『ダイアナ~それぞれのダイアナ』“暗転なし、逃げ場なしの3人芝居70分一本勝負” <半月チーム鼎談>鯨井康介×相葉裕樹×佐藤絵里佳【後編】
『ダイアナ~それぞれのダイアナ~』がZu々10周年記念企画第2弾として、横浜赤レンガ倉庫一号館3階ホールにて2025年9月より上演される。
2006年初演以来、多くの劇団や演出家で上演されてきた『ダイアナ』が、ブラジリィ・アン・山田による脚本・演出で、新たに3バージョンの物語として上演される。満月/半月/三日月/新月の4チーム「それぞれ」の結末を迎えることとなるという。
今回は、半月チームに話を聞いた。
※本記事は【後編】です。前編は【こちら】
お互いの印象、すごいと思うところと意外だったこと
佐藤:鯨井さんは、『ノンセクシュアル』で演出されてる頃からすごいなと思って勉強させていただいていたんですけど、すごい、飛んでくるんですよね。その飛ばし方をいろんな方向からやってくるというか。私自身は発信するのが得意ではないので、そのバリエーションとか、影響を与えてくださる感じがすごいなと思ってます。相葉さんは、私、プロデューサーさんから「王子様」って言われてて。「じゃあ花男の道明寺みたいな感じですか」って聞いたら「そっちじゃなくて頭に王冠でカボチャパンツを穿いてるほうの王子」って言われて。どういうことだろうと思ってたんですけど。
鯨井:そういうふうに紹介されてて、実際に会ってみてどうだった?
相葉:カボチャパンツ穿いてた?
佐藤:穿いてました(爆笑)プロデューサーさんが言おうとしてることはわかりました。「カボチャパンツを穿いてる」っていうこと自体がよくわからなかったんですけど、プロデューサーと鯨井さんと相葉さんとマネージャーさんの4人で食事に行ったときに、プロデューサーさんと鯨井さんは二人で同じメニューを見ていたのに、相葉さんは隣にマネージャーさんがいるのに独占してメニューを見てたって。
鯨井:さすがですね、って話です。この人は悪意があってやるタイプでもないし、俺様でもないんです。ただ、貪欲にメニューを見たいだけなんです。本気なんですよ。本気でステーキかハンバーグかを選んでいるだけ。ポテトをトッピングするかしないかを本気で考えてるだけ。
相葉:ねぇええ~、言ってよそれ~。
鯨井:言ったよ!?
相葉:言った?
鯨井:言ったよ。「一緒に見ろよ!」って。
佐藤:プロデューサーさんからも聞きました。一緒につっこんだって。
鯨井:「さすがですね、相葉さん」って。
相葉:言ってた? 恥ずかしい。
佐藤:でも、そこが、安心感があって。ゆるキャラみたいで。
相葉&鯨井:ゆるキャラ(笑)。
佐藤:カボチャパンツは例で、まとっている空気が、プロデューサーの言いたかったことがわかったなぁ。みたいな。
相葉:え。鯨井さんから見てもそう?
鯨井:そう。
相葉:おい。
鯨井:だから王子なんですよ。とにかく、この男は。
相葉:きっちぃ~。38(歳)だよ?
鯨井:燦然と輝いているのは舞台。皆様が想像される王子の相葉さんだと思うんですけど、板を降りても王子は王子なんですよ。ただ、カボチャパンツを穿いている。なんだったら王冠を付けて颯爽と街を歩いてる。
佐藤:(爆笑)可愛いじゃないですか。
相葉:その自覚ないからキツイよね。
鯨井:いや、あってやってたらやばいでしょ。
相葉:脱ぎたいよぉ、カボチャぁ。
鯨井:脱げないよ。いつもかっこいい衣装着せてもらってるんだけど、その下にはカボチャパンツ。
相葉:恥ずかしいんだけど。すごくちゃんとしてる大人に見られたい。
鯨井:ちゃんとしてはいる。常識とかちゃんとあるし。
相葉:ちゃんとはしてる? あ、よかったよかった。ありがとうございます。じゃあ、僕ですね(笑)。絵里佳ちゃんははじめましてなんですけど、お顔芸が面白いですよ。
佐藤:そんなふうに思っていらっしゃったんですね。
相葉:僕、二人のシーンを結構ガン見してるんですけど、ずっと見てられますね。絵里佳ちゃんが、鯨井さんを振り回すんですよ。それをすごく楽しく見てるんですけど、スタイルもすごくいいんっですよ。だから、映えますね。映えです、映え。
佐藤:カボチャパンツVS映えですか(笑)。
相葉:いい意味でね、顔がうるさい(笑)。素敵だなと思っておりますけど、恋人の役なんで、いろいろ相談しながら作っていけたらなぁと思っています。鯨井さんは、昔から知ってるんですけど、昔から上手は上手だったんですけど、それを超えて、バリエーションというか面白さが増してるんですよね。おもろいです。おもろくなった。鯨井康介は面白い役者です。なんか、笑いとか。知ってる時から考えると。
