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元OSK日本歌劇団の洋あおい、松竹新喜劇・藤山扇治郎にも「お母さんみたい」と感じさせる、劇団の軸としての心意義

SPICE

右から洋あおい、藤山扇治郎 撮影=井川由香

11月16日(土)に大阪松竹座で幕を開ける『11月松竹新喜劇公演』。演目は、1981(昭和56)年9月の中座以来、43年ぶりの上演となる「砂糖壺」と、初企画「松竹新喜劇 演目総選挙」で1位を獲得した名作「人生双六」だ。先日、大阪市内で藤山扇治郎、渋谷天笑、曽我廼家一蝶、曽我廼家いろは、曽我廼家桃太郎、そして、ゲストで松竹新喜劇初出演の洋あおいが登壇しての製作発表が行われた。SPICEでは、製作発表での意気込みコメントと、「砂糖壺」で親子を演じる洋と扇治郎の対談の模様もお届けする。

右から曽我廼家いろは、渋谷天笑、藤山扇治郎、洋あおい、曽我廼家一蝶、曽我廼家桃太郎

●洋あおい「ウルトラファイトで頑張る!」

製作発表では、それぞれ次のように意気込みを語った。

藤山扇治郎:「砂糖壺」で元OSK日本歌劇団トップスターの洋あおいさんにご出演していただきます。今回は洋さんとガッツリ親子の役で共演させていただけるということで、本当に嬉しく思っております。この作品は親子の情愛を描いた落語の「芝浜」の松竹新喜劇版で、よく書かれた物語だと思います。私が息子で、洋さんが破天荒なお母さんの役ですけれども、最後にはほっこりと、お客様に「いいお芝居だったな」と喜んでいただける作品にしたいと思います。

渋谷天笑:演目総選挙で選ばれた「人生双六」で、浜本啓一を勤めさせていただきます。この演目は6年前にも出演させていただき、すごく大好きな作品です。演じるうえで年齢を重ねていくほど良くなる作品だと思っています。私も年齢を重ね、結婚をするなど、いろいろと経験をしたので、また新しい「人生双六」が生まれるのではないかと思っております。

曽我廼家一蝶:今回、私の夢が一つ叶った公演となりました。「人生双六」は私が初めて松竹新喜劇を観た時に上演されていた演目で、「演目総選挙」で1位になったと知った時、なるほどなと思いました。以前、浜本啓一役をやらせていただいた時は天笑くんとダブルキャストでしたので、今回は初日から千穐楽まで宇田信吉として生きていきたいと思っております。少しでも先輩方や藤山寛美先生が演じてこられた宇田信吉に近づけるように全身全霊でつとめる所存です。この作品は松竹新喜劇のすべてが集まった作品だなと常々思っておりますので、今回、お客様にはザ・松竹新喜劇という「人生双六」をお見せしたいです。

曽我廼家いろは:前回の「人生双六」では、私は浜本啓一の奥さんの役を演じさせていただきました。今回も同じ役を演じさせていただきますが、キーパーソンの役でもありますので、頑張って勤めたいと思っております。「砂糖壺」では、舞台となる和菓子屋の近所の質屋の娘を演じさせていただきます。こちらははっちゃけた役ですので、また違った一面を届けられたらと思っております。また、洋さんがどんな破天荒なお母さんを見せてくださるのか、すごく楽しみですし、私も勉強させていただきたいと思っております。

曽我廼家桃太郎:私は、「砂糖壺」では藤山扇治郎さん演じる庄太郎の友人でキッカケを作る役を、「人生双六」では曽我廼家一蝶さん演じる宇田信吉の人柄の良さを引き立たせるような役を勤めさせていただきます。一つのお芝居を作り上げるには、一歩引いて、引き立たせる人間も必要でございます。我々全体でいい作品を作り上げることが大事でございます。何事もバランスですね。個人的なことで言いますと、昨日、サツマイモご飯を作りまして、サツマイモの甘さを際立たせるためにお塩をちょっと入れたんですけれども、少しお塩を入れすぎたようでした。このお芝居ではいい塩梅でやらせていただきたいなと思います。​

