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「もう◯歳なのに」はNG! 個人差のある「注意力」と身支度・癇癪(かんしゃく)の関係、対応を専門家が解説

コクリコ

自分で着替えない、かんしゃくを起こすなど、わがままともとれる子どもの行動は、「注意力」に起因している可能性があります。生まれ持って個人差のある注意力(段取り力)についてのとらえ方、サポート方法などを、保育現場に精通する野藤弘幸氏が解説します。

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自分でしない、かんしゃくを起こすなど、保護者が「やる気がない」「わがまま」などととらえてしまいがちな子どもの行動。「感受性」と「注意力」の2つの視点でとらえると、保護者もその理由を理解することができます。感受性を解説した第1回に続き、第2回では「注意力」について詳しく紹介します。

注意力とは一体どんな力なのでしょうか。子ども自身や生活に与える影響、言葉とのつながりなどについて、保育現場に精通する野藤弘幸氏に話を聞きました。

【野藤弘幸 プロフィール】
作業療法学博士。発達障害領域の作業療法の臨床、大学教授を経て、現在は大人から「育てにくい」と思われる乳幼児期~青年期の子ども・保護者に関わる保育者への研修などを行う。

「注意力」ってどんな力?

「注意力がある」と聞くと、どんな状態をイメージするでしょうか。注意力=集中力ととらえて、何かに没頭している姿を思い浮かべるかもしれません。

では、「注意力散漫」の場合はどうでしょうか。いろいろなことを考えてしまい、気が散っている様子を想像する方もいるでしょう。

実はそのどちらも、ここで指す「注意力」とは異なります。

注意力とは、同時に複数のことに気を配りながら、順序立てて考え実行していく力です。もっと親しみやすい表現だと、『段取り力』と言い換えることもできます。

たとえば、私は今インタビューに答えていますが、これも注意力を働かせているからできています。イスに座って姿勢を整え、質問を聞き、自分の経験を振り返って話したいことをまとめながら声に出す。いくつものことに同時に注意を向けて、『話す』という行動につなげているのです。

集中しているときは、複数の考えを巡らせながらもそれを整理して何かを仕上げようとしていますし、注意力散漫なときは一つのことが短く移り変わって定まらない状態といえます」(野藤氏)

着替えにも「注意力」が必要

日常生活の中には、「注意力」を要することが想像以上にたくさんあります。大人にとっては簡単に思える着替えや食事、遊びなども、実は同時にたくさんのことに気を配らなければ進められません。ですから子ども、特に乳幼児にはハードルが高い場合もあるのです。

ここでは、わかりやすく「朝の着替え」を例にあげて考えてみましょう。着替えの手順を示すと、次のようになります。

【朝の着替えの手順】
①パジャマの上を脱ぐ
②パジャマのズボンを脱ぐ
③シャツを着る
④ズボンを穿く
⑤靴下を履く

朝、「ご飯の前に着替えてきて」と言われて一人でできる子どもは、まず①から⑤を順番に思い浮かべることができます。そして、「シャツを着たから、次はズボンを脱ごう」などと考えながら、そのとおりに身体を動かすことができます。それだけの注意力=段取り力がある、もしくは育っているといえます。

着替えができる能力はあるとしても注意力の範囲が狭い子の場合、言葉の指示だけではできないことも多いと野藤氏はいいます。

「注意力は年齢とともに身についていきますが、感受性と同様にやはり個人差があります(感受性の詳細は第1回を参照)。ですから、『もうそろそろ一人で着替えられるはずなのに……』などと、一般的な基準を当てはめるのはやめたいものです」(野藤氏)

子どもは決して怠けているわけではなく、どの順番で、自分の身体をどのように使うとよいか、その手立てがわからない状態なのです。

「『今この子の注意力はどのくらいかな』『どの程度の段取りが立てられるのだろう』という視点で、子ども自身をよく観察してみてください。その上で、着替え、片づけ、出かける準備などの指示を出してもやらずに他のことをしている子は、注意力が狭いタイプかもしれません」(野藤氏)

