「これほど踊りまくるダンス・ミュージカルはなかなかない」再演に挑む朝夏まなとが語る『モダン・ミリー』の贅沢さ
2年ぶりにミュージカル『モダン・ミリー』が再演される。1967年公開の映画をベースに、楽曲を一新して制作されたブロードウェイ版は、2002年にトニー賞作品賞などを受賞し大ヒット。1920年代のニューヨークを舞台に、個性溢れるキャラクターが繰り広げるハッピーオーラ全開のミュージカルだ。玉の輿を狙うモダンガールのミリー・ディルモント役を再び演じるのは朝夏まなと。宝塚歌劇団宙組トップスター時代に披露した華麗なタップダンスを武器に、再演でもミリーの心の変化をときに明るく、ときに繊細に見せるのでは――と期待が高まる。メインキャストのほぼ半分が初演より変化する再演。「“同じようで同じではない”『モダン・ミリー』が誕生します!」と意気込む朝夏に話を聞いた。
――コロナ禍での全公演中止を経て、2年越しに上演された2022年の舞台を振り返るといかがですか?
2020年に稽古の段階で解散した皆さんと、舞台上でキャラクターとして存在でき、喜びもひとしおでした。そして、日に日にお客様の熱が高まっていった印象があります。日本人は悲劇が好きとよく言われるけれど、それとは真逆の楽しくハッピーな作品。ぶっ飛んだ明るさがあるミュージカルだと思います。2年前は口コミで「おもしろい」と、伝わっていったようでうれしかったです。
――どのあたりが「ぶっ飛んでる」と感じますか?
真面目に台本を読むと、結構ツッコミどころ満載なんですよ! ミリーの行動にしても、「そんなワケないじゃん!」と思うことをミリーは信じちゃって(笑)。そんなミリーだからこそ、「可愛いね」「おもしろいね」と思っていただけるのかもしれません。
――ミリーを再び演じるうえで、深めたいところなど教えてください。
そうですね……新鮮にやりたい! という思いが強いです。ミリーはものすごく素直でチャーミングで、バイタリティに溢れた子。田舎のカンザスでくすぶっていたところから、玉の輿に乗りたい、と憧れのニューヨークに出てきます。そうやって自分の意思で行動するのですが、ミリーは出会った人たちからたくさん影響を受ける役なので、今回キャストがだいぶ変わりますし、皆さんの芝居を受けて新鮮に演じたいです。また、一路真輝さんが演じられるミセス・ミアーズ役の設定が前回と違うので、その影響をミリーも受けるでしょうし、変化が楽しみです。
――冒頭、ミリーがニューヨークに出てくるナンバーは、とてもブロードウェイ・ミュージカルらしい華やかさがありますね。
すごくキャッチーですよね。あそこは自分の気持ちもガラッと変化し、「ニューヨークになじむ!」というモチベーションに切り替わるので楽しいです。この1曲のナンバーの途中で、ミリーは服から靴、ヘアまで全部チェンジするのですが、実際は大変。舞台裏では皆さんが私の着替えに協力してくださっています(笑)。
――そうなんですね! 朝夏さんご自身、ニューヨークに行かれたことは?
あります。みんな元気で、エネルギーが溢れすぎている街、というイメージです(笑)。
――この1920年代という時代も、エネルギッシュで素敵ですよね。本作にはどのような魅力があると思いますか?
やはり女性が主人公ですし、女性に活気があるのが印象的です。2幕の最初に、働く女性たちが「男なんて!」というような歌を歌い、タップを踏むシーンがあるのですが、演出の(小林)香さんが、「もっと強く! 想いを強く出して!」と仰っていました。女性がどんどん社会に出てきているからこそのパワーは、今に通じる部分があると思います。ミリーも強い気持ちを持ち続け、自分の信念に従っていくのですが、その信念のせいで、どうすればいいかわからなくなっていって……。
――価値観が変化していくんですよね。
はい。ミリーはジミーと出会って混乱していくので、ジミーとの関係性を前回は繊細に作っていきました。
――ミリーがニューヨークで何度も偶然出会うジミー役は、田代万里生さんが新たにキャスティングされました。
田代さんとはコンサートでご一緒したことはあるのですが、お芝居での共演は初めて。ジミーは最初は遊び人で、女の子をとっかえひっかえ、みたいな歌もあるのですが、そういう役を演じる田代さんが、(稽古前の)今は想像できないです(笑)。品行方正な方、というイメージがあって。でも今年出演されていた『カム フロム アウェイ』でおもしろい一面を拝見したので、ますます楽しみになりました。
――続投となる廣瀬友祐さんは、ミリーがアプローチする社長のグレイドン役ですが、とてもユニークな役作りで驚きました。
そうなんです。あんなお顔で飄々とおもしろいことをやられるので、私は笑わないで演技するのに必死でした(笑)。ミリーがグレイドンに色仕掛けをして、軽くスルーされるという場面は、どうすればおもしろいかと、前回(小林)香さんも含めて相談しながら作っていきました。
――ミリーの友人、ドロシー役は夢咲ねねさんが新たに演じられます。宝塚時代はご一緒の組ではなく、退団後に共演されたのですよね。
『笑う男 The Eternal Love-永遠の愛-』で共演したのですが、そのときは舞台上で絡みがなくて。ミリーは上層階級を目指していますが、ドロシーはその逆というアンバランスな感じがおもしろくて。女性同士のデュエットも珍しく、可愛くて大好きなふたりのあの歌も楽しみです。
――世界的歌手・マジー役の土居裕子さんとは初共演とか?
