MAD MEDiCiNE 那月邪夢[インタビュー後編]アイドル界の“魔王”降臨「負けたくないし、負ける気もしない」
全2回トータル10000字を超えるMAD MEDiCiNEの那月邪夢ロングインタビューの後編。
今回は、過酷だった過去とグループの現在、そして今後の野望について赤裸々に語った。
アイドル界の“魔王”の素顔に、どこまでも深く迫る。
撮影:河邉有実莉
普段の自分とはまったく違う自分になれるから最高だなと思いました
ーーずっと憧れていたK-POPとはまったく異なる、MAD MEDiCiNE(以下、マドメド)という未知の世界へ踏み入れて、どうでしたか?
邪夢:
最初は抵抗があったけど、こういう世界観を持ったコンセプト系って、やってみたら自由自在に変身できるというか、とてもやりやすかったです。ステージに立つ以上に、普段の自分とはまったく違う自分になれるから最高だなと思いました。自分がこういう濃いメイクや派手髪が似合うなんて思ってもいなかったですから。
ーーそこは堤さん(マドメドプロデューサー)からの提案だったのですか?
邪夢:
そうです。マドメドはゴシックでデジタルでロックな曲調なので、やっぱりカッコいい音が多いじゃないですか。自分は曲に影響されるんですよ。だから表現の仕方も、なんとなくニヤリとしてみたんです。初めてのレッスンの時、そうやってキメ顔をした時に見られて、“その表情がめっちゃいいから、カッコいいキャラで行ってよ”と言われたんです。でも、その表情をしたのは本当一瞬だったんですよね。見られてたんだなって。それで、“吸血鬼とか、悪魔とか、ドSみたいなキャラクターで”って言われて(笑)。
ーーそこから魔力が使えるようになって覚醒したわけですね。
邪夢:
言われるとそれになれるというか。主催イベントで男装とか、王道アイドルとか、そういうテーマで衣装を変えてライブをやったりもするんですけど、ちゃんとスイッチが入るんですよね。ただ、演技はダメですね……。「アリス心中」MVの撮影のときボロボロだったんですよ、ふえーん。
ーー壮大なMVですが、やはり撮影は大変でした?
邪夢:
大変でした……。共演してくれた子、はなねちゃんがめっちゃプロだったんで。完全に引っ張られました! “ちゃんとやらなきゃ!”って。
ーーアイドルのMVではないですよね、もう完全に短編映画。
邪夢:
夜中の2時まで撮って、次の朝4時スタート、っていうハードな撮影でした。
ーーかなりハードだ……。でも本当に素晴らしいMVでした。
邪夢:
お〜(パチパチパチ 拍手しながら)
ーー邪夢さんは、歌いながらの表情作りもすごいですよね。舌出しもカッコいい。
邪夢:
舌出しなんて、本当に今までしたことなかったです……あ、でも前のグループでちょっとだけTikTokをやってたんですけど、たまたま舌を出した動画で“ベロ、長いね”って言われて、“自分、舌長いんだ!”みたいな(笑)。でも本当にずっと中二病なんで、音楽を聴いたり歌いながら変顔とかするのは好きでした。登下校の時に1人で音楽聴きながら、こそっとやってましたね(笑)。アイドル始める前、ダンスやってる時も“ダンスはまだまだだけど、表情がいいね”って言われることもあって。今もよくマドメドの曲を聴きながら鏡の前で表情作ったりしてますね。マドメドの楽曲、本当に大好きなので。
ーーそうやって、自分を開拓していったわけですね。最初は抵抗もあったマドメドが邪夢さんにとって、ばっちりハマったものだった。
邪夢:
ええ。小学生から中学生の頃、自分がいじめを受けたりとかもしていたので……それで共感できるところもたくさんあったのかもしれないですね……。
マドメドに入って、“那月邪夢”になってからすべてがウマくいっています
ーーいじめの話は訊いても大丈夫ですか?
