最強PMOが予測! AI時代のPMOに求められる役割とスキルは?【連載Vol.12】
エンジニア時代に知りたかった「開発現場の難所」突破のコツ
私は長年PMOとして、さまざまな開発プロジェクトに携わってきましたが、ここ数年で、AIや自動化技術が急速に進化し、それに伴ってPMOの役割や責任もまた急速に変化しているように感じています。
その変化とは一体何なのか。この具体的なトレンドや私自身の経験を交えながら、PMOの新しい役割について深掘りしていきたいと思います。
株式会社office Root(オフィスルート)
代表取締役社長
甲州 潤(こうしゅうじゅん)
国立高専卒業後、ソフトウェア開発企業でSEとして一連の開発業務を経験し、フリーランスに転身。国内大手SI企業の大規模プロジェクトに多数参画し、優秀な人材がいても開発が失敗することに疑問を抱く。PMOとして活動を開始し、多数プロジェクトを成功へ導く。企業との協業も増加し、2020年に法人化。さまざまな企業課題と向き合う日々。著書『DX時代の最強PMOになる方法』(ビジネス教育出版社)
目次
PMOの今後を占う? 「BPaaS」の潮流【トレンド①】今、PMOに求められるのは「ビジネスチャンスを生む力」【トレンド②】中立的なコンサルティングスキルを磨くと吉【トレンド③】生成AIの進化で「本質的な役割」が明るみに【トレンド④】部門横断型プロジェクトの増加PMOが「ビジネス価値創造」の中心的な存在になるという覚悟書籍紹介
PMOの今後を占う? 「BPaaS」の潮流
PMOを取り巻く役割の変化をご説明する前に、抑えておきたいキーワードが「BPaaS(Business Process as a Service)」です。
例えば、業務で必要なツールの導入を検討する場面を想像してください。その場合、既に使っているツールや使用する人の業務への影響、関連部署との連携を踏まえた上で、選定をすると思います。その際に気を付けたいのは「どんなツールを使うか?」ではなく、「ビジネスで実現したいこと」を定義することだったりするのですが、ここをうまく見極め、ベストな判断をしていくのはなかなかの難易度です。
そんな時に役立つのが、ビジネスプロセスの構築から行ってくれる「BPaaS(Business Process as a Service)」です。
“ビーパース”と読むこのキーワードを「聞いたことがない」という方も多いかもしれませんが、実はすでにみなさんがよく使っているものにもBPaaSサービスがたくさんあります。
チャットツールでいえばslackやチャットワークがそうですし、会計ソフトでいえば、freeeや弥生会計もこうした外部のクラウドサービスに該当します。さらに顧客管理や営業支援でいえばSalesforceもBPaaSのサービスです。これ以外にも、多くの企業でさまざまなツールが取り入れられています。
BPaaSとは、ビジネスプロセスをアウトソーシングすることによって効率化を図るクラウドサービスのことを指します。
そして、これらのサービスは単に生産性を向上する、あるいは人的リソースを削減することにとどまらず、新たなビジネスチャンスを創出できるサービスになるはずです。
ですが、こうした画期的なツールが発達する一方で、実際には「それを使いこなせない」あるいは「導入すれば全ての問題が解決するはず」と楽観視して結局課題解決に至っていない、そんな企業も多く存在します。ここにPMO活用のヒントがあると私は考えています。
そこで今回は、具体的なトレンドや私自身の経験を交えながら、PMOの新しい役割について深掘りしていきたいと思います。
【トレンド①】今、PMOに求められるのは「ビジネスチャンスを生む力」
当たり前のことですが、特定のツールが問題を解決するのではありません。企業に眠るビジネス課題を解決するためには、ツールそのものよりも、それをどう活用し、どのようにビジネスプロセスに組み込むかが重要です。
さらに言えば、ツールの機能を最大限に活かすためには、企業文化や業務プロセスを正しく理解し、「その企業にマッチしたツールを選ぶ」ことが重要です。
こうした場面でPMOがまずすべきなのは、クライアントが単なるツールの導入で満足しないよう「運用支援」を行うことです。ツール導入前・導入後に業務フロー全体を見直し、トラブルがあれば適宜運用を見直すことが必要です。
また「ツールの機能が被っていることに気づかず運用をしている」場合も多いので要注意。「そんなことありえないでしょう」と思うかもしれません。しかし、管理者が異なる労務管理ツールと勤怠ツールを機能が重複しているにもかかわらず使用していて、コストが2倍にかかっていた……なんてことも実際の現場ではあるのです。
「どんなツールを使うか?」にはフォーカスせず、ビジネスプロセスを一つの単位として利用していく。この、ビジネスプロセスの構築や整備に関してPMOの右に出るものはいません。まさにPMOの能力が最も活かせる場面となるはずです。
【トレンド②】中立的なコンサルティングスキルを磨くと吉
前項のツールの適正利用をしていく際に、大事な点がもう一つあります。それは「中立的な立場でクライアントをサポートすること」です。PMOといえど、特定のベンダーに出入りしているとどうしてもその会社をひいきしてしまい、ベンダーに関連した商品やサービスを選んでしまいがちです。
しかし、言わずもがなこうしたポジショントークは、クライアントにとって「デメリット」となる場合もあります。ベンダーの自社製品・サービスのメリットデメリットも把握したうえで、他社製品も含めてきちんと検討する。簡単なことではありませんが、それができるPMOが今後はさらに求められていくと感じます。