洋あおい:今回、初めて松竹新喜劇にゲストとして呼んでいただきました。10年前に『道頓堀喜劇祭り』(2014年大阪松竹座)で扇治郎さんの母親役をさせていただいたのですが、そんなに絡みはなかったので、今回は「砂糖壺」でしっかりと、がっつりと、お芝居させていただきます。役柄は素顔のご自分とは正反対ですが、破天荒に生きていく女性を演じたいと思います。松竹新喜劇は祖母に手を引かれて子どもの頃から拝見しておりました。藤山寛美先生の作品も大好きでございました。今回、このような形で私が出演させていただけることに感動と感激でいっぱいです。緊張感もありますけれども、ウルトラファイトで頑張っていきたいと思います!

●洋と扇治郎、話が止まらない様子はまるで本当の親子のよう

右から洋あおい、藤山扇治郎

続いては、洋あおいと藤山扇治郎による「親子対談」を。

――おふたりは2014年の『道頓堀喜劇祭り』で初めて出会われたとのことで、洋さんからご覧になって10年前から扇治郎さんの印象はどのように変わりましたか?

洋:10年前の扇治郎さんはまだ若かったというのもありますけど、かわいらしさがあって、でもすごく一生懸命でした。それは今も変わっておられないのですが、今年5月に大阪松竹座での『松竹新喜劇 喜劇発祥120年』を拝見した時に、立派な役者さんになられたなと思って。(扇治郎が出演した)「幸助餅」で泣きました。TENSHO座 Vol.3『熱海殺人事件』(2024年6月DAIHATSU 心斎橋角座)でも熱演されていた姿を拝見して、すごく成長されているなと本当に思いました。今回は共演させていただくということで、私の方がちょっと緊張しています。でも緊張しすぎるといいものが出ないので、まだ分かっていない自分を、演出家のわかぎゑふ先生に引き出していただいて、扇治郎さんと舞台で暴れまわるイメージで頑張りたいと思います。扇治郎さんはご結婚もされて、お子さんもいらっしゃるでしょ。お父さんの顔をされていますよね。自分では産んでおられないけど(笑)、自分のお子さんはやはりかわいいいですか?

扇治郎:ハハハ、仰る通り、自分で産んでいないのですが(笑)、かわいいですね。

洋:当たり前やけど、似てはるもんね。

扇治郎:そうですね、仕草とか、いろんなところが。不思議だなぁと思います。

藤山扇治郎

――扇治郎さんは洋さんとの共演にどんな期待をされていますか。

扇治郎:劇団にいるとなかなか外部の役者さんとの共演の機会がなくて。そういう意味では、劇団の外から、10年前からずっと僕を見続けてくださっているので、勝手に「ほんまに自分のお母さんみたいやな」と思って嬉しくなりました。洋さんが稽古場にいてくださるだけでほっとするんですよね。ホワッとした空気を放出されていて。稽古場でそういう空気が出せる方はなかなか少ないので、すごく安心感、信頼感があります。今回、ご一緒させていただくことにも感謝しています。ありがとうございます。

――扇治郎さんは、洋さんのどういうところにお母さんみたいだなと思われたのでしょうか。

扇治郎:洋さんはOSKという劇団でずっと修行されていて。劇団も一つの家族ですよね。ずっと一つの劇団にいてありがたいところは、先輩が父親に見えたり、たとえば(劇団最高齢の)髙田次郎さんがお祖父さんに見えたりと、自分の中で家族みたいな気持ちになっていくんです。それがすごく大事だなと思って。自分ももっと年を重ねた時に、洋さんのような空気感が出せるくらいの表現者、人間になっていかないといけないと思いますね。特にフワッとした空気感を出すのはなかなか難しいと思います。洋さんはピシッとされるところはピシッとして、フワッとするところはフワッとして、両方の雰囲気を持たれているのすごいなと思います。

洋:私は今、大阪桐蔭高校吹奏楽部の振付を担当させていただいているのですが、それこそ高校生たちは孫のような存在です。自分には結婚の経験もなく、出産もしていないですが、高校生の方たちと接することで母性本能が出てきたのかもしれないですね(笑)。