邪夢:
はい。中学の頃はハブられるとかそういう感じでしたけど、小学生の頃は、もう漫画で描かれるような……。トイレに閉じ込められて、水かけられて……、っていうそれこそ本当に「アリス心中」の世界です……。消しゴムのカスを山のように自分の机に置かれたり。あとはクラス全員から無視されてたので、給食とかグループ活動する時とかにみんな机を付けるじゃないですか。それで自分の席だけものすごい離されるとか……。
ーーなんとも……。その話を聞くと「アリス心中」MVの見方が変わりますね……。
邪夢:
いじめられていたことが、自分に自信がないことにも繋がるし。そういう経験があると、人との関わり方がわかんなくなっちゃうから、そこから人との距離感が難しくなっちゃって……喋ったりすることが苦手なのもそうだし、不安になっちゃう原因なのかもしれないですね。
ーーだからこそ、YOSAKOIやダンスなど、学校以外のところに没頭するようになったし、自分が変わりたくてステージに立つことを目指すようになったわけですね。
邪夢:
それはありますね。学校という環境が嫌になっていたから、ストレス発散じゃないけど、そっちに全部ぶつけられました。そこでは自信満々に踊ることができる。本当は今日この取材で、いじめの話をするか迷ってました……。でも、話をして、だからこそ、こういう気持ちになれたんだよって、話に説得力が出ましたね。それがあったからこそ、今の自分がいるんだよって。
ーー前編での諸々の話のすべてが繋がりました。
邪夢:
伏線回収しましたね! マドメドに入って、“那月邪夢”になってからすべてがウマくいっています。細かい嫌なこともありますけどね。でもそれも乗り越えたら、結果はあとからついてくるっていうか。
ーー当時もそれを乗り越えて、今ここにいるわけですから。
邪夢:
いじめられてた時、先生もすごく協力的な方だったので、周りの人たちに救われたと思うんです。母も強い人だった。私が“学校へ行きたくない”と言うのは許してくれなかったけど、相手の家に押しかけて“謝れ!”っていうような……。そういう人だからこそ、ぶつかることもたくさんありました。それこそ、私がアイドルをやることは猛反対されましたし。それで<MAD SiCK CIRCUS>のツアーファイナル(2023年10月14日/渋谷 WOMB LIVE)の時に初めてライブへ招待したんです。自分の1番カッコいい姿を母に見せたかった。終わったあと、“すごいね”って、言われて抱きしめられて……もう、泣きそうになりました……。本当にアイドルやってきてよかったなって。
ーーめちゃくちゃいい話だ……。最初は反対していたけど、認められたのですね。マドメドはこの3年の間に確実に知名度や動員を上げてきましたが、それを実感した事柄はありますか?
邪夢:
初めて街中で声をかけられた時はびっくりしましたね。ディズニー(ランド)へ行った時に、2人くらいに声を掛けられたんです、“邪夢ちゃんですか?”って。こないだも渋谷の109を歩いてたら、また2人くらいに声を掛けられました。そうやって、ライブ会場以外のところで声を掛けられるようになってきたことが、知名度がついてきたんだなと思うことですね。
ーーディズニーで声を掛けられるのは、すごい確率ですね。
邪夢:
ライブだと、やっぱり<MAD SiCK CIRCUS>のツアーファイナルは印象が強いです。初めてものすごいステージ装飾と会場で、いっぱいのお客さんを目の当たりにした時が、活動してきた手応えを形として感じられました。
ーーマドメド以外の活動、邪夢さん個人でやっているTikTokもすごい人気じゃないですか。やっぱりTikTokからライブに来てくれる人は多いですか?
邪夢:
ええ、大半っていうか、もう7〜8割くらいかな。YouTubeからの子もいて。“歌ってみた”のYOASOBI「アイドル」を観て来てくれた人もいます。だからアイドルファンじゃない方が私をきっかけにマドメドを知って、アイドルを知ってくださるんです。“この子、アイドルだったんだ!”って。それがすごく嬉しいです。
ーー自分の知り合いでアイドルを知らないやつも邪夢さんのTikTokを観てたりしますから。こないだも、何年振りかの友人からいきなり連絡来たんですよ。(憑宮)ルチアさん、(唯一)むにさんのTimeTree記事を見たらしく。“これ、赤髪の舌の長い子のグループでしょ?”って。
邪夢:
アハハハハハ! 嬉しいな〜。
アイドルの中で1番になりたい
ーー最近はライブでの貫禄もすごいことになってますよね。アイドルの煽りって、微笑ましく見るものですけど、邪夢さんの煽りは文句なしにカッコいいですし。
邪夢:
きゃー、嬉しい! 煽りは最初ダメダメだったんですよ。ヴィジュアル系バンドさんを観て研究しています。
ーー邪悪なお嬢さんを経て、すっかり魔王さまになられました。
邪夢:
“魔王”って、記事に書いてくださってから、みんなに“魔王”、“魔王さま”って言われるようになって。自分でも“それで行くぞ!”っていう気持ちになれました(笑)。
ーーそれはよかったです! 今回の衣装も“メルヘン”と聞いてどうなるのかと思っていたんです。<DARKSiDE CHiNATOWN>ツアーファイナル(2024年5月25日/渋谷WWW)のアンコール、新衣装初お披露目の時に、ほかのメンバーさんは可愛らしいメルヘン風衣装で来て。最後に邪夢さんが登場したら、“ラスボス登場! 魔王・邪夢のお出ましだ!”という趣だったので、ガッツポーズしました。
邪夢:
アハハハハハ! やっぱり物語には悪役はつきものなんでね。そうさせていただきました。メルヘンだけど、赤色でパステルっていうのはできないから、どうしようかなと思ってたんですよ。出来上がった衣装を見たら想像以上にダークになっていて。“これ、完全に悪役だわ、私”って(笑)。
ーー悪役が様になるからカッコいいですよね。こういうものって、一歩間違えると独りよがりになりがちだし。自分で言っておいてあれですけど、“魔王”が褒め言葉になるアイドルなんて、ほかには絶対いないですから。
邪夢:
アハハ! ありがとうございます! 嬉しいな!
ーーマドメドが出てきた時、まだこういうダーク系のアイドルはまだいなかったと思うんです。
邪夢:
確かに少なかったですよね。
ーーそのシーンを切り拓いてきた実感はありますか?
