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“生シェイク”の仕掛け人は100年続く牧場の4代目。地元も牛も幸せにする館山・須藤牧場の酪農

ソトコトオンライン

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千葉県館山市にある須藤牧場は、酪農体験の受け入れや直営店の営業など、多方面で活躍している牧場として地域の人たちに知られています。その牧場を継いだ須藤健太さんは、今年31歳。11年間関わってきた須藤牧場での仕事や、引き継いだ理由など、若き4代目の今と昔、今後について話をうかがいました。

20歳で継いだ牧場の1日

須藤さんは地元の高校卒業後、北海道にある農業の専門学校に通って、畜産や花、野菜について学びました。

「1年のときに花を教えていた先生がすごく魅力的な先生で、その先生から土に関わる一次産業のをことを学びたいと思って、2年では花を選択しました。花も酪農と通じる部分があると思うのです」

20歳で館山に戻り、牧場を継いでからの5年ほどは牛の世話や畑仕事に従事していました。当時の1日のスケジュールはこんな感じです。

4:30~ 餌やり、掃除、搾乳などの牛の世話 
8:30~ 朝食
9:00~ 経理、体験受け入れ、畑作業
12:00~ 昼食と仮眠
13:00~ 体験受け入れ、畑作業、直営店業務、経理などの事務
16:30~ 餌やり、掃除、搾乳などの牛の世話
20:30~ 夕食
21:00~ 2時間本を読んで勉強
23:30~ 就寝

目の前に牛の乳房がくるよう、人は穴のなかに入って搾乳作業をおこなう。

朝と夜に4時間ずつ牛の世話があり、それだけでも大変そうですがその合間にもやることが盛りだくさんです。直営店の店長になり、サービスや自社ミルクでのソフトクリームづくり、経理、イベント企画や営業などに関わるようになり、経営に興味が沸きはじめた須藤さん。29歳で経営をメインに行うようになった現在の1日は、こんな感じです。

6:30~ 起床、勉強、朝食
8:00~ 仕事
12:00~ 昼食
13:00~ 仕事
17:30~ 子どもに合せて一緒に夕食
18:30~ 勉強、仕事
22:30~ 就寝

ここでいう仕事は、パソコン作業や人と会って打ち合わせをするというような内容です。牛のお世話に入るのは月に1回くらいですが、「かわいいし、楽しい」と須藤さんは顔をほころばせます。

ジャージー牛を愛でる須藤さん。

両親が酪農体験で子どもたちを受け入れている様子を、子どものころから間近で見てきた須藤さんは、ここを残しておくべきだと小学校2年生のころから思っていたそうです。

「サッカー選手、弁護士、学校の先生、俳優とかやりたいことはいろいろあったけど、考えれば考えるほど、牧場をやりながらでもできるなと思って」と、当時を振り返りました。

個性を大切にした飼育と地域共生

須藤牧場では牛をつながず、自由に歩き回れる「フリーストール牛舎」を30年前から採用し、放牧場も備えています。110頭ほどの牛が、ご飯を食べたいときに食べ、寝たいときに眠ることができます。

放牧の様子。写真提供:須藤牧場

「みんながみんな、自由が好きなわけではありません。食べたいもの、居たい場所、ケアするところも違います」と須藤さんは言います。一頭一頭に名前を付けて、名前を呼び、観察しながらケアをすることで、生乳の品質向上へとつなげています。その結果、「関東生乳品質改善共励会(関東生乳販売農業協同組合連合会主催)」で、去年に続いて2年連続最優秀賞を受賞しています。

飼料の55%は、自社の畑で作付けしたデントコーンやソルダムを発酵させた自家製で、おいしいので牛たちは夏バテもせず、たくさん食べてくれるとのこと。

自家製飼料を手に、説明する須藤さん。

自家製飼料を100%にしないのは、台風などで収穫量がゼロになってしまうリスクと、バランスをとっているからです。

「いいものを提供しようと思うと、とことん牛の快適さを求めればいい。牛にとってプラスのことをすればいいので、心が躍ります」と話す須藤さんを見ていると、言葉だけでなく目線や行動から牛への愛情がにじみ出ているのが感じられます。そんな彼に、会社としてのこだわりを聞いてみました。その答えは、「地域共生」。地域の子どもたちの体験を受け入れたり、地域の活動に顔を出して交流をしたりして、相互理解を深めています。なぜなら、「須藤牧場は地域にいかされているから」と須藤さんは言います。

