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ヤマハ野球部、黄金世代が勇退  1989年生まれのナテル、九谷、川邉ら 日本選手権初V・都市対抗準V導く

アットエス

社会人野球のヤマハを2016年日本選手権初優勝、2023年都市対抗大会準優勝に導いたフェリペ・ナテル投手、九谷青孝投手、川邉健司捕手が今季限りで勇退することが12月2日、発表された。3人とも1989年生まれ、ことしで35歳。一足早く退いた青柳直樹さん(内野手)、大野健介さん(投手、静岡商高出)、池田祥大さん(外野手)とともに黄金世代としてチームをけん引。名門復活の原動力となった3人が、競技人生を振り返り、社会人野球の魅力、ヤマハ野球部の未来について語ってくれた。

名門復活の原動力となった(左から)九谷投手、川邉捕手、ナテル投手=浜松市内

2007年に加入したブラジル出身のナテル投手は18年間、12年入社の九谷投手と川邉捕手は13年間ヤマハでプレー。ナテル投手は直近2年間はコーチ兼任で今季はほぼ登板機会がなかったが、川邉捕手、九谷投手は今夏の都市対抗を終えた後に引退の意思を固め、11月の日本選手権が最後の大会となった。

「30歳を過ぎてからは毎年、今年で最後だと思って取り組んできた。最後の2年間はキャプテンとして、みんなの手本になればと思って毎日過ごしてきた」と川邉選手は言う。11月の日本選手権2回戦(東芝戦)が最後の登板となった九谷投手は「ナテルと大野が同級生(投手)でいてくれたので、切磋琢磨しながら頑張って来られた。それが一番大きかった」。加入当時、17歳だったナテル投手は「ヤマハという会社に野球を第一に優先させてもらい、結果で応えることが役目だった。ただ、結果が出なくても次に向かって挑戦させてくれた。感謝の気持ちでいっぱい」と振り返る。

社会人野球の魅力は「大人の必死なプレー」

3人が口をそろえる社会人野球の魅力は「大人が必死でプレーする姿」。会社の看板を背負い、年に一度の都市対抗大会、日本選手権という晴れ舞台に全てを懸けて戦う。九谷投手は「社会人野球って1球で流れが変わることがすごく多い。のしかかっているプレッシャーの大きさ、1球の重み、熱量が違うんです」と力説する。

九谷、ナテル両投手といえば、大事な場面を任され、その期待に応え続けてきた頼もしい姿が、社会人野球ファンの印象に残っているだろう。初優勝を成し遂げた日本選手権。当時は今ほどヤマハの投手層が充実しておらず、1回戦から決勝まで6日間で5試合を5投手で乗り切った。九谷投手が4試合、ナテル投手と池田駿さん(巨人、楽天でプレーし21年に引退)が3試合ずつ登板。鈴木博志投手(オリックス)と伊藤直輝さん(19年に引退)が1試合ずつ投げた。ナテル投手は「元気なピッチャーが5人しかいなくて、マウンドにいない時はみんなブルペンで投げていた」とフル回転だった舞台裏を明かす。

救援失敗翌日の先発起用に応えたナテル

九谷投手にとって忘れられないのは、大阪ガスとの準決勝でのナテル投手の熱投だという。この大会でのナテル投手は本調子ではなく、JR西日本との準々決勝で救援に失敗し、追い上げを許した。ところが翌日の準決勝で先発を任されると、勝利に導く好投をして見せた。九谷投手は「打たれた後の先発は本当にキツい。多分、ナテルは眠れなかったんじゃないかな。それなのに一番いい仕事をしてくれた。相当な切り替えとメンタルが必要だったと思う。(当時5年目の)自分なら無理。ナテルすげえなと思った。今でもあの時のことが忘れられない」という。

ナテル投手自身は準決勝のマウンドについて、こう話す。「6日で5試合。3試合目で体も気持ちもボロボロ。正直、投げている記憶がない。ただ、チームがアウト一つ取るごとにうわーっと盛り上がってくれていたのが印象に残っている。試合の内容とか、どういう場面でどんなボールを投げたとかは全く覚えてないんです」

直球は120キロ台でも無双だった技巧派左腕

この2年間コーチ兼任だったナテル投手は九谷投手の安定感を絶賛する。「調べてないから正確には分からないですけど、九谷が13年間投げた全試合まとめて防御率出したら0点台なんじゃないかな。点取られている印象がほとんどなくて、投げた後のフィールディング、けん制も含めて総合的にしっかりしていた」

