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ヴィンテージのタブロイド紙を飾る、悦びを。店舗を持たない出会いの場「Woodmarquee」

Dig-it[ディグ・イット]

タブロイド紙の写真や広告、映画のプレスフォトやロビーカードなど’60〜’90年代のヴィンテージの紙媒体を額装して売る『Woodmarquee』。店舗は持たずポップアップや古着イベントへの出店とオンラインストアで販売している。オーナーの中山ひさよさんになぜこの道に進んだのかお話を伺った。

隠れ家にあふれる名作やレジェンドたち。

『恋する惑星』のドイツ版ポスターとか。’70sの『ローリング・ストーン』紙を額装したものとか。

その部屋の壁には、やたらとワクワクするグラフィックがあちこちに飾られていた。部屋の持ち主である中山ひさよさんは言う。

「あの『恋する惑星』のは映画館で貼られていたもの。あ、そっちのは映画館のロビーに飾るためにつくられたロビーカードで……」

一枚ずつに奥行きのある話がいちいち出てくる。それもそのはず。この部屋は彼女の自宅の一室であると同時に、’60〜’90年代のグラフィックをポップアップやオンラインで販売する『ウッドマーキー』のバックヤードでもあるからだ。

だから、希少な映画ポスターやプレス用フォト、タブロイド紙のピンナップが所狭しとある。ヴィンテージの古着がそうであるように、風合いや意匠に時代の空気を感じ、何ともそそられるのだ。

「そう、似てるんです。そもそもが古着好きで、古着を売り、古着をあきらめ、今がありますしね」

バーニーズで感じたファッションの幸せ。

生まれは横浜。高校生の頃から古着店に通うのが好きで、キッスやハーレーの古着Tシャツにデニムとブーツを合わせていた。女子高生にしてはハードめなのは、当時から、ヤマハ製のアメリカンバイクに乗っていたからだ。

「さかのぼると鳥山明さんが好きで『ドラゴンボール』のブルマが、男性的な格好でバイクをまたいでいたのに憧れていたんです」

高校卒業後に憧れたのは、ファッション業界だった。だから服飾専門学校に進んだのち、大手アパレルチェーンに入社した。

ただ服を工業製品のようにしか扱わない会社の方針に違和感を感じて飛び出す。古着好きだったのも店員になろうと考えたのも、自分なりに服を着こなし、服のディテールや歴史といった“奥行き”を感じるのが好きだったからだ。

「当時の彼氏、今の夫が映画や音楽の造詣が深く、その影響もありましたね。彼は『あのバンドのルーツはこれ』『この映画はあの作品に影響を受けてる』と楽しそうに話した。洋服もディテールやデザインのルーツなどを知っていたほうが楽しいよね、と思って」

その後、アパレル店員専門の派遣会社に転職。バーニーズ・ニューヨークで働き、確信する。『NYパンクっぽいデザインだね』『アニー・ホールみたいなナードなシャツと合いそう』。同僚はトレンドと同様に付随した音楽や映画、文学などのカルチャーにも精通していた。ただ服を売るのではなく、カルチャーを含めた情報ごとお客さんに受け渡していたからだ。

「なんだろう。奥行きがちゃんとあるんです。“こっち側”で仕事がしたいと感じた。あと自分ならやっぱり古着だな、似た熱量で本気で提案できたらいいなって」

2007年、だから最初は古着からはじめる。アメリカに飛びスリフトショップなどを回った。ハイブランドのヴィンテージから’50sのハワイアンシャツ、’70sのドレス、もちろんロックTなど。掘り出し物が、まだ掘り出し物の値段で仕入れられる時代だった。

「それをネットで販売し始めたんです。早かった? そう思いますね。オークションなども使って」

先行者優位。中山さんのオンライン古着店はすぐ軌道に乗った。だが2018年、潮目が変わる。

ひと箱だけ置いてみたら古着好きの行列ができた。

その頃から古着のポップアップイベントが増え始めた。子育てがひと段落した中山さんも、刺激を受ける意味で挑戦した。「そしたら衝撃を受けちゃって」と笑う。

「他の店の方々の古着の見せ方、売り方がまったく違う。『コレはかなわない』と思っちゃったんです」

ひと世代下の彼らは、2000年代の古着もハイブランドのようにうまくディスプレイ。さらに年代にもテイストにも縛られず、着こなしを提案し、強気の値付けで、しっかり売っていた。同じフィールドでは勝ち目がないと感じた。

