倉敷市手話サークル連絡協議会40周年記念講演会(2024年8月4日開催)~ 倉敷市内の聴覚障がい者にとって一番身近な良き理解者コミュニティ
倉敷市では、毎年手話奉仕員養成講座というボランティア養成講座が開講されています。
近年は、受付開始日に定員になる人気ぶり。
そのような手話を学びたい人たちが集う場所のひとつに、手話サークルがあります。
倉敷市内では6つの手話サークルが、倉敷市手話サークル連絡協議会(市サ連)に所属。今年(2024年)で40周年を迎えました。
市サ連40周年を記念して開催された記念講演会での、発見と学びをレポートします。
倉敷市手話サークル連絡協議会とは
倉敷市手話サークル連絡協議会(以下、「市サ連」と記載)は、倉敷市内で活動する手話サークルの集まりです。
現在は、以下の6団体が加入しています。
・草の会手話サークル
・蔵手話サークル
・児島手話サークル
・手話サークル玉島
・手話サークルにしあち
・船穂手話サークルマスカット
昨今、テレビドラマなどの影響で手話が多く登場するようになっており、市サ連に所属する手話サークルでも会員数は年々増えているそうです。
市サ連では、聴覚障がい者の当事者団体と手を取り合いながら手話に関する情報交換をしたり、定期的に集って手話を用いた企画を開催したりしています。
倉敷市手話サークル連絡協議会40周年記念講演会とは
2024年8月4日(日)、倉敷市内で活動する手話サークルの集まりである市サ連主催の40周年記念講演会が、くらしき健康福祉プラザのプラザホールにて開催されました。
記念講演会の演者は、日本手話で教育する日本唯一の聾(ろう)学校である明晴学園教頭でありNHK Eテレ「みんなの手話」にも出演する森田明(もりた あきら)さんです。
詳しくは、以下の画像を確認してください。
当日のようす
当日は市サ連の会員はもちろんのこと、倉敷市内に在住・在勤する聴覚障がい者や記念講演会に興味のある一般の参加者まで幅広い人たちが、プラザホールへ足を運びました。プラザホールの座席の7割ほどがうまる盛況ぶり。
記念講演の演者である森田さんは、手話を第一言語とするろう者。普段はテレビのなかにいる森田さんが倉敷にやってくることに、会場の期待が高まります。森田さんの講演は手話で進行するので、手話の読み取りに不安がある聴者のために読み取り通訳も待機します。
読み取り通訳は、手話を音声に通訳することを指します。手話独特の言い回しも多くあるので、それを日本語に通訳するには至難の業。この日の読み取り通訳者は、両親がろう者の通訳者もいましたが「みんなに伝わる日本語に通訳できるか緊張する」と話していました。
倉敷市の聴覚障がい者たちにとって、市サ連は一番身近な良き理解者
会の序盤、来賓(らいひん)として参加した聴覚障がい者の当事者団体である倉敷市聴覚障害者協会の会長があいさつで、「手話サークルは、聴覚障がい者にとって一番身近な良き理解者です」と述べました。
手話は聴覚障がい者が思考し自分の想いを伝えるための大切な言語ですが、万人には伝わりません。普段はマジョリティの聴者に合わせて口話(相手の口の形を読み取って話を理解する方法)や筆談をしながら日本語で生活しています。しかし、聴覚障がい者にとって日本語は第二言語の場合もあり、自分の想いを正確に伝えられずにいる聴覚障がい者もいます。
手話サークルではきこえる・きこえないに関係なく、手話で思い切り話ができた経験を語り、市サ連会員に「聴覚障がい者と聴者の架け橋になってほしい」と語りました。
市サ連と倉敷市聴覚障がい者協会は、日ごろからお互いの行事に参加し合い交流を深めています。そのため、お互いに顔見知りが多く、今回の講演会会場でも聴者の市サ連会員と聴覚障がい者が久しぶりの再会を喜んで話し込む姿が、あちこちで見られましたよ。
デニム生地の市サ連オリジナル表彰状
市サ連は40周年を記念しておそろいのTシャツを作成しており、市サ連の行事にはユニフォームのように着用しています。このTシャツのデザインは、市サ連会員のなかから案を出し合い決まったもの。今回の記念講演会に合わせてデザイナーが紹介され、市サ連からデザイナーへ賞状と記念品が贈られました。
賞状はなんと、倉敷市児島地区の特産品デニム生地。受賞者が「この賞状をデザインした人にも賞状を送りたい!」というおしゃれな賞状。
市サ連Tシャツは、倉敷市内の手話関連イベントに行くと見られますよ。ぜひ、探してみてください。
マジョリティの中で手話に関する仕事をするとき
最後は、お待ちかねの森田明さんの記念講演です。
演題は、「マジョリティの中で手話に関する仕事をするとき」。
森田さんは自分が手話を第一言語とするろう者であることに誇りをもっています。
手話を第一言語とするろう者は、音声を使う人たちがマジョリティの世のなかにおいて、マイノリティな存在です。そのため、メディアなどで手話を扱うときには、聴者に「聴覚障がい者=かわいそう」というイメージを与えずに手話の継承を意識しているそうです。
この考えかたは、メディアなどのマジョリティのなかで仕事をするときだけでなく、手話を第一言語とする私立明晴学園での教頭職でも念頭に入れて教育活動に取り組んでいるとのこと。
森田さんの一貫した考えは幼児・児童・生徒たちはもちろんのこと、学園で働く聴者の教員にも浸透しており「聴者が音声で話すように、英語話者は英語を話すように、ろう者は手話で話す。それだけのことだから、私たちはかわいそうではない」と、どの子どもたちも手話を第一言語とする自分たちを誇りに感じていることがわかる映像資料の紹介がありました。
また、手話独特の言葉あそびや手話ポエムなど、日本語では表現できない手話ならではの自己表現の提案もありました。
冗談や言葉あそびは、自分の頭のなかでの連想がつながった瞬間のおもしろさが醍醐味(だいごみ)で、あとから解説を聞いてもリアルタイムと同じような笑いにはなかなかつながりません。それと同様に、手話の言葉あそびも通訳を介することでおもしろさが半減してしまうこともあります。
会場では、森田さんの手話を日本語に翻訳することなく読み取れる手話を話す人たちがよく笑い、普段はマジョリティの存在であるはずの音声言語を話す人たちが会話に乗り遅れるようすもありました。
私は自分自身が聴覚障がい者なので、森田さんの手話を日本語に翻訳せずに読み取れます。そのため、リアルタイムで言葉あそびをおもしろがり「こんな表現方法があるのか」と目からうろこの連続。一方で、聴者の参加者が同じように笑っていないことが気にかかっていました。
しかし、講演会後に聴者の参加者から「聴覚障がいのある人たちが私たちの話についていけないときの気持ちが少しだけわかる貴重な機会だった」と教えてもらい、きこえる人・きこえない人それぞれに別の視点で楽しめる講演会だったのだと気づきました。
おわりに
私は、2023年12月に関東から倉敷へ移住してきた聴覚障がいのある当事者です。移住当初は倉敷市内に手話のできる友人や知人はいませんでしたが、市サ連に所属する手話サークルをまわりながら、徐々に手話で語れる友人知人の輪を広げています。
聴覚障がい者も手話で語れる人もマイノリティな存在であるため、手話サークルで誰かと思い切り離せる時間に支えられています。これからも、市サ連と倉敷市内の聴覚障がい者が手を取り合う活動が広がっていくことに、期待したいです。