酪農体験の様子。写真提供:須藤牧場

牧場は、臭いや鳴き声など、地域にネガティブな影響を与えてしまいます。「牧場が無いことのメリットの方が多い」と言い切る須藤さん。

「ひいおじいさんの代から地域との関わりを大切にしてきてくれたから、受け入れられているのだと思います。臭いの問題などで、廃業になるところもあるので」

5歳になる息子が牧場を継ぐことは、果たしてポジティブなのかと考えながらも、須藤さんは地域とともに生きる未来への挑戦を続けています。

自ら搾乳の順番待ちをする牛たち。

生シェイク祭りをはじめた理由

いちご生シェイク。写真提供:須藤牧場

須藤牧場のジャージー牛乳入りアイスを使用した「生シェイク祭り」は、今年で6年目を迎えます。カフェ好きな須藤さんが、観光客に南房総のカフェを伝えたくてカフェマップをつくったのがきっかけでした。「好き」「伝えたい」という気持ちがあっても、自費で続けるのはやはり難しくて継続できませんでした。

須藤牧場の直営店では生シェイクが人気だったので、自社のアイスをほかの飲食店で使えばその店独自のシェイクができるのではと思い、「やりたい!」という気持ちが沸いた須藤さん。夏の南房総には多くの観光客が訪れますが、地元の飲食店やカフェにはあまり立ち寄ることがなく、海に行ってチェーン店で食事をして帰る人が多いというデータを見つけたそうです。

「カフェを知らないなら、イベントを開いてこんな素敵なカフェがあるというのを伝えたい」と思い、2019年7月に17店舗で生シェイク祭りをスタートしました。反響もあり、お客さんや参加店も喜ぶなか迎えた同年9月、令和元年房総半島台風が南房総を襲い、生シェイク祭りは尻すぼみで終わりました。

初回から参加している「おやつマルシェ&ZakkaOwl」の「濃厚ショコラを食べる生シェイク」。

「いいイベントだから、がんばろうと思ってやった翌年はコロナで……」と、言葉が詰まる須藤さん。さまざまなイベントが中止になったコロナ禍でも、生シェイクはテイクアウトが可能だったため、27店舗の参加店とがんばって続けることができました。その後も継続した生シェイク祭りは、2024年も6月1日から10月31日まで、28店舗が参加して開催中です。この勢いは南房総だけに留まらず、淡路島にも飛び火していますし、今後もどんどん広がっていきそうです。

挑戦しつづける姿勢と努力

カメラに目線を送る、好奇心旺盛な搾乳中の牛たち。

牧場を継いで11年。多くのことを経験してきた若き牧場主は、今何を目指しているのでしょうか。

「この牧場を、野菜、養蜂、養鶏、食が詰まった空間にしたい。牛の糞からいい堆肥ができるので、これを使って畑でいい飼料をつくって」と、発酵して独特の香りがする手づくりの飼料を見せてくれました。

演劇俳優や大道芸人などいくつもの顔を持つ須藤さんは、現在活動を休止して中小企業診断士の勉強に集中しています。「資格を取ったら、新しいことをやりたくて。今の状態だとやり辛かったり、スピード感が出なかったりする取り組みを、もっとスムーズにできるようにしたいです」と、頭の中に明確に出来上がっているであろうヴィジョンのヒントを教えてくれました。

須藤牧場内にあるカフェ「Cafe Calf Hatch Yohyo(カーフハッチヨーヨ)」では、牧場の生乳を使用したスイーツや軽食が食べられます。タイミングが合えば、放牧された牛たちを間近で眺められるかもしれませんよ。

パッチワーク状の屋根が「Cafe Calf Hatch Yohyo(カーフハッチヨーヨ)」。写真提供:須藤牧場

■取材協力
須藤牧場:https://www.sudo-farm.com/

写真:須藤牧場、鍋田ゆかり
文:鍋田ゆかり

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