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「子どもの権利」って何? 川崎市が具体化した「子ども会議」と「夢パ」がスゴい 他の自治体に拡げるには?

コクリコ

子どもの権利を考える第2回~川崎市の取り組み~。国内で初めて「子どもの権利条例」を作った川崎市(神奈川県)の取り組み「子ども会議」と「夢パ」とは。「国連子どもの権利条約」批准30年で“子どもの権利”の今をあらためて考える。全3回。

【写真➡】川崎市の取り組み「子ども会議」「夢パ」を見る

2024年は日本が「国連子どもの権利条約」を批准(ひじゅん)して30年。全国の自治体では子どもの権利条例を制定する動きが急速にひろがり、今では69の自治体が取り組んでいます(2024年5月現在/子どもの権利条約総合研究所調べ)。

およそ四半世紀前(2000年)、国内で初めて「子どもの権利条例」を制定したのは川崎市(神奈川県)でした。そして条例が保障する子どもたちのさまざまな権利がしっかり守られるように、いくつかの具体的な「形」を整えました。子どもたちが市長に対して提言を行う「子ども会議」と、すべての子どもたちに開かれた居場所として設置された「川崎市子ども夢パーク」です。それぞれの取り組みを紹介します。

子どもの意見がちゃんと市長に届く仕組みづくり

11月中旬の日曜日の午後。川崎市役所に子ども38人と大人26人が集まり、「子どもが考える地震のそなえ」について、活発に意見を交わしていました。

「避難所でも勉強したいと思うけれど、勉強できる場所がありません」
「避難所で遊ぼうとすると、嫌な顔をする人たちがいて遊べません。子どもが楽しく過ごせる場所を作れませんか」
「ハザードマップは、小学校低学年の子どもにはハードルが高すぎます」

これは川崎市が2002年から続ける「子ども会議」の拡大版「カワサキ☆U18」のひとまくです。「カワサキ☆U18」は、「子ども会議」の年間テーマについて、地域の大人や「子ども会議」に参加していない子どもたちと意見を交わすことで、議論の中で浮かび上がった疑問を解決したり、新しい情報を取り入れたりすることを目的に、2022年に始まりました。

この日は川崎市の福田紀彦(ふくだ・のりひこ)市長も途中から見学に訪れ、メモを片手に議論に聞き入っていました。そして会場を離れる前に、こんなメッセージを伝えました。

「川崎ではゼロ歳児から高齢者まで、ひとしく権利を持つ市民です。みなさんの意見がどう扱われ、どんな結果につながったのか、きちんとお示ししていきます」

川崎市が2002年から続ける「子ども会議」の拡大版として2022年にスタートした「カワサキ☆U18」の様子。30人近い大人も参加した。  写真:浜田奈美

ここで「川崎市子ども会議」のしくみを説明しましょう。

この「子ども会議」は、同市が全国で初めて2000年に制定し、翌2001年から施行された「川崎市子どもの権利に関する条例」の第30条に制度として定められたものです。条例にはこうあります。
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(子ども会議)
第30条 市長は、市政について、子どもの意見を求めるため、川崎市子ども会議(以下「子ども会議」という。)を開催する。
2 子ども会議は、子どもの自主的及び自発的な取組により運営されるものとする。
3 子ども会議は、その主体である子どもが定める方法により、子どもの総意としての意見等をまとめ、市長に提出することができる。
4 市長その他の執行機関は、前項の規定により提出された意見等を尊重するものとする。
5 市長その他の執行機関は、子ども会議にあらゆる子どもの参加が促進され、その会議が円滑に運営されるよう必要な支援を行うものとする
=================

この条文に従い、川崎市は小学校4年生から18歳までの市内在住か市内の学校に通う人を対象に、「子ども委員」として活動する希望者を募り、月に2回の「定例会議」を開催し、年度末に1年間の話し合いの結果を「提言」としてまとめ、市長に伝えてきました。

年間テーマは年度はじめに子ども委員たちが話し合って決めます。今年(2024)は元日に起きた「能登半島地震」の衝撃の大きさから、「川崎で地震が起きたらどうなるの?」という不安や疑問が多く寄せられたため、「子どもが考える地震のそなえ」に決まりました。

低迷期を救った飛び入り参加の導入

そもそも条例施行20周年の2022年に「子ども会議」の拡大版として「カワサキ☆U18」が始まった背景には、ふたつ理由がありました。

ひとつは、制度の開始当初からしばらくの間は、市内の子どもたちの間に「子ども委員になりたい」という機運が保たれていましたが、20年がたち、人気が低迷気味になっていったこと。もう一つは、子ども委員たちから「大人の意見も聞いてみたい」という要望があったことでした。川崎市教育委員会の担当者はこう語ります。

「子ども会議に関心はあるけれど、いきなり委員になって1年間活動することをためらう子どもたちもいる。そのため飛び入り参加できる『U18』で様子をみてもらおうという狙いでした」

狙いは的中。拡大版としての「カワサキ☆U18」を始めたところ、ふたたび「子ども会議」に活気が戻りました。そして大人の参加についても、テーマに即した地域の専門家も参加することで、子どもたちの理解を助ける結果となっています。

