真冬にワンピースとサンダル 女の子との出会いが一大イベントに発展 “トラックの力”を結集
■11月17日に富士市で開催「富士山トラック2024」
スタートは小さな一歩だった。だが、思いに共感した人たちの輪が広がり、地元の一大イベントとなっている。11月17日、富士市の「ふじさんめっせ」で「おいでよ!のろうよ!富士山トラック2024」が開催される。今回で4回目となるイベントのきっかけは、静岡県トラック協会女性部会のメンバーが養護施設を訪問した際に出会った1人の女の子だった。
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「おいでよ!のろうよ!富士山トラック」の規模は回数を重ねるたびに大きくなり、今年も昨年に続いて「ふじさんめっせ」が会場となる。生活に不可欠な物流やトラックを子どもたちにも身近に感じてもらう狙いで、迫力満点の大型トラックに体験乗車したり、ミニトラックで仕事体験したりできる。トラック以外にもパトカーや白バイ、パッカー車やスーパーカーなど様々な車が集まる。
その他にも、会場には洋服やおもちゃを無料で持ち帰ることができるリサイクル品のコーナー、キッチンカー、トイレットペーパーのタワーをつくるチャレンジなど、トラックの枠を超えた企画が盛りだくさん。子どもも大人も楽しめるイベントとなっている。
「おいでよ!のろうよ!富士山トラック」は昨年、約3000人が来場した。地元では人気イベントとして認知されつつあるが、1回目の会場は県トラック協会富士支部の会議場だった。イベントを主催する県トラック協会富士支部の女性部会で副部会長を務める村松由起さんが当時を振り返る。
「私たちは運送業をしているので、子どもたちにトラックに興味を持ってもらう目的でスタートしました。こんなにイベントの協力者が増えて、ふじさんめっせで開催するほど大きな規模になるとは思っていませんでした」
■養護施設で出会った女の子「カレンダーがほしい」
女性部会では毎年、県内の養護施設にトラックで訪問して子どもたちに体験乗車してもらう機会をつくっていた。ある日、浜松市の養護施設を訪れた際、村松さんは「施設で必要なものはありますか?」と施設長にたずねた。すると、タオルが足りなくて困っていると返答があった。年賀で受け取って使っていないタオルが社内にたくさんあったことから、村松さんは快諾した。
体験乗車を終えて施設を離れようとした時だった。村松さんは1人の女の子に背中をツンツンされながら、声をかけられた。「今度来る時は、カレンダーを持ってきてほしい」。施設にはカレンダーが掲示されていたため不思議に思った村松さんは「何に使うの?」と質問した。女の子からは、こう返ってきた。
「ママに会える日に丸を付けたいの。お部屋に貼ってあるカレンダーはみんなのもので、ママに会えない子もいるから」
養護施設にいる子どもたちは定期的に保護者と会っている子もいれば、会う機会がない子もいる。その女の子は保護者に会えない友達の気持ちを推し量り、自分専用の卓上カレンダーにだけ母親と会える日に印を付けたかったという。村松さんは次回の訪問でカレンダーを持ってくることを約束した。そして、女の子に、もう1つ質問した。
「その格好は寒くない?」
■「お洋服は選べないから」 女の子の言葉で即行動
季節は冬。しかし、女の子は夏用のワンピースとサンダル姿だった。「お洋服は選べないから」。女の子から返ってきた言葉に村松さんは行動を起こさずにいられなくなった。
「私たちにできることがあるはずと思いました。タオルもカレンダーも会社に使っていないものがあります。他の企業も事情は同じだと予想しました。子ども服はサイズアウトして、比較的きれいなまま残している家庭は少なくありません。自分たちが使っていないものを必要としている人はたくさんいると実感しました」
村松さんはトラック協会に協力を求め、他の運送会社に「何でも構わないので、使っていないものを寄付してください」と呼びかけた。反響は予想以上だった。タオルやカレンダーだけではなく、子ども用のシャンプーやローション、色画用紙や雑誌の付録など、子どもたちが喜ぶものが次々と集まっていく。村松さんは、こう話す。
「運送会社は荷物を運んでいる時、中身に問題はなくても、箱に傷がついただけで買い取るように言われるケースが多いんです。販売できないので仲間内に配っていました。それらを寄付してもらったら、ものすごい数になりました」
中には「自分の会社には子どもたちに寄付できるものがない」と自費で色鉛筆を購入して寄付した経営者もいた。村松さんは、運送業の結束力に感謝した。地元で古着を回収している業者も協力的だった。養護施設の子どもたちが洋服を必要としている現状を説明すると「好きなだけ待っていって良いよ」と快く応じてくれたという。
■イベントは大盛況 トラック業界の印象も変化
村松さんら県トラック協会富士支部の女性部会は古着を洗濯して包装した。そして、運送業の仲間たちから寄付されたものも一緒に富士支部の会議場に並べて、養護施設、幼稚園や保育園に「全て無料でお配りするので会場にお越しください」と案内を出した。
子どもたちへの思いを込めた取り組みは大成功だった。参加者からは「また開催してほしい」とリクエストされた。第2回はトラックの体験乗車も組み合わせ、県トラック協会富士支部が主催となって富士市も共催で「富士山こどもの国」で開催した。第3回の昨年は会場をふじさんめっせに移し、地元企業や富士市、警察署や消防署など協力者が増えていった。
トラックに対する子どもたちのイメージにも変化が生まれている。「ドライバーは怖い」といった印象から、「かっこ良い」、「運転して見たい」という声が大きくなっている。トラック協会が地域や子ども向けのイベントを開催している認知も広がってきた。松村さんは言う。
「子どもたちから『トラックドライバーになりたい』と聞くのが一番うれしいですね。今は女性ドライバーも多いので、女の子にも職業の選択肢にしてほしいと思っています。ドライバーから管理職、さらに独立して経営者になる道もあります。イベントをきっかけに、生活を支えている物流やトラック業界について知ってもらいたいです」
「おいでよ!のろうよ!富士山トラック」は11月17日の午前10時から午後3時まで、ふじさんめっせで開催される。入場は無料となっている。
(間 淳/Jun Aida)