邪夢:
切り拓いてきた実感ですか……!? でも、ヒロシン(悲撃のヒロイン症候群)さんの二番煎じだ、みたいなことを最初は言われて。だから、そうならないように自分たちらしさを出すようにしていました。それこそメンヘラの歌詞みたいなものって、あまりないですよね、アイドルで。
ーーだからこそ、“歌詞に共感しました”という子も多いと思います。
邪夢:
多いですね。自分もそうだからすごく気持ちがわかります。切り拓いてきたというより、気づいたらそうなっていたっていう感覚が大きいんですけど、自分はやっぱりほかとは違うことをしたい人なんです。最初は髪色もこうやって両サイドに赤を入れるのも反対されてたんですよ。“こんな入れ方してる人いないやん、変だよ!”って。でも、これが那月邪夢っていうトレードマークになりましたね。真似してくれてる子がいたり。
ーーそんな髪の毛は魔力で染めていると。
邪夢:
ハイ、魔力です! 1週間に1回くらい、定期的に魔力で染めてます!
ーーダークな世界観やメンヘラチックな歌詞、私はそこを含めて“地雷系ロックアイドル”なんて呼んでいるんですけど、そのシーンがここ1、2年でもう完全に出来上がっていて。その中心にマドメドがいる、シーンを引っ張っていると思うんです。
邪夢:
おお、嬉しい! 自分では、シーンを引っ張れてるのかなぁ、とは思いますけど。でも先日台湾でライブをやらせていただいた時に、“マドメドが好き”“マドメドに影響を受けた”と言ってくださるグループが何組かいたんです。確かにマドメドっぽいなと感じることもあったので、シーンを引っ張れてるのかはわからないんですけど、そういうのはやっぱり嬉しいですね。
ーーマドメドは衣装と楽曲、ビジュアルと音楽とライブ運びを含めたところできっちり統一されてる、確固たる世界観を持ったグループだと思ってます。何をやってもブレない。
邪夢:
ああ、ありがとうございます。ずっとブレずに行きたいですね。
ーーで、目指すは世界。世界征服ですね、魔王さま。
邪夢:
目指したいです! ここへ行きたいという明確な目標ではないんですけど、世界的に有名になりたいです。まずは地上波の歌番組に出たいですね。Mステに出たいですけど、“MAD MEDiCiNE”で出られますかね? “狂った薬”ですけど? 《モラハラDVストーカー》とか歌ってますけど(笑)。
ーー大丈夫ですよ(笑)。“那月邪夢”個人として、何か挑戦したいことはあります?
邪夢:
挑戦したいことかぁ……たくさんあるけど、ランウェイは歩きたいですね、モデルさん。洋服は最近すごく好きになってきて、やっぱロック系が好きなので。今は特に『NANA』(矢沢あい著の漫画)みたいなファッションが好きだから古着屋さん行って、いい感じのはないかなって探すのも好きだし、やっぱそっち系ですね、ローウエストな感じの。
ーー最近『NANA』が若い女の子の間で再び人気ですよね。ファッション含めて、リバイバルしている。
邪夢:
そう、Y2K! あと、YouTubeをやりたい。“歌ってみた”もそうですけど、企画や食レポとか、そういういわゆるYouTuberみたいなことをやってみたいです。Vlogが1番やりたいかも。でも、需要あるかな? 充実した休日の1日を過ごしてるわけじゃないので(笑)。
ーー“歌ってみた”も継続してやっていくと。
邪夢:
そうですね。「アイドル」みたいにバズってるものがほかにないので……。「アイドル」はマドメドMVの倍くらい再生数があるから(笑)。
ーー“歌ってみた”で挑戦してみたいジャンルとかありますか?
邪夢:
バンドサウンドとか。Acid Black Cherryみたいな大人な感じの曲をやってみたいなとは思いますね。そういうのはマドメドはやらない、やれないので。
ーーおお、楽しみにしております。ちなみに目標にしてる人や、憧れてる人はいるんですか?
邪夢:
いや、いないですね。K-POPに憧れていたころは、EXIDっていうグループのハニちゃんっていう子が自分のロールモデルでした。今は別にいないです。自分が憧れられる存在でいたいから、自分の中でそれを作っていきたいです。いまだに自信はないので、まだまだだとは思いますけど、“自分は成長できる”と信じてるから、まだ全然いけますね。
ーー頼もしい。そこを踏まえて、邪夢さんが描くアイドルの理想像はあります?
邪夢:
それこそブレずに行きたい。負けず嫌いなんで、同じような感じのところが出てきても負けたくないし、負ける気もしない。これからもっと新しいところ、上へ行くにあたって、いろんな人たちとたくさんぶつかっていくこともあるかと思いますけど、常に打ち破っていけたらなと思います。アイドルの中で1番になりたいです。
【ライブインフォメーション】 <Digital Mini Album「いちばん幸せな死に方。」 東名阪Release Oneman Tour『Merry BAD END』>
日時 : 2024年8月31日(土)OPEN 18:00/START 19:00
会場 : 下北沢シャングリラ
チケット:優先¥5000/一般¥2000/女性¥1000