ただ、これが好機となる。

「じゃあ違うフィールドに行こうと。タブロイド紙やポスターにチェンジしたんです。実は買い付けのたび、好きでその辺を集めていたので」

気力も体力もそがれる仕入れの旅。途中、サンタモニカやロングビーチにあるレコードショップでリフレッシュするのが常だった。旧いレコードと共に『ローリング・ストーン』や『NME』などのタブロイド紙があり、いつしかコレクションしていた。額装などを施すとインテリアに最適。お土産として喜ばれてもいた。

「それが部屋の半分が埋まるほどたまっていた。試しに別のポップアップで一箱だけ置いてみたら」

『スライのこれ、ヤバいですね』

『ニルヴァーナないですか?』

熱量たっぷりに箱を掘る人が集まり、行列が生まれた。次回は3箱をタブロイド紙に。その次は映画も。次は額装をして──。

「ことのほか古着好きの方々に刺さったんです。考えてみたら私自身が古着好きで、カルチャー好きで、集めていたわけですからね」

『ウッドマーキー』はこうして生まれた。店名はロックの聖地ウッドストックと額の素材の「ウッド」、そこに店のひさしを意味する「マーキー」を足して、つけた。

「実はテレヴィジョンの『マーキー・ムーン』て曲が好きで、そこにもちなんでいます。いいんですよね。NYのあの頃の暗めのパンク。なかったかな切り抜き……」

たった1枚の紙から、また奥行きのある話が続く続く。中山さんはこれからもこっち側で楽しむ。

ロックや映画のアイコン達も。旧いプリントTを愛でるように、グラフィックを堪能する。

店舗は持たず普段はポップアップとオンラインでの販売。時代の空気が漂う、雰囲気のあるグラフィックデザインを壁や天井に飾る生活を提案する。「最近は音楽、ロックものよりも、’90年代の映画が人気ですね」

週末を中心に、ポップアップストアを精力的に展開。ルーツである古着店や古着イベントへの出店が多く、ヴィンテージTシャツを掘るように『レザボアドッグス』や『ファイトクラブ』、レッチリやソニック・ユースを掘る列ができるとか。

タランティーノ、ジョー・ストラマー、ギンズバーグ、ヴェンダース──。リビングの壁や寝室の奥がさびしいなら、きっと彼らの出番です。

中山さんが買い付け、選び、額装した、ロックや映画のピンナップやポスターは、どれもこれも抜群に洒脱だ。マイ・ベストを選ぶもよし、ジャケ買いのように掘るのもよし。部屋やガレージを紙で飾れ。

1990s

映画も音楽もメインストリームからインディーズの匂いがした頃。いま最も人気です

Pulp Fiction

「タランティーノは人気。全長160㎝ほどあるこれはフランス製なので、タバコや拳銃が消されています」。5万2800円

Wild at Heart

パルムドールを受賞したデヴィッド・リンチの傑作で怪作。大判ポスター。2万4000円

Bjork

1995年の英タブロイド誌『NME』の表紙。まだかわいさが色濃いビョーク、良い。4400円

1980s

メインストリームのきらびやかさが、むしろアンダーグラウンドを輝かせていた時代。

Talking Heads

トーキング・ヘッズのシングル「RADIO HEAD」の広告。あのバンド名の由来でもあります。3000円

Mystery Train

『ミステリートレイン』プレス写真。永瀬正敏の渋いワンショットです。2万7500円

The Jesus And Mary Chain

ジザメリの「APRIL SKIES」の広告。2色刷りとトリミングのバランスが最高。3600円

1960s~1970s

世界が若々しかった時。ロックも文学もカルチャーはまだみずみずしく、はかなくもあった。

Search & Destroy

’70年代のパンクのファンジン「サーチ&デストロイ」の表紙。時代の証人だ。6000円

Buffalo Springfield

伝説のライブハウス「フィルモア」の告知用ポストカード。まさにサイケデリック。1万6800円

Tomorrow The Green Grass/The Jayhawks

これも1972年発行。すでに亡くなっていたジャニスの有名すぎる写真を表紙に。7700円

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