九州高校体育大会 柔道女子 親子鷹で夢舞台を追う手島みづき(大分西3年) 【大分県】
母がオリンピアン。そんな肩書きを背負う高校柔道家がいる。大分西の手島みづきだ。今夏の全国高校総体の女子個人57kg級に挑む手島は、母から受け継いだ「背負い投げ」を最大の武器に、日本一を目指す。
母・桂子(旧姓・前田)は、大学2年時に世界選手権で全試合一本勝ちという圧巻のデビューを果たし、その後シドニー五輪にも出場した実力者。父も柔道経験者であり、手島は柔道一家に育った。ただし、本格的に競技に打ち込んだのは中学に進学してから。幼少期、畳の上に立つことはあったが、それはあくまで「お遊び」。あえて距離を置かせた。「自分の意思でやりたいと思う時が来るまで待ちたかった」と母は語る。
今は稽古では師弟、家庭では母娘。境界を行き来する柔らかな関係がある。「お母さんのことは本当に好き」と手島は笑う。料理が得意で、最近はヨガに通い始めた母の姿を、尊敬のまなざしで見つめている。
母直伝の背負い投げが得意技
そんな母が手島に授けたのが「背負い投げ」だ。手の位置、腰の上げ方、相手の懐に入る感覚まで、細部にわたって伝授した。ただし、自分の型をそのまま教えることはない。「体格も違えば感覚も違う。同じようにはできない」と母は言う。「ああしろ」ではなく、「こうしてみるのはどう?」と、寄り添う言葉で導く。高校時代、自身が父からの指導を素直に受け止めることができなかった経験があるからこそ、娘には柔らかく接する。
6月の全九州高校体育大会では3位に終わった。準決勝後、母から「焦るけんや〜」と笑顔で声をかけられたという。心の揺れも、母には手に取るように分かるのだ。試合の映像を一緒に見返しては反省点を語り合う。母は言う。「もっと面白い柔道を知ってほしい」。休みの日には一人で走りに行く娘の姿を見守りながら、努力を知る者として、そして柔道家の先輩として、そっと背中を押してきた。
高校最後の全国総体。手島にとっては集大成であり、母の背中を超える大舞台でもある。「世界一を目指せとは言わない。悔いのないように、自分らしく戦ってほしい」。それが母の願いだ。車で会場に向かい、共に帰る親子の姿には、優しさと強さが同居する。令和の親子鷹。その背負い投げには、二人で紡いだ物語が込められている。
全国総体で母超えを目指す
(柚野真也)