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タイとラオスの食文化の違いとは? 海老名市でふしぎな縁から生まれた多民族レストラン『サバイデー』

さんたつ

_IZM3524サバイデー

相鉄本線、さがみ野駅。南口を出るとすぐ幹線道路が東西に走り、チェーンのレストランやパチンコ屋やブックオフなんかが並ぶ、とりたてて特徴のない郊外の住宅地といった風情の一角だが、そこにぽつりとタイ・ラオス料理店が佇(たたず)んでいるのは、さまざまな偶然と、縁とがあったから。

タイ・ラオス家庭料理 サバイデー

ラオス人民民主共和国

メコン川の東に広がる東南アジアの内陸国。日本には4205人が暮らすが、綾瀬や厚木、平塚など神奈川県が1210人で最も多い。もともとインドシナ難民だった永住者や技能実習生、留学生が中心。言葉が通じるのでタイ人コミュニティーに溶け込んでいる人も多い。

ラオスの人々がこの街にいる理由

『タイ・ラオス家庭料理 サバイデー』。

「もともとね、私ジャンボジェットの整備をやってたんです。成田に住んでね」

『サバイデー』の店主、作山功さんは言う。それが一念発起して早期退職制度を使って会社を辞め、思い切ってビデオショップのフランチャイズオーナーに転身した。25年以上も前の話だ。そしてフランチャイズの本部から割り当てられたのが、さがみ野の店舗だった。

とっても仲のいい作山さんヴァンナーさんご夫妻に会いに来る常連客も多い。

「営業は深夜1時まで。それから飲めるところっていうのが、この店だったんですよ。あの頃は深夜4時まで営業しててね」

それが「サバイデー」の前身の店で、ラオス人の妻と、北海道生まれの日本人の夫とで経営していたそうだ。作山さんも同じ北海道出身だからウマ合い、たびたび飲みに来るようになったのだという。

そもそも、東南アジアでも存在感の薄いラオスの人々がこの街にいるのは理由がある。時代はさらにさかのぼって1970~80年代。インドシナ半島は荒れていた。長い戦争は終わったが共産化の中で混乱が続くベトナム、内戦下のカンボジアとラオスから、たくさんの人々が逃げ出した。小さな船で海に漕ぎ出してまで故郷を離れざるを得なかった「ボートピープル」の姿を覚えている人もいるだろう。

世界各地に散っていったこれらインドシナ難民のうち、1万1000人を日本政府は正式に受け入れた。そこには「共産主義勢力に追われた人々を救うのは西側自由主義陣営の務め」というアメリカの圧力があったともいわれるが、ともかくインドシナ難民たちは、日本政府の委託を受けて設立された難民事業本部によってつくられた「定住促進センター」で暮らすことになる。これが関西では兵庫県の姫路市、関東はさがみ野のすぐとなりの大和市に建設されたのだ。

センターでは日本語学習、運転免許証の取得、就職訓練といった、日本で生きていくためのノウハウを難民たちに施した。彼らはやがて大和の周辺で働き、暮らすようになる。だからいまも大和だけでなく、綾瀬や座間、厚木、愛川といった周辺地域にインドシナの人々やその子孫が住んでいるのだ。

『サバイデー』の前身の店の妻もまた、難民の出だった。作山さんが飲みに行っていた時代には日本人と結婚し、日本社会に溶け込んでいたが、苦労は多かったようだ。そんな彼女から紹介されたのが、当時はまだラオスにいたヴァンナーさんだった。

腕を振るうヴァンナーさん。

「とりあえず会ってみるかと思って、ラオスに行ったんです」

1998年のことだ。内戦は終わっていたが、経済的にはアジアでもとりわけ立ち遅れていた。

「私が子供の頃を思い出しましたよ。首都のビエンチャンでも道はほとんど舗装されていない。でも、隣近所はすごく仲がいいの」

そして引き合わされたヴァンナーさんは、発電所を建設中の日本企業で賄(まかな)いをしており、カタコトの日本語が話せた。年の差はあったが(30歳!)意気投合し、本当に結婚しちゃったんである。