洋あおい

――松竹新喜劇は昨年から扇治郎さんをはじめとする若手5人が軸になりました。洋さんがOSKのトップスターの時は、どのように劇団をまとめていたのでしょうか。

洋:2番手の時はトップの方の後ろで言いたいことを言っていましたが、自分がトップという劇団の傘になった時、集客のことなど身をもって目の当たりにしました。そこから下手だろうが何であろうが自分は一歩も引かないという精神を養いました。あと、私は細かいことを気にするタイプで、悪いふうに捉えるような性格だったのですが、みんなの太陽になろうと。太陽のようになって、みんなを照らせるようになったらいいんやと。後輩から見たら「もう頼りないわ、洋さんは先輩やけどお世話してあげないとあかんわ」という存在だったとしても、「洋さんがおってくれな困んねや」と言われるようにならないと、と思いましたね。

扇治郎:本当に勉強になります。今お話を聞いて、洋さんはすごく気にされるタイプだったけど、それを乗り越えて、自分が太陽になる。素晴らしいことだなと思いました。だから優しさが出てくるんだと思います。「砂糖壺」には「優しさって何やろう」というテーマがあるのですが、酸いも甘いも経験したからこそ、人を照らす力が出てくる。その心の大きさが優しさにつながるんだと思います。「砂糖壺」で演じる息子も、どんな破天荒な母親であっても受け止める。その中には愛情がある。祖父(藤山寛美)もそういう人だったと。めちゃくちゃ借金したけど、繊細な人だったと思うんです。繊細さと大胆さの両方を持ち合わせているからこそ、人の優しさとか、苦しみが分かるんだと思います。

洋:私は元宝塚歌劇団の汀夏子さんが大好きで、コラボをさせていただいたこともあったのですが、汀さんは、自分の目の前にいらっしゃるような舞台をされるんです。新喜劇では藤山寛美先生がそうですね。お客様がみんな、寛美先生と同じような気持ちで、一緒に泣いていらっしゃる。私もお客様に境界線を引かないで伝えることを目指しています。なかなかそこまでいかないですけど、頑張ろうと思います。

右から洋あおい、藤山扇治郎

扇治郎:洋さんもいろんなご経験をされて、今の自分がある。今回、洋さんとは劇団の話もできますし、芝居の話もできるので、とても嬉しいです。やっぱり劇団って特別ですもんね。

洋:そうですね。扇治郎さんは10年前(共演した際)、先輩からいろいろ教わったり、怒られたり、激励されながら、でもへこたれない強さを持ってはって。あの時、寝てはれへんかったんちゃうかなっていうぐらい、本当に一生懸命されていて。

扇治郎:いえ……ガッツリ寝ていました(笑)。先輩に恵まれた10年でした。厳しさを感じながら、愛情も感じていました。今となっては、あの時、怒られてよかったなと思いますし、あの頃の経験が実になっていると思います。10年経って、ほんまに分かってほしいがために怒ってはったということが分かって、自分が今度、その立場に立った時、太陽のような存在で後輩に教えられたらいいなと思います。

洋:苦労は無駄にならないと言いますもんね。私も「なんでこんな苦労せなあかんねん」と思う時もありましたけど、「大変な時というのは、自分が大きく成長して変わる時」と聞かされて、ああ、そうかと思いました。

――洋さんは寛美さんの舞台も、扇治郎さんの舞台もご覧になっていますが、扇治郎さんと寛美さんに通じるものをお感じになることはありますか?

洋:ありますね。扇治郎さんは、お祖父さまの演技をすごく研究されていて、努力されているんだと思うのですが、それがモノマネじゃない。寛美先生も、(叔母の藤山)直美さんも独特の間合いをお持ちですが、扇治郎さんにもちゃんとそれがある。これは確実にDNAですね。扇治郎さんが『新・親バカ子バカ』(2017年)をされた時、寛美先生のように見得をする時にお尻をくっと上げるような仕草をされましたが、あれはモノマネでできるものではないと思いました。そういったDNAがあったうえで、オリジナルをお持ちですよね。「幸助餅」では泣きました。グッときて感動しましたね。

扇治郎:そう仰っていただけて嬉しいです。ありがとうございます!!

右から洋あおい、藤山扇治郎

取材・文=Iwamoto.K 撮影=井川由香

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