例えば今回の「カワサキ☆U18」では、子どもたちから要望が相次いだ「避難所の運営」を巡り、地域の防災組織関係者からこんな助言がありました。

「避難所が学校であれば、運営方針の権限は学校長にあります。『勉強をしたいから空き教室を使わせてほしい』とか、子どもからの生の意見を、大人たちに伝えてください」

すると子ども側からも、「大人たちに伝えやすいしくみが必要だよね」と意見が出て、「避難所でも、子ども会議のような場を作ろう」とか、「子どもたちの意見を取りまとめて大人に伝える役割を、中学生や高校生が担ってはどうか」といったアイデアが出ました。

参加した小学6年生の男児は「たくさん意見を出せた。大人たちが自分たちの話を真剣に聞き、一緒に考えてくれて、うれしかった」と満足げでした。この議論は「子ども会議」で続けられ、3月には市長に「提言」として伝えられます。

子どもの力を信じるビッグイベント「こども夢横丁」

もうひとつ、川崎市の「子どもの権利条例」を「見える化」した形が、すべての子どもたちに開かれた居場所「川崎市子ども夢パーク」(以下:夢パ)です。条例の第31条にはこうあります。

=================
第31条 市は、子どもの自主的及び自発的な参加活動を支援するため、子どもが子どもだけで自由に安心して集うことができる拠点づくりに努めるものとする。
=================

この条文に基づき、「夢パ」は、子どもが自分の責任で自由に遊び、ありのままでいられる場として、約1万平方メートルの土地に川崎市が建設しました。対外的には「社会教育施設」と説明されますが、実質的には子どもたちのための自由空間といえます。

土の上で思い切り駆け回り、どろんこ遊びもできる屋外広場や、雨の日でも体が動かせる全天候広場、思い切り楽器を鳴らせる音楽スタジオ。そして子育て中のママさんたちが集える乳幼児の部屋「ゆるり」、子どもたちが自由に寝っ転がれる部屋「ごろり」などがあります。

最大の特徴は、学校の中に居場所を見い出せない子どもたちが通える「フリースペースえん」を、夢パの施設内に取り入れていることです。現在40人ほどの子どもたちが「えん」にやってきて、自分のペースで過ごしてます。

川崎市子ども夢パークのお祭り「こどもゆめ横丁」にあった「来場者の方へのお願い」。「子ども達が主役のおまつりです」と記されている。  写真:浜田奈美

2024年に開催した「こどもゆめ横丁」では31の出店でにぎわった。  写真:浜田奈美

そして「夢パ」が大切にしている考え方を具体的な形にしたビッグイベントが、毎年11月にあります。子どもたちが思い思いの模擬店をつくり、1日店長を務め、実際の現金を使ってモノやサービスを売る「こどもゆめ横丁」(以下:横丁)です。

「横丁」の参加条件は、子どもたちだけですべてをやり切ること。廃材を使った模擬店づくりも、「横丁」当日に何を販売するかも、一切、大人に助けてもらってはいけません。

毎年10月下旬になると、夢パでは子どもたちが釘と金づちとペンキを使ってお店を作り上げる光景が見られます。親たちは、手伝いたいところをぐっと我慢し、黙って見守ります。

今年(2024)は31組が参加し、合計約65万円を売り上げました。「横丁」では各自の売り上げの1割を「納税」するきまりで、「税金」の使い道も子どもたち自身で決めます。今年も自分たちの「税金」を何に使うか、「横丁会議」で話し合いました。

「横丁」の当日、市内在住のマユミさん(35)は、2回目の参加を果たした長男の様子を、笑顔で見守っていました。長男のチームは保育園児と小学校低学年の計4人で、「輪投げ屋」を運営。平均年齢が「ひとけた」の幼いチームでしたが、模擬店もしっかり自分たちで作りました。

マユミさんは、長男たちが初めて参加した昨年、事前の説明会で「幼い子どもたちなので、建物も完成しないかも。大丈夫でしょうか」と、運営スタッフに尋ねたそうです。こう振り返ります。

「そうしたら『途中までしかできなくても、当日はその状態でやればいいんです。参加したいと思う本人たちの意志を尊重しましょう』と言ってくれました。子どもを信じきる考え方に、感動しました」

露店を建てる作業中、ケガをした子もいたそうですが、マユミさんは「何をどうすればケガしてしまうのかを理解する、大切な経験になりました」ときっぱり。イベントを終え、仲間と売り上げを計算していた長男からは「来年もやる!」と、力強い宣言も飛び出しました。

「横丁」のひとこま。あちこちの模擬店に行列ができていた。  写真:浜田奈美

川崎市の「子どもの権利に関する条例」は、「自分で決める権利」や「参加する権利」を子どもたちに保障しています。「横丁」では子どもたちが力いっぱい自分の権利を行使し、大人たちはその権利を侵さない「ふるまい」を学ぶ機会となっているのです。

次回は、全国各地の「子どもの権利」にまつわる条例をご紹介します。

取材・文/浜田奈美

フリーライター浜田奈美が、難しい病や障害とともに生きる子どもたちが子どもらしく過ごすための場として横浜に誕生したこどもホスピス「うみとそらのおうち」での物語を描いたノンフィクション。高橋源一郎氏推薦。『最後の花火 横浜こどもホスピス「うみそら」物語』(朝日新聞出版)

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