イタリアの食文化を小千谷の町へ。40年続く「ゴッチャドーロ」。
小千谷高校の隣にあるイタリアンレストラン「ゴッチャドーロ」。オーナーシェフの丸山さんが独立したのは24歳のとき。それから40年近く、ずっと同じ場所でお店を続けてきたのだそう。創業当時からの思いや事業継承の考えなど、いろいろとお話を聞いてきました。
ゴッチャドーロ
丸山 勝利 Katsutoshi Maruyama
1961年小千谷市生まれ。東京の簿記専門学校を卒業後、飲食の道へ進む。長岡市のレストランで4年間経験を積み、24歳で独立。「ゴッチャドーロ」をオープン。ゴルフインストラクターとしての一面を持ち、店舗にはゴルフのレッスンスペースを併設している。「鶴岡雅義と東京ロマンチカ」の楽曲「愛は限りなく千の谷」の作詞も手がける多才ぶり。
イタリア料理の先駆け。馴染みのないメニューに市民困惑?!
――丸山さんは、いつから料理の仕事に興味をお持ちだったんですか?
丸山さん:学生時代に「モチベーションによって人間は生かされている」という考えに出会いましてね。これからの社会はひとりひとりが目的意識を持って行動する必要があると思ったんです。でもひとりで何かするなんて、なかなかできないじゃないですか。工場だったらものすごい設備資金が必要なわけですし。いちばん手取り早いのはBtoCで商売ができる飲食店だと思ったんです。メニューや店構えをどうするか、すべてを自分で考えなくちゃいけないけど、やりがいがありそうだぞと。
――それで起業されたんですね。
丸山さん:実家が建築板金業なので、高校生の頃は仕事の手伝いをさせられたんですよ。屋根の高いところで、足がガタガタと震えてね。こりゃダメだと思いました。それで簿記の学校に進学したんだけど、数字を追う仕事にポジティブな未来が見えなかったんです。
――学校を卒業されてからはどうされたんでしょう?
丸山さん:家内の姉夫婦が長岡でレストランを営んでいて、そこで4年間修業しました。イタリアンレストランだったんけど、そこまで専門的な感じではなくて。そもそもイタリアの食文化が日本に入りたての頃だったから、メニューはナポリンタンとミートソースくらいだったと思いますよ。
――独立されてからは、ずっと同じお店で営業されているんですか?
丸山さん:そうですよ。商圏的には小千谷よりも長岡の方がいいんでしょうけど、長岡にはお姉さん夫婦がいますから。それで土地もあるしここではじめるかと。こういったイタリアンのお店はなかったですしね。
――お店の評判はどうだったんですか?
丸山さん:最初は、お客さまが戸惑っていたかな。何を注文したらいいのかわからない。ワインもまったく馴染みがない。自分としてはなるべく本場と同じことがしたくて、イタリアのスタイルを持ち込んでいたんですけどね。当時は小千谷に蕎麦屋さん、ラーメン屋さん、お寿司屋さん、食堂はありました。でもイタリア料理なんて浸透していないんだから、仕方ないですよね(笑)
――40年前は、きっとそうだったと思います。
丸山さん:こういう「専門店」は少なかったですね。僕は「地域に合わせた商売をしなくちゃいけない」って考えが大嫌いで。東京と同じようなお店が小千谷にあって、同じような料理が食べられるんだったら、これほどいいことはないでしょう、わざわざ東京に行かなくてもいいじゃない、って思っていました。休みの日はなるべく東京のレストランに足を運んで、料理の勉強をしましたよ。
――思いを貫き通したんですね。
丸山さん:若いときって、自分のポリシーを貫きたいって気持ちがすごく強いから。年を重ねるとだんだん丸くなっちゃってね。相手の気持ちがわかるし、自分の気持ちは抑えようと思ったりしちゃってね。
駄菓子屋アイス VS 手作りコーンのジェラート。
――「本格的な」イタリアンのお店ですよね。
丸山さん:「本格的」って人によって受け取り方が違うんじゃないかな。本格的だと高級に思われがちだけど、僕はうちの店が高級だとは思っていません。あくまで「イタリアと同じことをやっているお店」。自分の中では家庭料理だと思っているけど、周りからは「敷居が高い」「高級だ」って言われちゃう。
――じゃあ、イタリアの家庭の味が楽しめると思って気軽にお邪魔すればいいですね。
丸山さん:そう思ってもらえると嬉しいですね。凝ったメニューも飾りもないし、高級店のような取り組みは一切していませんよ。
――長くお店を続けられてきて、収益面で大変な思いをされたことはなかったんですか?
