【佐野美術館の「名刀ズラリ」展】 刀剣と刀装具全84点。蜻蛉切、松井江、火車切も出品
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は三島市の佐野美術館で1月7日に開幕した「名刀ズラリ」展を題材に。
12日午前、展示室前に長い列ができている。「(刀剣を)最前列で見たいという方の列です」と言う係員の方の声も、ちょっとしたテンションの高まりを感じる。30人ほどの列に並んだ。
佐野美術館は1966年の創立以来、毎年刀剣の展覧会を開催してきた。今年は5年ぶりに人気ゲーム「刀剣乱舞ーONLINE」とのコラボレーション企画を実施している。列の3分の2を女性が占めていたのは、その効果か。駐車場のナンバーから類推する限り、4割は関東圏からの来場者のようだ。
1階ロビーには、刀剣を擬人化したキャラクターの蜻蛉切(とんぼきり)、松井江(まついごう)、火車切(かしゃぎり)の等身大パネルが置かれ、フォトスポットとして人気を集めていた。彼らの「元ネタ」となった刀剣も2階で見られるという趣向だ。撮影に興じるファンたちの顔は一様に上気していた。
同じロビーには、昨年2月に亡くなった渡辺妙子さん前館長へのオマージュが簡潔な文章でまとめられている。一つの空間に「動」と「静」が同時に存在していた。
美術館所蔵、付き合いの深いコレクターの所蔵品など刀剣だけで49点、装具も合わせて84点。佐野美術館の刀剣展は初心者を排除しない。これはいつものことだ。展示室に入ってすぐの柱に、刀の部位の呼称や刃文のバリエーションをきちんと説明する。これを踏まえて刀それぞれのキャプションを読めば、何となく鑑賞ポイントが分かってくる。
刀剣ファンは展示物と目の距離が近い。ガラスぎりぎりに顔を寄せ、時には体を動かしながら、目線を上下左右に大きく移し、刃文のありようを「解読」しようとする。通常の展覧会とは、ちょっと雰囲気が違う。そこがいい。
個人的には「銘 津田越前守助廣延宝二二年八月日」が気に入った。江戸時代前期製作で、刃長72.4センチのスタイリッシュな姿。対照的に刃文はひたすら波打っている。延宝年間(1673~81年)に越前守助廣が確立した濤瀾刃(とうらんば)というスタイルである。細身の刀というキャンバスに刀工が残した「跡」に、「描く」という行為とは違う人間の創作態度を感じた。
(は)
<DATA>
■佐野美術館「名刀ズラリ」
住所:三島市中田町1-43
開館:午前10時~午後5時
休館日: 毎週木曜
観覧料(当日):一般・大学生1300円、小・中学生と高校生650円(土曜日は小・中学生無料)
会期:2月16日(日)まで