「できるまで手伝う」から自立できる

では、注意力が狭く段取りを立てるのが苦手な子に対して、保護者はどのように接すればよいのでしょうか。

まずは一緒にやってあげること、支援してあげることです。先ほどの着替えの例でいえば、『パジャマを脱ごうね』と話しかけながら手伝い、シャツを着せてあげます。大人が着替えの手順や段取りを、何度も何度も教えてあげてください。そうするうちに、子どもは何をすればいいのかを徐々に覚えて、その子の生まれ持った能力でできることはするようになります」(野藤氏)

保護者が繰り返し手伝うことで徐々に一人でできるようになります。  写真:アフロ

そこまでやってあげると子どもが自立できないのでは……と思う保護者もいるでしょう。そうした不安に対して、野藤氏は次のように説明します。

「着替えの場合は、バンザイしたり自分で腕に袖を通したり、子どもも身体を動かしていますよね。食事を食べさせたとしても、口を開けて咀嚼し、飲み込んでいるのは子ども自身。そこは親が代わりにやっているわけではありません。子どもも一緒に行動しています。

保護者が手伝うから自分でできなくなるのではなく、やり方を教えない、きちんと伝えないからできないままになってしまうのです。人は基本的に模倣から学びます。やってみせる、粘り強く一緒にやることで習得することができ、その先の自立につながります」(野藤氏)

「かんしゃく」への対応方法は?

幼児期の子どもの行動で親が悩むものに、「かんしゃく」があります。実は、かんしゃくも注意力と密接な関係があるといいます。

積み木で遊ぶ子どもの例で考えてみましょう。

高い塔を作ろうと2段、3段と積んでいる途中、自分の腕が積み木にぶつかり、一部が崩れてしまいました。

このとき、「なぜ崩れてしまったのかな」「壊れたのは上のほうだけだな」と考えて、崩れた部分を直して遊び続ける子は注意力が広いタイプです。自分の当初の段取りを、臨機応変に修正することができます。

一方で、注意力の範囲が狭い子の場合は、目の前しか見ていないため、なぜ崩れてしまったのかがわかりません。自分の腕がぶつかったことにも気づいていないかもしれません。そうすると、何をどうすれば元どおりになるかわからなくなって、すべて壊してしまったり、「もうやらない!」と大きな声で怒り出したりします。

かんしゃくは自分が考えた段取りどおりに進まなくなったときに、解決する方法や別の手順を思いつけない状態です。

大人は、物を投げた、怒ったという子どもの行動ばかりに注目し、『物を投げたらダメでしょ』と注意してしまいますが、そこには理由があり、どうしようもなくなった結果だということを理解してほしいと思います」(野藤氏)

また、かんしゃくを起こして興奮状態の子どもは、何を言っても耳に入りません。ですから、「もう一度ここから積めばできるよ」とアドバイスしても、それを聞く気持ちの余裕がありません。

むしろ、外からたくさんの言葉が入ってくると、それが刺激になって余計にイライラしてしまうことも多いといいます。よかれと思って話しかけたつもりが、「うるさい」「お母さん/お父さんのせいだ!」などと言われた経験のある保護者もいるのではないでしょうか。

「本人は自分なりに、一生懸命落ち着く方法を探しています。かんしゃくを起こした直後は、子どもがクールダウンする時間、どうするか考える時間を持てるように、しばらくの間、見守りましょう。

そうすると、『崩れちゃった……直すの手伝って』と助けを求めてきたり、別のおもちゃで遊び始めたり、自分で切り替える方法を見つけていきます。このような『次の行動』に入ると、イライラしていた身体や気持ちが落ち着き始めるのです」(野藤氏)

注意力と言葉の力はつながっている

実は、注意力は言葉で説明する力とも関係しています。

「頭の中に大きなバケツがあり、中にはさまざまな言葉のカードが入っていると考えてみてください。

質問に答えるときは、このバケツをのぞき込んで、自分の感じたことに近いカードを探します。それらを順序よく並べ、文章を組み立てて自分の気持ちや状況などを伝えているのです。

