【福山市】横島ファーム 〜 銀行員からの転身!同級生の親の事業を引き継いだ守りたい味「うつみ潮風豚」
福山市内で車を走らせていると飲食店などで「うつみ潮風豚」ののぼりが立っているのをよく見かけるようになりました。脂身のあまさが特徴で、おいしいと評判の豚肉がうつみ潮風豚です。
その豚を出荷しているのは、福山市南部に位置する瀬戸海に囲まれた自然豊かな内海町にある「横島ファーム」。市内では、うつみ潮風豚を使った料理を提供する飲食店は徐々に増え、県外からも問い合わせがあるほどの人気なのだとか。
横島ファームの豚肉はなぜこんなにもおいしいのかを取材してきました。
横島ファームの「うつみ潮風豚」
横島ファームでは安心して食べてもらいたいとの想いから、飼育方法は50年以上変えていません。豚肉は、繊維がきめ細やかでやわらかく、臭みもありません。
福山市内の飲食店では、うつみ潮風豚を看板メニューにしているところも増えてきています。
・備後ピザ
・旧水曜カレー
・ベラビスタ など
広島県内のミシュラン一つ星のお店でも使用しているのだと聞きました。
また、自社で製造している豚まんやモモカツなども人気。
惣菜メニューは、衣をつけた冷凍の状態で販売してあるので家庭で簡単に調理ができます。
精肉や総菜を購入できるのは、内海町にある直売所だけです。
直売所は沼隈半島と田島をつなぐ内海大橋を渡って、車で約5分の場所にあります。
ホームページにはウデスライス、あらびきミンチなど商品ごとにおすすめの調理方法が分かりやすく記載してあるので、購入するときの参考にしてみてください。
イベント出店などの最新情報はInstagramをチェックしましょう。
厳選したエサ
横島ファームでは、厳選した素材をオリジナルにブレンドしたものを使用。
物価が上がりエサの値段も高騰していますが、エサの種類はほとんど変えていません。先代からの味を守り続けています。
現在、養豚場では約1,000頭の豚を3~4人の作業員で世話しています。肥育豚(ひいくとん)、いわゆるお肉にする目的の豚へエサやりをするときは、タンクから自動的にエサが出る食べ放題のシステムです。しかし、そのうち父豚8頭、母豚80頭へは、1日2回一頭ずつに手やりなのだと聞き驚きました。
なぜ、一頭ずつ手でエサをあげるのか。それは、体格を見ながらエサの量を調節するためです。
つまり、エサやりと同時に体重・品質管理もおこなっているのです。こうしてていねいに育てられた豚は、横島ファーム最大の特徴でもある脂身があまいおいしい豚肉になります。
長期飼育
豚の生まれてから出荷するまでの期間は、通常約180日です。しかし、横島ファームの場合は、200日〜210日(約6か月半〜7か月)を目安に育てます。
おいしい豚に育てるための秘密のひとつです。通常よりも長く飼うことでエサの味が肉に染みて、旨みが凝縮したしっかりとした味わいになります。
安心・安全な環境への取り組み
豚舎のなかはエサを食べる場所、排泄する場所、普段生活をする場所の3つに分けられています。住み分けをすることで、生活環境を清潔に保つのです。
豚は、とてもきれい好きな動物。清潔だと、豚は日々ストレスなく過ごせます。
排泄するスペースの床は、すのこ状に隙間が空いていました。これは、排泄物が下に落ち、床に残らないようにするための工夫です。
専用の浄化槽も設置してあるので、排泄物の処理を日頃から細やかにできるようにしてあります。豚の血液検査も年に2回おこない、病気の早期発見に努めます。
養豚にかける想いについて、話を聞きました。
横島ファーム、新田龍二さんにインタビュー
豚を育てるこだわりや想いを横島ファーム代表取締役、新田龍二(にった りゅうじ)さんに聞きました。
4年前に決意したその想い
──ホームページを見ると、代々引き継いだ会社ではないことが分かります。どのような経緯で新田さんが代表取締役に就任されたのか教えてください。
新田(敬称略)──
はい。引き継ぐまでは約16年銀行員をしていました。横島ファームは、高校のときの同級生の父親が経営をしていたんですね。クラスのなかでもかなり仲が良かった同級生とは、卒業後も連絡を取り合って飲みに行っていました。今でもお盆や正月になると、必ず飲みに行くんですよ。
