「子どものうつ病」親の無理解が悪化させる? 「死んじゃダメ」「大丈夫」とは言わない親の見守り方 専門医の解説
うつ病の子どもに親ができること、適切な見守り方について。北海道大学病院子どものこころと発達センター特任教授・齊藤卓弥先生に聞く「子どものうつ病」。(第3回/全3回)。
【写真を見る➡】コスパ抜群の知育おもちゃ「LaQ(ラキュー)」いいところ・よくないところ北海道大学病院子どものこころと発達センター特任教授・齊藤卓弥(さいとう・たくや)先生に聞く、子どものうつ病。第1回は子どものうつ病が見逃されやすい理由、第2回はうつ病になりやすい子どもの特徴と治療について伺いました。最終回となる第3回は、うつ病の子どもに親ができること。
わが子のうつ病を疑ったとき、うつ病になったとき、親はどのように向き合い見守ればよいのでしょうか。親の適切な対応について、齊藤先生に伺います。
●齊藤 卓弥(さいとう・たくや)PROFILE
北海道大学病院子どものこころと発達センター特任教授、児童思春期精神医学専門医。アルバート・アインシュタイン医科大学(米)精神科助教授、日本医科大学精神医学教室准教授を経て、2014年より現職。
「子どもにとって、親は最後の砦。親御さんはご自身の精神的ケアもしながら、お子さんを見守ってもらえたら」と齊藤先生。 写真:Zoom取材より
変化に気づいたら信頼できる相談機関へ
──親として、わが子がうつ病にならないために気をつけることは何でしょうか?
齊藤卓弥先生(以下、齊藤先生) これまで(#1、#2)お話ししたとおり、子どものうつ病は学童期(6~12歳ごろ)から見られ、12歳以上では大人と同じ程度の発症のリスクになり、問題視されています。
症状は大人と違った表れ方をすることもあり難しいのですが、そうしたサインにいち早く気づくことが大事だと思います。うつ病の回復には、早期発見・早期治療が重要です。
親は子どもの変化に敏感なものですが、「急にイライラし出した」「食欲が増えた、または減った」「寝ている時間が増えた」といったお子さんのサインを見逃さないでいただきたいです。もちろん、数日で元に戻ればよいのですが、長期化するようであればうつ病を疑い、信頼できるところに相談することをおすすめします。
相談先としては、まずお子さんが通う学校が身近でよいと思います。児童精神科はそもそも数が少ないですし、いきなり精神科を受診するのは抵抗がある親御さんも多いはずです。学校と連携がとれると、親が知らない学校での様子を担任から教えてもらえたり、不必要なプレッシャーを減らすようにケアしてもらえたり、さまざまなメリットがあります。
スクールカウンセラーの教育相談を利用するのもよいでしょう。スクールカウンセラーとは児童や生徒、保護者の心のサポートを行う心理職の専門家で、現在、全国の多くの公立学校に配置されています。
お子さん本人が相談に行きたがらない場合、親御さんだけで行くパターンも多いです。「どうしたらいいんだろう」と家族だけで悩み、困っているよりも、相談相手がいたほうが親御さんの心の負担も軽くなると思います。
「がんばれ」「大丈夫」「死んじゃダメ」はNG
──うつ状態・うつ病の子どもに対して、親が気をつけることは何でしょうか?
齊藤先生 前回(#2)お話ししましたが、うつ病の発症には環境的要因が大きく影響していて、家族の不和、両親の離婚・再婚、親の無関心など、原因が家庭にある場合も多く見られます。特に思春期以降は、親からの過度な期待によって重圧を感じたり将来に悩んだりして、うつ病を招くケースも。親の言動が子どもの負荷になっていないか、今一度、見直してみるとよいと思います。
また、うつ病の回復には、心身の休養が不可欠です。休養が必要なとき、親が「ちゃんとしなさい!」「いつまで寝ているの?」などと𠮟責したり小言を言ったりしては、余計にストレスを与えて症状を悪化させてしまいます。
例えば「がんばれ」「大丈夫だよ」といった声がけも、一見、子どもを励ます良い言葉のように思えますが、言われた本人は「がんばっているのに、全然わかってくれていない」「大丈夫じゃないから、こんなにつらいのに」とマイナスにとらえがちです。
うつ病のお子さんは、病気の影響で否定的なことをよく言います。親が言われていちばん困るのは「死んでしまいたい」「生きていてもしょうがない」といった生死に関わることではないでしょうか。たいていの親御さんは気が動転して「死んじゃダメ!」などと言い返すのですが、お子さんが本当に伝えたいのは「死にたい」よりも「死ぬほどつらい」という気持ちなんですね。
そうした状況で「死んじゃダメ!」と言われても、お子さんはちっともラクにならない。「怒られた」「否定された」くらいにしか思わないのです。
もし「死んでしまいたい」と言われたら、否定するのではなく「それくらい苦しいんだね」と、まずはお子さんの気持ちに寄り添ってあげてほしいと思います。本人を否定するような「ダメ」という言葉は、どんな場面でも禁物です。
怖いのは、子どもが親につらい気持ちを伝えたり見せたりしなくなること。親が子どもの気持ちを把握し理解して、子ども本人が思いを吐露(とろ)できる環境であることが大切です。親御さんには、親子の結びつきが切れないように心がけていただきたいですね。
背負いすぎず親もサポートを受けて
──わが子がうつ病になったら、考えすぎてしまったり、親自身のメンタルも心配ですね。
齊藤先生 うつ病の発症には遺伝の影響もあると言われているため、子どもがうつ病なら、親もうつ病になりやすい可能性があります。遺伝の影響がなかったとしても、つらそうなお子さんを見ていたら親御さんもつらいですよね。
実際にお子さんがうつ病になり受診しているうち、いつの間にかご両親も精神科に通っているご家庭もあります。家族全員がどんよりとしているご家庭は多いです。
もし、親御さん自身がつらくなったら、ご自身のために精神科などの医療機関へ相談に行くとよいでしょう。親が苦しくて何もできなくなってしまったら、子どもを支えてあげることができずに共倒れになってしまいます。自分だけでもまずは助けてもらおうと思うことは、決して悪いことではありません。がんばって耐える必要はないのです。
親ががんばりすぎて燃え尽きてしまわないように、例えば、医療機関や信頼できる相談先、利用条件はありますが地域のデイサービスなど、ご自分の居場所を作ることは大事だと思います。
親が冷静に、どんと構えていると、子どもは安心できます。周りのサポートをうまく活用しながら、親御さんにはご自身の精神的なケアもしていただきたいですね。
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関心が高まっている子どものうつ病。わが子が元気なときはうつ病になるとはなかなか想像しにくいですが、齊藤先生のお話を聞き、きっかけ次第で誰にでも起こりうることだと知りました。子どもの発する小さなサインを見逃さないように、親としてしっかり心にとどめておきたいです。
また、齊藤先生はインタビューの中で「特に小さいお子さんには、繰り返し怒っても自己肯定感が下がるだけでいいことは何もない」ともおっしゃっていました。子どもの性格や個性を受け止め、困難にぶつかったときは見守り支えてあげられるように、親は心に余裕を持って子育てをすることも大事なのだと改めて思います。
取材・文/星野早百合