注意力が狭いと、このバケツの中を見渡すことができません。一部ばかりに目がいって、広い視野を持つことが難しいからです。当然、カードを探すのに時間がかかりますし、並べ替えるのも苦手です。言葉で説明する一連の作業がスムーズにできません」(野藤氏)

普段からこうした状態のため、何か突発的なことが起こると、特に言葉で説明するのは難しくなります。

「先ほどの積み木の例で考えると、崩れたときに『どうしたの?』『大丈夫?』などと言われても、言葉が見つかりません。見つかってもうまく順序立てられないので、焦って余計になにを言えばいいのか混乱しているのです。言葉で説明できないから行動で示している状態、ということもできます」(野藤氏)

かんしゃくの最中に説明を求めると、子どもはより混乱してしまいます。  写真:yamasan/イメージマート

そもそも、幼児はまだ十分に語彙力が育っていないため、かんしゃくを起こしやすい時期でもあります。「我慢する力が足りない」などと子どもを責めずに、落ち着いて対応しましょう。こうした試行錯誤を繰り返しながら、子どもは自分で感情をコントロールすることを学んでいくのです。

ただ、あまりにも頻繁にかんしゃくを起こす、保護者が対応にとまどうほどかんしゃくが激しいといったときは、子どもはとても疲れ、混乱しているのです。子どもを成長を守り、保護者も子育てに自信をなくさないように、「専門家に相談することも大切」と野藤氏。

「かんしゃくだけでなく、他にも気になることがたくさんある場合は、悩まず子どもの発達を専門とする医師らに頼ってください。その子に必要な情報や対応がより具体的になるでしょう」(野藤氏)
※医師の受診時の注意点については第4回で解説します。

「できるようになる」以上に大切なこと

着替えや食事などは、幼児期に保護者や大人が支援することで、時間とともに自分でできるようになっていく子がほとんどです。一方で、片づけや物の管理などに関しては、難しい場合もあるといいます。

繰り返し教えてもできないことは、その子にとって『覚えられないこと』『できないこと』です。注意力は生まれ持った能力で、努力したからといって必ず身につく、できるようになるわけではありません」(野藤氏)

保護者はどうしても、一人でできることを増やしてあげなければいけない、それが将来の子どもの幸せにつながる、と力が入ってしまいますが、「できるようになる(する)」ことばかりにとらわれると、見失ってしまうものがあると野藤氏は指摘します。

「大人が『できる=良い』『できない=ダメ』という態度で接していれば、それは子どもにも伝わります。その結果、できない自分はダメな子なんだ、価値のない子なんだと感じるようになるでしょう。さらには、周りの子のことも『○○ができないなんて仲良くはできない』と見下すようになってしまいます。

人に優劣をつけて、できない自分や他人を否定する人生は、果たして幸せでしょうか」(野藤氏)

誰にもできること・できないこと、得意なこと・苦手なことがあります。そうした前提に立ち、「できないことがある自分」を認め、素直に助けを求められるようになることこそが大切です。

「生まれ持った注意力の範囲に合わせて、できないことは否定せずに繰り返し手伝う。失敗してしまったときは一緒にどうしたらいいか考える。保護者がそういう姿を見せることで、子どもはできないことを受け入れ、自分の注意力のままで工夫して生きる方法を見つけていくのです」(野藤氏)

小学校入学後は、持ち物の準備や管理などが求められるようになり、注意力の狭い子にとっては難しい場面が増えていきます。第3回は、注意力が狭い子や感受性が敏感な子を持つ保護者が、小学校入学後に出てくる問題への対応方法などについてうかがいます。

─◆─◆─◆─◆─◆─◆

Photo by 川端アリ

【野藤弘幸 プロフィール】
作業療法学博士。発達障害領域の作業療法の臨床、大学教授を経て、現在は、「育てにくい」「言うことを聞かない」「自分でしようとしない」など、大人がそう思う乳児期から青年期の子どもたちと、その子どもたちの養育者に携わる保育者への研修、講演活動を行う。著書に『発達障害のこどもを行き詰まらせない保育実践~すべてのこどもに通じる理解と対応』(郁洋舎)、その他保育雑誌への連載などを担当。

取材・文 川崎ちづる

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