あるとき「父が高齢になり、継続して管理するのが難しくなった。養豚場を閉鎖するが、興味はあるか」と話がありました。
そこで「どんな環境で豚を飼育しているのだろう」と気になって、ひとまず養豚場へ行ってようすを見てみることにしたんです。
視察した後に、土産に豚肉をもらったので食べてみることに。
「ん!?うまい!うまいぞ!」
そのとき、あまりのおいしさに体に衝撃が走ったんです。今までスーパーマーケットなどで購入していた国産の豚肉とは、まるで比べものにならなかった。このおいしい豚肉がなくなってしまうのはダメだと思いました。その後、養豚場を引き継ぐにあたって同級生のいる東京まで相談しに行きました。「大変だから、やめとけ」と言われましたけど(笑)。それでも、諦めきれなかったんですよね。
「横島ファームの豚肉を食べてもらいたい」
「育て方やエサでおいしさが全然違うんだよ」
「おいしく食べてもらう仕組みを後世に残していきたい」
僕は強くそう想い、前オーナー渡壁(わたかべ)さんの事業を引き継ぐ決意をしました。
それが2020年の出来事になりますね。
過去には一時生産をストップしたこともあった
──まったく違う職から一転、会社を引き継がれたのですね。相当な苦労があったのではないでしょうか。
新田──
そうですね。会社を引き継いだころが、ちょうど新型コロナウイルス感染症が流行り始めた時期だったんです。その影響でエサ代が高騰し、一度エサの配合を変えたことがありました。その結果、理想とかけ離れた味に仕上がってしまったんです。
「これでは販売できない」
それから、配合は今までどおりに戻して自分たちが合格とする味になるまで生産にストップをかけました。毎月試食を繰り返し、販売を再開できるようになるまでに約10か月もの時間を費やしました。
今は、いかにおいしい味に仕上げるか工場長と研究しています。
おいしさを直接届けるために対面販売を徹底
──SNSを見ているとよくイベントに出店している印象があります。販売方法にもこだわりがあるのですか?
新田──
わたしたちは、生産者の顔が見えるような販売をしようと常に心掛けています。
国産と書いてある商品だとしても、環境、エサ、生産者のことはあまり知られていません。だからこそ、安心、安全だということを身をもって証明したい。その想いから、販売は対面にこだわっています。イベントに出店したときには、自らお店に立って販売します。
もっとわたしたちのことを知ってもらうために、最近ホームページもリニューアルしました。豚舎のようすを載せて、なかが見えるように工夫しています。
素材の良さが伝わる瞬間
──お店に立つと、お客さんの反応を直接感じられますね。
新田──
「おいしいからまた買いに来たよ!」
「味が忘れられない」
と、リピートしてくれるお客さんが多くいます。食べてもらった人へ、素材の良さが伝わることが何よりうれしいですね。
うつみ潮風豚をメニューに取り入れているお店からは、「お肉がおいしいですね!」とお客さんが反応してくれたとの声をいただいています。
新店舗オープンに向けて
──今後の展望を教えてください。
新田──
福山市大黒町に新店舗を12月中旬ごろオープン予定です。
新店舗では精肉販売に加え、商品を調理したものが店内で飲食できるようにしようと考えています。移動販売も拡大する予定です。また、クラウドファンディングの準備が進行中で、その応援メッセージも募集しています。みなさんの応援が励みになりますので、よろしくお願いします。
今まで直売所は内海町にしかなかったので、まだうつみ潮風豚を食べたことがない人はぜひお越しください!これからも、さらに質の良いものをみなさんに提供できるように目指します。
おわりに
うつみ潮風豚を初めて食べたときには、驚いてひと口ずつ味を噛みしめた記憶があります。
「こんなに豚肉っておいしかったっけ!?」
一瞬で大ファンになりました。
しかし、おいしい豚を育てるには大変なコストや手間ひまが必要です。その労力は計り知れません。それでも新田さんは、自宅から約40分かけて365日休みなく豚舎へ豚のようすを見に行きます。そこにあるのは、食の安全を届けたい、おいしい豚肉を食べてほしい、という想いです。
新田さんの愛情がたっぷり注がれたうつみ潮風豚。ぜひ、一度味わってみてください。