それから3年ほどはビエンチャンで暮らしたが、「子供たちに日本の教育を受けさせたい」というヴァンナーさんの願いもあり帰国。そして、さがみ野のあのレストランを閉めることになった夫妻から店を譲り受け、いまに至るというわけだ。

似ていて非なる、タイとラオスの食文化

ラオスの米麺フー800円は豚肉と肉団子が入って具だくさん。にんにくの酢漬けや八角などで味つけしてある。
ソムタムに使うでっかいパパイヤを入荷。

「ラオス料理は、イサーン(タイ東北部)の料理とよく似てるね」

ヴァンナーさんは言う。たとえばいまやタイ料理の定番で日本人によく知られるようになったソムタムも、ルーツはラオスやイサーンにある。

「バンコクのソムタムはナンプラーで味つけするけど、ラオスではパラー(魚を塩漬けにして発酵させた調味料)も入れるね」

ソウルフードともいえるラープは鶏肉、コブミカンの葉、カー(生姜の一種)、唐辛子、カオクア(炒った米を挽いたもの)などを和えている。

そしてタイ全土にあるソーセージもラオス風で、豚肉とニンニク、ホムデーン(小さな赤たまねぎ)、レモングラス、もち米などを腸詰にして発酵させてあって、独特の酸味と旨味がたまらない。

どれもこれも、ラオス人の主食カオニャオと本当によく合う。

右下から時計回りに、ラープ・ガイ(鶏肉とハーブのサラダ)1000円、サイクローク(ラオス風ソーセージ)1000円、ソムタム・ラオ(ラオス風青パパイヤサラダ)1200円、ビアラオ(ラオスの国産ビール)600円、カオニャオ(もち米)500円。

ちなみに、料理に使う野菜やハーブは、綾瀬の畑で育てたもの。

「うちのコックのタイ人が、畑大好き。朝早くから行ってる(笑)。夏は店の前で売ることもあるよ」

とヴァンナーさんは言う。

今では多国籍な人々の憩いの場に

ラオス日本タイ折衷の店内。
ラオス屋台の挨拶はワイ(合掌)が基本。

『サバイデー』には近隣に住むラオス人もベトナム人も日本人も、それにアメリカ人もやってくる。すぐ近くに広がる厚木基地の兵隊たちだ。

「航空自衛隊の基地もあってね、うちも弁当を配達してるんだよ」

作山さんが教えてくれた。そして基地のまわりには昔からフィリピン人やタイ人が営む米兵相手の飲み屋も多かった。英語がわかるからだ。そんな人たちも店を訪れる。とくに週末は多民族なにぎわいになるそうだ。

食材コーナーもあり、近所のタイ人たちにけっこう売れるのだとか。

「もう、わけのわからん言葉が飛び交ってますよ」と楽しそうに話す作山さんは、御年83にして店に立ち、元気に接客をする。

「下の子がね、まだ中学1年なんですよ。お前とビールで乾杯するまで、お父さん死ねないからなっていつも言ってるんです」なんて笑う夫を、ヴァンナーさんは優しげに見つめるのだった。

タイ・ラオス家庭料理 サバイデー
住所:神奈川県海老名市東柏ケ谷2-25-20 /営業時間:12:00~15:00・18:00~23:00/定休日:月/アクセス:相模鉄道相鉄本線さがみ野駅から徒歩1分

取材・文=室橋裕和 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2025年4月号より

室橋裕和
ライター
1974年生まれ。新大久保在住。週刊誌記者を経てタイに移住。現地発の日本語情報誌に在籍し、10年にわたりタイや周辺国を取材する。帰国後はアジア専門のライター、編集者として活動。おもな著書は『ルポ新大久保』(辰巳出版)、『日本の異国』(晶文社)、『カレー移民の謎』(集英社新書)。

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