体験者として寄り添う 吉田久美さんに聞く―
乳がん患者だけで結成されたチアダンスチーム「ピンキースマイル」が、今月開催されたプロバスケチーム東京八王子ビートレインズのホーム戦で演技を披露。メンバーの1人、境谷千恵子さん(66)は、医療用ウィッグを製造販売する企業の社員として市内の病院を巡る営業マンでもある。50歳で乳がんの診断を受け、手術をしてから始まった乳がんサバイブライフ。抗がん剤治療や放射線治療に加え、9年間薬を飲み続け、現在も半年に1回診察を受けながら、同じ乳がん患者を支援する活動をする境谷さんに話を聞いた。
私死んじゃう?
周囲の人に勧められ何気なく受けた乳がん検診。左胸に乳がんの疑い、と診断され検査を進める内に、右胸も罹患していることが分かった。「すごくショックだった。私、死んじゃうの?って」。境谷さんのがんは石灰化から見つかったため、しこりがなく自分では気づきにくいものだった。すぐに手術して右胸を全摘出。左胸は残したものの、抗がん剤やホルモン療法など、標準治療を進めた。
絶望の中、入院中に手に取った女性ファッション誌で目が留まったのは、抗がん剤で治療中の乳がん患者の女性がバレーボールを楽しむ写真だった。「がんでもこんなに元気になれるのかも」と明るい未来を初めて感じた瞬間だった。
病気を知りたい
退院してからは不安を原動力に、精力的に行動した。自分の病気について知識を得ようと、乳がん体験者コーディネーター(BEC)の養成講座に参加。資格取得を目指す仲間たちと出会い、徐々に気持ちが落ち着いてきたころ突然、右手首と肩が上がらなくなった。全摘出した右側を使わないようにしていたことが原因らしく、患者仲間に相談すると「身体を動かした方がいい。がんでも運動できるよ」と紹介されたのがキャンサーフィットネスだった。
一般社団法人キャンサーフィットネスは「がんになったら運動しよう」と呼びかける団体で、医師や理学療法士のサポートもあり、患者が安心して運動できる環境を整えている。参加してみると、あまりにも楽しそうな雰囲気に驚きを隠せなかった境谷さん。「具合が悪くなったら寝てていいからね、といわれ気が楽になった」と振り返る。また同団体では「がん患者のための運動理論」として、解剖学や体の動かし方などを専門医師が講義する時間も。境谷さんは積極的に受講し、認定インストラクターの3期生になった。
「正しい情報や知識は自分自身を助けてくれます。インターネットで体験談を読むのは手軽ですが、やりすぎ注意。正しい知識を学ぶことは不安に対抗する手段です」と話す境谷さん。
気持ちの治療も
運動を続けるうちに出会ったのが「チアダンス」だ。同じがん患者と共にチームを組み、様々なイベントに出演。批判的な言葉をもらうこともあるけれど、自分も入院中に元気な患者を見て励まされた経験から、精力的に活動を続けている。
がん患者支援の資格を持つ境谷さんだが、「はじめは、自分のためだった」と振り返る。不安に突き動かされるように次々と行動してわかったのは、前向きな気持ちになることの大切さ。気持ちをポジティブにするための行動や考え方も治療の一環だと感じるように。仲間と共に運動を継続できることが前向きな境谷さんを支えている。
「がんの再発、転移は怖いですが運動で体力をつけていれば治療も出来ると信じています」