丸山さん:「小さくても自分の会社を持つ」「生きがいを持つ」というところからスタートしたから、利益がどうとかっていうのは頭になかったんです。そもそも全国展開するような大手チェーンが小千谷にお店を出さないってことは、ここはそういう商圏なんでしょう。儲かるかどうかより、「自分が生まれ育った町をもっといいところにできないかな」「小千谷にはこんなレストランがあるんだよ」って気持ちでいられるといいじゃない。
――広くて雰囲気のある素敵な店舗です。
丸山さん:以前は1階がジェラッテリアでした。手作りコーンにアイスクリームをのせて300円くらいで販売していたこともあります。東京では大行列ができるほどなのに、ここでは隣に高校があるというのに反響はいまひとつ。駄菓子屋さんが売っている50円アイスの方が圧倒的に人気だったんです(苦笑)。そのあとは1階をパーティールームにして。ゲストルームもあったし、けっこうスタッフがいたんですよ。その後、イタリアンブームがあったでしょう。テレビ番組でもよく特集されるようになって、「料理の鉄人」にもイタリアンのシェフが登場して。あれで波に乗れたところはありますね。
伝えたいのは、イタリアならではの食文化。
――それにしても、40年ずっとシェフとして仕事をしてこられたことに頭が下がります。
丸山さん:最近「スタートアップ」という言葉を耳にしますよね。スタートは誰でもできる。それを続けるのが難しいんですよ。
――お店を続けてこられた秘訣はなんでしょうか?
丸山さん:やっぱり味じゃないの(笑)。料理って、シンプルなメニューほど難しいんですよ。当然、素材も大切なんだけど、塩加減、火加減の絶妙の塩梅が腕の見せどころです。しかも、オーダーを受けてから短時間で調理しなくちゃいけません。うまいかどうかは人それぞれでしょうけど、自分の経験が味の良し悪しに影響すると思っています。
――パスタも一品料理もあって、メニューが豊富ですよね。今だとメニューを絞って効率化しているお店もあると思うんです。
丸山さん:イタリアの食事を提供したいと思ったら、たくさんメニューを用意しなくちゃ。イタリアでは、プリモ・ピアット、セコンド・ピアット、ドルチェといったコースの構成があります。それを2、3時間かけて、会話を楽しみながらゆったりと食す文化があるんです。その素敵な文化を小千谷の皆さんにお伝えしたかったんですね。
――ホームページを拝見しました。事業継承を考えていらっしゃるんですか?
丸山さん:子どもはみんな関東に行っていますんでね。このままお店がなくなっちゃうのは、やっぱりもったいなくて。機械には当然、耐用年数があるじゃない。修理しようと思っても部品がない場合もある。実は人間も同じで、どんどん老化していくわけですよ。
――やっぱり今まで培ってきたことをちゃんと伝えたいってお気持ちですよね?
丸山さん:どうかなぁ。若い人には若い人なりの新しい感覚があるから、それでいいんじゃないかと思いますよ。
――理想としては、どんな方にバトンタッチをされたいですか?
丸山さん:お話した通り、「食の文化」をしっかり理解して、伝えたいと思ってくれる方だと嬉しいですね。単にお金を儲けてやろうってわけじゃなくてね。
ゴッチャドーロ
小千谷市東栄1-7-24
0258-82-5800
Lunch:11:00- 13:30- (Close 14:00)
Dinner:17:00- 22:00 (L.O 21:30)