「悲しみ」が物語を動かす起爆剤?悲しみの表現が与える物語への効果とは【プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑】
NO.04 悲しみ【かなしみ】
[英:Sadness ]
【意味】
よくないことが起こり、またはそれを見聞きして、沈んだ気持ちになること。
【類語】
哀情 悲嘆 傷心 哀切 哀愁 憂愁など
体(フィジカル)の反応
表情が暗くなる眉をひそめる涙が零れるため息が出る頭を抱える体が重くなる一歩も動けない嗚咽を漏らす頭が痛いうなだれる心臓が痛い喉が詰まるしゃくり上げる集中できないうろたえる声が出ない
心(メンタル)の反応
気持ちが沈むメンタルがへこむ切ない気持ち気分がどんよりする塞ぎこむ途方に暮れる悶々とするネガティブになる辛くてしんどい疲れを感じるショックを受ける落ちこむ気が滅入る物思いに耽る胸が締めつけられるちっとも楽しくない
感情表現は直接的に書かず心身の変化を具体的に描き切る
主人公が「悲しみ」に暮れるシーンは、物語を劇的に盛り上げる素晴らしい良薬だとお考えください。
言い換えるなら、主人公を天下無双で完全無欠に設定してはいけません。典型的ヒーローのウルトラマンは諸般の事情から 3 分間しか地球上で活動できません。鉄腕アトムは無敵を謳いながら、磁力とバッテリー切れに勝てません。どうせならそんな弱点を撤廃し、さっさと敵をやっつければいいのに、と思う方もいるでしょう。
それは間違いです。ピンチに陥りながら敵を倒してこそ、勝利への爽快感と満足感が倍増します。弱点なしのヒーローは存在しません。「悲しみ」も同様。苦難や災禍によって主人公が「悲しみ」に打ちひしがれてこそ、ラストのハッピーエンドを感動的に演出できます。
しかし、ただ「悲しみ」を描けばいいわけではありません。たとえば、『洋二郎はひどく悲しんだ。』という一文を書くとします。そのままだと多くの読者は「へえ。そうですか」でスルーしてしまいます。では、左ページの表現を用い、次のように書き換えてみます。
気がつけば洋二郎は涙を零していた。しゃくり上げるだけで声すら出ない。途方に暮れ、もはや一歩もその場から動けそうになかった。
「悲しみ」という語彙を使わずとも「悲しみ」が伝わってきます。喜怒哀楽すべてに該当しますが「悲しい」(形容詞)「悲しみ」(名詞)と、そのままを直接的に書いても読者の気持ちを揺さぶりません。
一方、心身にどのような変化をきたすかを具体的に描き切れば臨場感を高め、心の機微をリアルに伝える良薬として効果てきめん。物語を劇的に盛り上げ、創作を成功へと導くでしょう。
【出典】『プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑』著:秀島迅