高校までは軟式野球部だった九谷投手。直球は130キロ前後の技巧派左腕が、社会人野球を13年間生き抜いた。抜群のコントロール、投球術で中継ぎ、抑え、先発と何でもこなした。「先発は気持ちで多少負けていても、かわすことができるけれど、中継ぎは打たれてはいけない場面で入るので、ボールに気持ちをどれだけ乗せられるかが大事。強い球で、押し込むことしか考えていなかった。球は遅いんですけどね。先発の時は2、3回対戦しないといけないので、相手の弱いところとか、インコース、アウトコースの投げ分けですね」

ヤマハ加入当初、九谷投手の身近にナテル投手と石山泰稚投手(ヤクルト)というプロを目指す2人がいた。「石山さんとかナテルを目の当たりにして、まっすぐだけじゃ、今のままじゃ絶対に生きていけない。コントロールと変化球を磨かないと、と1年目で気づけたのが大きかった」。16年の日本選手権当時は今ほどデータ野球が浸透していなかったが、ひたすら相手打者の映像を見て、打者の傾向、データをもとに、どこにどんな球を投げたらアウトになる確率が高いのかを徹底的に研究したという。

コーチを兼任したナテル投手は「ほかの投手には球種でしかデータを伝えられないが、九谷の場合は球種に加えてコースを要求できるのでデータがかなり有効だった」と話す。引退した大野さんも「僕のコントロールは2分割だけれど、九谷は9分割で投げる」とかつて語っていた。

川邉「日本一の組織を目指せ」

一方、優勝した日本選手権で5試合ほぼフル出場した川邉選手だが「日本選手権の優勝はそんなに特別じゃないんです」と素っ気ない。そして「13年間、都市対抗で1回も優勝できなかったということが一番心に残っています」と〝大人の甲子園〟とも言われる頂上決戦に懸けてきた思いを強調した。

入社1年目から都市対抗東海地区2次予選に出場し、10年以上ヤマハの正捕手の座に君臨してきた。チームが後進の育成へとかじを切った昨季から、大本拓海捕手(掛川西高出)が先発マスクをかぶるようになったが、その後も主将として、妥協のない練習姿勢を示し、チームを引っ張ってきた。「キャッチャーとして一番必要なことは、打つ、捕る、投げるだけじゃなくチームの信頼を得ること。日々の行動、コミュニケーション、そして結果。この3つが求められる」。後輩にとっての高い壁であり続けた。

日本選手権優勝後の2年間は都市対抗東海地区2次予選で敗退。本大会に出場できない時期が続いた。「13年間ずっと順風満帆に第一線を張り続けていたわけではなく、個人としても波があった。30歳過ぎてから、もう一度(勝負する)という新たな気持ちになり、取り組み姿勢も変わった。今の世代にも最初から完璧を求めるのでなく、遠回りしてもいいから野球に対する姿勢、行動がいい方向に向いてくれれば」と期待する。

ヤマハは今季で都市対抗本大会に6年連続で出場している。この間、実力伯仲の東海地区2次予選の第1代表を4度、第2、第3代表を1度ずつと常に上位で予選を突破し続けている。川邉選手は言う。「ヤマハは前身の日本楽器時代から続く歴史と伝統があるチーム。だからこそ、トップを目指していかなくてはならないと思う。都市対抗準優勝という経験を積んだ選手たちだから、もうひとつ、勝つためにはどうしたらいいかを考えて練習してきているはず。今の立ち位置を維持しつつ、もっと先に進めるかどうかがこれからの課題。自信があるうちに、どんどん先に進まないと。日本一の組織を目指すのなら、まだまだ甘い部分がある。僕ら以上に厳しいこと、大変なことがあるかもしれないけれど、難しいところに挑戦していってほしい」

九谷はコーチとして後進育成へ

来季は投手コーチ専任となる九谷投手は「目標は日本一。ヤマハといえば打撃と言われるけれど、ピッチャーと言われるようにしたい。ナテルに2年間、教わってきたけれど、本当にいいコーチだったので、それをしっかり引き継ぎながら、自分の色を出していきたい」と抱負を語る。4年目の左腕、佐藤廉投手がナテルコーチのもとでエースに成長した。今秋のドラフトで指名漏れの悔しさを味わった沢山優介投手(掛川西高出)は再チャレンジに臨む。「ヤマハのピッチャーの中で1、2番手になっていないとプロにはいけない」と、後輩左腕を鼓舞していくつもりだ。

(編集局ニュースセンター・結城啓子)

2012年、新入団会見に臨むヤマハ1989年組

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