私自身、これまでの経験の中で、複数のベンダーが関与するプロジェクトを数多く手掛けてきました。例えば、ERP(基幹業務システム)の導入プロジェクトでは、SAPやOracle、Microsoft Dynamicsといった選択肢がありましたが、クライアントの業界特性や組織規模、既存のシステム環境を考慮し、最適な提案になるように意識して取り組んできました。
本当にクライアントにとって適切なシステムというのは、機能性だけのことではありません。業務プロセスを最適化できるか、さらにはそこに在籍する社員がツールを使いこなせるか、またツールによってコスト削減や売上拡大などのメリットがどう生まれるか。さまざまな視点を持ったうえでコンサルティングをすることが重要です。
「いやいや、そこまでPMOの仕事なの!?」と驚いたかもしれませんが、「イエス」と言わざるを得ません。作業がAIにとって代わられつつある今だからこそ、PMOにはこのような一歩も二歩も進んだ動き方を求められるようになるのです。
【トレンド③】生成AIの進化で「本質的な役割」が明るみに
ご存じのように、生成AIの台頭が私たちの働き方を大きく変えています。以前であれば、数百件の課題管理やデータ分析など何時間もかかっていた作業は、AIを活用することで瞬時にできます。業務効率が圧倒的に向上しました。実際私自身も、プロジェクトの進捗状況をリアルタイムで把握し、課題をいち早く特定するためにAIツールを活用しています。
2025年は単なる業務効率化にとどまらず、おそらくはAIを組み合わせることによって、新しいビジネス価値を生み出す動きが活発化していくでしょう。例えば、これまでできなかった企業の新たな取り組みや新規事業といったアイデア出しなどが、より活発になると思います。
しかし、繰り返しになりますがこれらの情報を体系的に理解し、「この企業にとってもっとも有益な一手は何か」を導き出すのが、これからのPMOに求められる本質的な役割だと認識しています。AIは(今のところ)業務を補助してくれる存在に過ぎません。最終的な事業の意思決定やプロジェクトの方向性を定めるのは人間です。
AIを適切に活用し、クライアントにとって最大の利益をもたらすためにどんな戦略をとるべきか。そのアドバイザーとしてもPMOは、十分その存在感を発揮できるでしょう。
【トレンド④】部門横断型プロジェクトの増加
もう一つ注目すべきトレンドは、部門を横断するプロジェクトが増えていることです。従来のように特定の部門内で完結するプロジェクトは減少し、営業部門と経理部門、さらにはIT部門が連携して取り組むプロジェクトが主流となっています。
例えば、あるクライアント企業では営業部門がチャットツールを導入し、経理部門が従来のメールベースのコミュニケーションを続けていたため、情報共有がスムーズに行われていませんでした。このような状況では、単に新しいツールを導入するだけでは問題は解決しません。
この時にPMOとしてまず行うべきは、
1.両部門の業務フローを詳細に分析すること
2.どのような形でプロセスを統合すれば、効率的で効果的な結果が得られるかを設計すること
この二点です。
このような部門横断型プロジェクトでは、PMOの役割は単なるプロジェクト管理者ではありません。ビジネスプロセス全体を俯瞰し、最適な提案ができるプロフェッショナルとしての資質が問われます。こちらもトレンド③同様、担うタスクは重いですが、それこそPMOの存在意義だと私は考えています。
PMOが「ビジネス価値創造」の中心的な存在になるという覚悟
今回は、2025年におけるPMOの役割の予測についてお伝えしました。
従来の「プロジェクト管理者」という枠を超え、ビジネスプロセス全体を設計、最適化し、クライアントのビジネス成功を支援するプロフェッショナルとして、業務範囲はさらに広くなっていくでしょう。それに伴い、新たなツールや技術の知識だけでなく、リスク管理や各業界のトレンド、クライアントのビジネスニーズを深く理解するスキルが必要になります。
ハードルが少し高く感じるかもしれませんが、目の前にある課題をひとつずつクリアしていくことしかありません。「次世代PMO」になるべく私自身もまた、日々AIを含む新たなツール、ソリューションにトライし続けています。
ぜひ一緒にPMOの存在価値を高められたらと感じています。新年一回目、非常に大きな話になってしまいましたが(笑)本年もどうぞよろしくお願いいたします。
書籍紹介
『DX時代の最強PMOになる方法』
著:甲州潤
▼こんなエンジニアはぜひお読みください。
・今の仕事に不満を持っていて、現状を変えたいと思っている
・給料をアップしたい
・エンジニアとしての将来が不安だ
・キャリアアップをしたいが、何をしたらいいかわからない
・PMOに興味がある
・PMOとして仕事をしたい
【目次】
第1章 一番稼げるIT人材は誰か
第2章 これからはPMOが1プロジェクトに1人必要
第3章 SEとPMOの仕事は何が違うか
第4章 稼ぐPMOになる7つのステップ
第5章 優秀なPMOとダメなPMOの見抜き方
第6章 PMOが最低限押さえておきたいシステム知識とスキル
第7章 システムは言われた通りに作ってはいけない
第8章 どんな時代でも生き残れる実力をつけよう
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