はい。一方的に『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』を拝見し、透明感の塊のような方だと思っていて、いつかご一緒したかったのでうれしいです。ポスター撮影のときにちらっとお会いしたのですが、立ってらっしゃるだけで包容力を感じ、素敵な洗練された女性というところが、すでに役そのままという感じでした!
――同じ宝塚OGである一路真輝さんとは、『オン・ユア・フィート!』で親子役も演じてらっしゃいましたね。
2年前の『モダン・ミリー』ではコロナの影響でご一緒に食事などはできなかったのですが、『オン・ユア・フィート!』ではよくご飯にも行き、たくさんコミュニケーションをとらせていただきました。いつも気さくで、一路さんの方から来てくださるんです。『モダン・ミリー』の公演中に私の誕生日があったのですが、一路さんはじめ皆さんで舞台上でもお祝いをしてくださって、とてもうれしかったです。
――以前、ミリー役は歌も高音域が多く挑戦だと仰っていましたが、実際舞台を務められての率直な思いは?
最近はダブルキャストが多いので、一人で毎日この量の歌を、同じ水準でこなすことの難しさを感じました。その中で体調をキープし続け、きちんとリカバリーすることの大切さを実感。普段は吸入や整体などを心掛けています。『モダン・ミリー』の楽曲は、メロディがとてもきれいで、ノリのいいジャジーな曲もあれば、グレイドンが歌うようなオペラ調のものなど多彩。一つのミュージカルに、これだけいろいろなジャンルの曲が織り込まれているのは、なかなかないと思います。オーバーチュアから作品の世界に入り込める贅沢さがあります。
――ダンスの面ではいかがですか?
これほど踊りまくるダンス・ミュージカルは、なかなかないので、ダンスが大好きな私はうれしいです! プロローグもそうですが、「もぐり酒場」という、禁酒法時代の盛り上がるシーンが結構激しくて。踊り終わった後、みんなが一列になって芝居をするのですが、肩で息をしながら演技をするって、宝塚時代以来かも(笑)。ここの場面はクラシックバレエをパロディ化していて、よく聞くと「白鳥の湖」のメロディがナンバーの中に入っている。こういう“隠し玉”みたいな要素もおもしろいです。
――タップダンスの見せ場も多いですね。
私にとってタップはゲーム感覚で、できなかったことがクリアできていくのが楽しくて。タップは自転車と同じで、一度練習して踏めるようになると、極端にできなくなることはないと感じます。
――宝塚時代に『TOP HAT』で、高度なタップに挑まれた経験が活かされているのですね。
はい。あのとき、タップの先生に「普通は一人で踏む恐怖があるけれど、あなたは飄々と踏んでいるね!」と仰っていただいて。みんな「失敗したら恥ずかしい」と思うそうなのですが、私は「大変」と思う間もないぐらいの分量だったので、怖く感じることもなく、自然と鍛えられていたようです。そもそも宝塚音楽学校へ入るまではタップダンスをしたことはなかったのに、こんなにタップを踏む人生になるとは思ってもいませんでした(笑)。
――『モダン・ミリー』は活力を与えてくれるようなコメディですけど、朝夏さんにとっての活力の源は?
新しいことに挑戦することです。以前は「新しいことはやりたくない」というときもあったのですが、最近は映像(TVドラマ『アンチヒーロー』)にも出演させていただき、ミュージカルではなかなか出来ない役柄、保護犬施設の施設長という役を演じ、もっといろいろなお芝居をやりたいなと思いました。この『モダン・ミリー』もみっちりお芝居の要素もあるので、深めていきたいです。それこそ一路さんが演じられるミセス・ミアーズ役など、舞台でも色濃い役がたくさんありますし、幅広い役を演じ、お芝居をずっと続けていきたいです。
取材・文=小野寺亜紀 撮影=高村直希