Nothing's Carved In Stoneの真髄を味わうレア曲まみれの夜、coldrain・Masatoのサプライズ登場も
Perfect Sounds 〜For Rare Tracks Lovers〜 2024.11.15 Zepp DiverCity(TOKYO)
「相当な、レア曲好きの強者が集まってるって聞きましたけど──」
村松拓(Vo/Gt)の投げかけに「うおぉー‼︎」という前のめりな歓声が応える。この日のワンマン『Perfect Sounds』は、“For Rare Tracks Lovers”というサブタイトルが示すように、今年2月に開催した日本武道館公演で演奏された曲"以外”のレア曲縛りで行われたもの。他のバンドで何度か同様のコンセプトのライブを観たことがあるが、レアな、言うなればマニアックな選曲に垂涎のテンションで挑んでくるオーディエンスたちばかりだから、必然的にボルテージは異様に高くなるケースがほとんど。しかも今回はNothing's Carved In Stoneである。定番曲にだって相当ネジの外れた曲が多いのだから、レア曲となると一体どんな曲が飛び出すのか、どんな空間が生まれるのか。見当もつかない。
開幕を告げる生形真一(Gt)のギターフレーズにワッと沸き、「行こうぜ!」と村松が気合いを入れる。開放的なサビでは場内から一斉に手が挙がり、ビート感満点のCメロには血湧き肉踊る。1曲目は3rdアルバム『echo』収録の「Truth」だ。オープニングSEとなっている「Material Echo」からこの曲へという流れはアルバム収録順通り。いやあ、ニクいことをするじゃないか。間髪入れずに続けたのは「Crystal Beat」で、こちらはシングル「Out of Control」のカップリングである。以降、15曲目までは9thアルバム『Mirror Ocean』までのアルバム曲とカップリング曲しかやらない、文字通りレア曲揃いの展開が続くことになった。
シンセも交えたスケール感の大きなダンスナンバーぶりと、平歌部分でセクシーにうねりまくる日向秀和(Ba)のベース、トリッキーでテクニカルな間奏部分など目まぐるしく表情を変えていく「Our Morn」。サビのハーモニーなど非常にキャッチーな要素を有しつつ、大喜多崇規(Dr)のドラムが5拍子の変則的間奏を端正に引き締める「Bone Age」。フォークやカントリーの香りを纏いつつアンセムとしての破壊力も抜群な、“攻撃力に全振りしたコールドプレイ”みたいな「Raining Ash」のイントロでは、フロアからの完成に一際驚きのニュアンスが混じった。そこからハンドマイクの村松がアカペラで歌い出したのは「Discover, You Have To」だ。ワイルドなビートと歯切れの良いアンサンブルを背負い、ステージ最前まで出てフロアを煽りつつ歌う姿には風格が漂う。
ここまでを前半とすると、レア曲なのは間違いないものの、どちらかといえば「なんで普段やらないんだろう?」という曲が多かったように思う。つまり、ナッシングスの音楽性においては比較的真ん中寄りの性格をしているものの、似たようなポジションの曲が他にあったりして演奏される機会が無くなっていた曲たちなのではないだろうか。レア曲がレア曲たる所以は二つあり、一つはそれである。そしてもう一つの理由は、あまりに尖った性能・性格をしているために、加えて演奏面での負荷の高さもセットとなったりしてセットリストからはみ出してしまうケースだ。ただし、そういう曲にこそバンドが根っこで持つ美学が宿っていたりもするもの。で、後半にかけてはそういう曲がバンバン飛び出すことになる。
「GOD HAND GAME」は、冒頭のベースからドラム、ギターと加わるたびに別曲のように様相を変える、予測不能なリズムとテンポで迫り、寸分の狂いもないラストのキメを目の当たりにした場内からは「最高!!」の声が飛び、拍手が自然発生。入りのキーを間違えるというご愛嬌な一幕もあった「Sleepless Youth」こそ落ち着いたバラードの装いであったが、7拍子なのにメロディアスという発想からぶっ飛んでいる「Goodnight & Goodluck」、日向がぶっ放す生ベースから出ているとは思えないノイジーな重低音から突入し、エレクトロ系のバキッとした音像でまとめた「Sick」、変拍子と変則的展開に毒気たっぷりのリリックの詰め合わせセット「The Fool」あたりは、見るからにバンドへの負荷がMAXな曲たちだ。作った本人たちも相当だが、このあたりのゾーンで狂喜乱舞する我々もだいぶキテる。村松曰く「こっちが追い込まれるほどキラキラした目をしてる、どうかしてるぜ!(笑)」。
まとまったMCを挟むことなくテンポよくライブは進み、15曲目に演奏された「Directions We Know」のマッシヴなダンスビートが場内を揺らしたところで、奏でられたのは懐かしさとは無縁の荘厳でヘヴィなイントロ。なんと最新曲の「All We Have feat. Masato(coldrain)」を何の前フリもなくここで投下してきたのだ。しかも歌が始まってしばらくすると、ステージ袖からふらりとMasatoが現れ、雷鳴のようなスクリームを繰り出す。サビでみせた村松とのメロディアスなハーモニーも絶品で、これには観客たちも堪らずクラウドサーファーが続出した。さらに、レア曲と同じかそれ以上にイントロで歓声を呼んだ、全くレアじゃない曲──「November 15th」へ。そう、この日は彼らが毎年ワンマンを行なっている11月15日であった。
本編の最後はハードロック調の音色が広大なイメージを描き出す「デロリアンを探して」、アンコールはこの日のライブタイトルにもなっている「Perfect Sound」と、7thアルバム『MAZE』の曲たちで締め。MCでは来年2月24日に『SPECIAL ONE-MAN LIVE "BEGINNING 2025" feat.『Sands of Time』』と題し、2ndアルバム『Sands of Time』全曲披露を含んだワンマンを開催することも発表された。この日の演奏曲に『Sands of Time』収録曲がなかったのはおそらくこのためだろう。
最後のMCで村松は、“何も刻まれていない石”を意味するバンド名に刻むものとして「一緒に楽しいことを作っていけたら最高じゃない?」と言っていた。なんともシンプル。でも、実際それに尽きる。滅多にないレア曲ワンマンも、カッコいい曲を作る、楽しいことをやる、観客たちと共有するという、彼らが続けてきた最上のサイクルの上にあった。まずは2月に、そしてその先も何度も。弛まぬ“楽しさの探究”がまた新たな景色を作り出していく。
取材・文=風間大洋 撮影=RYOTARO KAWASHIMA