寛いでいただける、そんなクオリティの高い施設をめざして、「はつはな」は、2022年9月11日にリニューアルオープンしました。
客室は和モダンを基調にし、43㎡から100㎡を超えるものまで35の客室があります。ゆとりあるお部屋の全室には自家源泉の名湯「美人の湯」の露天風呂を完備しました。湯坂山を目の前にしてその雄大な自然を感じ、須雲川のせせらぎに耳を澄ませながら心を穏やかに過ごしていただく。お食事は地元神奈川の食材を中心に、懐石料理をベースにした「モダン懐石」です。そんな非日常の滞在をとおして、心も体も整えていただけるひとときを過ごしていただきたいと、スタッフ一同お客様をお迎えしています。
▲新しい「はつはな」のロゴは、5枚の花びらに「視・聴・嘆・味・触」の五つの感覚を表している。〝あわじ結び〟は、結び目が硬く、簡単に解けないことから、「末永くお付き合いをしていきたい」という気持ちが込められている。
わたくしは、「はつはな」のリニューアル工事設計が進んでいる時期に、ソフト面のコンセプトづくりやホテル内の備品、オペレーションの準備に携わりました。リニューアルでハード面はグレードアップしましたが、それに見合ったホテルのソフト面を充実させていかなければなりません。客室の数や価格帯など、今までの小田急リゾーツにはないラグジュアリーなタイプですので、新たなお客様を開拓する必要がありました。スタッフも数人を残して若いスタッフに変わり、インバウンド対応もあって海外のスタッフもだいぶ増えました。
▲13タイプ、全35室の客室には、温泉露天風呂が完備されている。自然のぬくもりを感じる和モダンの客室だ。「宙 ラグジュアリーCtype 緋(ひき)」と呼ばれる本室は、宙に一番近い特別な場所を表しており、ピンクゴールドの華やかな空間になっている。
従来、スタッフのオペレーションは、フロント、宿泊、レストランなど縦割りの分業でしたが、客室の数やスタッフの数から、複数の職務を横断的に行う「マルチタスク」を導入しました。例えばフロントのスタッフは、チェックインの時と部屋にお連れするほんの少しの時間しかお客様と接することができませんが、マルチタスクによって、お客様とさまざまな場で接する時間が増え、若いスタッフにはスキルアップに繋がったようです。これは旅館のようなサービスを受ける感覚のホテルスタイル、という印象になるのかもしれません。〝和モダン〟の設えに重なるおもてなしを目指しました。
新しい現場で、新たなお客さまに合わせた接客を心掛けなければいけないと、最初は、緊張してガチガチになっていましたけれども、来てくださるお客様がリラックスされた穏やかな方ばかりで、心がほぐれて柔らかい接客ができるようになったようです。だいぶお褒めの言葉をいただけるようになって、接客が楽しくなった様子が見受けられます。
◆お客様がホテルを育ててくれている、という思い
わたくしのホテルマンとしてのスタートは、派遣会社の紹介で芦ノ湖畔の「山のホテル」のベルガールの仕事に携わったことです。高校を卒業し、自分が何の仕事をしたいのかわからないまま、上京してきました。学生時代に俳優の松方弘樹、高嶋政伸、紺野美沙子らが出演したテレビドラマ「HOTEL」を観てはいましたが、ホテルの仕事がどんなことをするのか未知の世界でした。そんな時、箱根にあるホテルということに惹かれ、1年間の派遣契約で「山のホテル」に向かったのです。仕事を始めた5月は、ツツジの季節でとても忙しい時期でした。雰囲気もよく、環境が自分にあっていたのかもしれません。紹介されたのが都会のホテルだったら続かなかったかもしれませんが、相性がよかったのでしょう。
ホテルマンとして長く仕事ができたのも、お客様のおかげだと思います。みなさんリゾートにいらしているので、リラックスされ、温和で優しい方ばかりです。わたくしが勤務した小田急リゾーツの経営する「山のホテル」も、「はつはな」も、「箱根ハイランドホテル」もリピーターの方が多く、いらっしゃったお客様から以前投宿された時のお話をお聞きする機会もあって、歴史的価値を再認識し、ホテルに対する思いも変わっていきました。お客様をお迎えし、運営をしているのは私たちですが、お客様がホテルを育ててくださっていることを学びました。
「はつはな」の支配人になって、「箱根温泉女将の会」にも参加するようになると、老舗の女将さんたちから箱根のことや接客の知識などいろいろなお話を伺う機会が増えましたし、温泉旅館組合の方と会う機会も多くなりました。ここ何年かにわたり大涌谷の噴火や、台風による被害、コロナ禍など多くの被災がありましたが、若手が動き出して、箱根が一丸となってきたことを感じます。
▲館内には二つの大浴場と趣の違う4つの貸切風呂がある。いずれも「美人の湯」といわれるアルカリ性単純温泉である。湯めぐりも楽しめることだろう。写真は、貸切風呂「川音(かわと)の湯」
◆心と五感が満ちる静かなときを過ごす定宿として
準備室では、50代、60代の方をターゲットにしていましたが、リニューアルオープン後のお客様は、想像していたより若く4、50代の方が多いです。その年代の人たちは落ち着いたお気に入りの定宿を探す頃だと思います。一方、旧はつはなのお客様の中には、湯坂山が見えて、須雲川が流れる、この景色が本当に好きで、以前利用していた部屋とほぼ同じ場所を予約されるお客様も多いのですが、その方たちと同様に新たなお客様が定宿にしてもらえるようにしたいと思っています。
箱根には外資系のホテルの進出も多くなりました。以前は海外からのお客様は年間を通して10%ほどだったのが、リニューアル後の「はつはな」は25%くらいになりました。海外からのリピーターさんを増やすことも心掛けたいです。旅先のホテルでゆったりする感覚は、欧米人の方が上手なような気がします。朝食を食べてすぐチェックアウトというのは寂しいですから、チェックアウトタイムを延長する新たなプランを夏に向けて作っています。3年で基盤を作りたいという目標でしたが、まだまだやらなければいけないことも多いですし、改善、修正することもたくさんあります。「心と五感が満ちる静かなとき」、このコンセプトに近づけるよう、お客様が自然体で過ごしていただける、つかず離れずのおもてなしを極めていきたいと思います。(談)
▲「はつはな」の癒しスポットになっている展望テラス。四季折々の箱根の豊かな自然を感じることができる場所だ。
奈須 由美(なす ゆみ)
宮崎県出身。「小田急山のホテル」に派遣社員として勤務後、小田急リゾーツ入社。山のホテル、ホテルはつはな、箱根ハイランドホテル勤務後、「はつはな」準備室を経て、2022年9月より「はつはな」支配人現在に至る。
はつはな
[住]神奈川県足柄下郡箱根町須雲川20-1
[問]0460-85-7321