笑えるかっていったら、笑える芝居は今まで一切してこなかったんですよ。でも、どこからか、ちゃんとコメディーができる俳優に進化していて、安心感もあるし、あらゆる、頭の回転も速いんで「あ、その角度から攻めてくるんだ」っていうワードが出てくるし、そこのワードセンスとかもピカイチですし、今回ふたりでやってる遊びのシーンとかも、ずっとやっていたくなっちゃうっていうか。どう突っ込んでくれるんだろうなっていう感じになっちゃうんで、ずっと遊んでいられるっていうか。こっちが的外れなことを言ったとしても、まあまあ、たぶんどうにか調理してくれるだろうなっていう安心感はありますし、マジで万能な俳優に、いつの間にか成長されていて。オールマイティーな俳優だなって。本当に嫉妬しますよね。
鯨井:いやいやいやいや、あなたに嫉妬されたくないですよ。
相葉:いないのよ。なかなか。同年代の87年生まれの俳優として、すごく誇らしいというかこんなすごい俳優いるんだよっていうことを、もっといろんな人に知ってもらいたいなって思っています。
鯨井:王子からそんなお言葉いただいちゃって。ありがとうございます。僕からはですね、佐藤さんは、顔ですよ。
佐藤:大丈夫なのかな、私。大丈夫かな。
鯨井:いやいや、気持ちがいいというか。
佐藤:本当ですか?
鯨井:あそこまでやれるひとはなかなかいないと思うし。すっごくはっきりしたお顔立ちだからこそ、よけいにそれが際立つというか。あと佐藤さんは、僕はずっと演出で関わっていた頃から、すごく作品を楽しむ方なんですよ。
相葉:へぇ~。
鯨井:やってることに対してすごく前のめりに楽しんで見てくれるし、楽しんで入ってくれたり、稽古していても率先して笑ってくれたりって、単純に空気として有り難いし、ご本人としてもポジティブに作品に入っていけるってすごく素敵な部分だなぁって、ずっと当時から思っていて。
相葉:真面目よね。
鯨井:もちろん真面目だし、ポジティブなところは当時から羨ましいくらい素敵だなって思っているところで。だから作品すべてを前のめりにちゃんと楽しめる方なんだなと思って、素敵だなと思っています。
佐藤:面白いからですよ。
鯨井:いやいや、作品全部を楽しめる人だと思いますよ。で、意外だったのは、そんだけ顔使うんだっていうところ。
相葉:ご本人の性格と翔子とは全く真逆な気がしていて。あと意外と声が低いよね。低音が大人っぽい魅力的な声。
佐藤:ありがとうございます。めちゃくちゃコンプレックスだったんですよ。声。小学校の時は指摘されるたびに泣いてました。
鯨井:小学校の時から低かったんだ。
相葉:なかなか持ってない声だよね、その声は。
佐藤:でも、今はもう大丈夫ですね。
相葉:個性よね。
鯨井:意外っていうわけではないですけど、出会った時から全く変わらないのが相葉さん。で、僕はどっちかっていうとたぶん、人間的に変わったんですよ。成長する過程で、生きていく過程で、人間的な部分がいろいろと変わっていってるんですけど、彼は人間としては成長しているんですけど、根本がずっと変わらない、このままでいる人なんで、だから僕は羨ましいっていうか、好きっていうか。
佐藤:お二人はどれくらい(の付き合い)なんですか?
鯨井:20なん年。17の時からだから。
相葉:2005年とかからだからね。
鯨井:じゃあ、ちょうど20年か。芯の部分は変わらずにそのままいるからすごいなって思う。この間休憩中に本人にも言いましたけど、心の中に魔物がいるというか。
佐藤:王子なのに!?
鯨井:やっぱり常人とは違うんですよ。
相葉:常軌を逸してます? あんまり自分ではそういう感じしてないんですけど。
鯨井:出すワードとか。同じホンを読んで、同じ役もやってるんですけど、知らない音を出してくるんですよ。僕はどっちかっていうとベーシックにベーシックに読んでいく方だと思うんですけど、彼の場合は突拍子もないところにいて、それがやっぱり面白くて。それが、嘘じゃなくてそっちに行くから。だから、アンさんの演出もそうなんですけど、僕がやったら狙いになっちゃう。でも彼は軽やかにそこに行くっていう。それが人とは違うからっていう。だから、オリジナリティーがあって、個性的なこの人のそういう一面は改めて素敵だなと思うし、それを出されたらこっちは勝てないんだよな、みたいな。そういう一面を持っているから、好きですね、僕は。
相葉:ありがとうございます。褒めていただいて。
――アドリブはかなり入るんでしょうか。
相葉:特に封じられてはいないので。ただ、まだセリフも100%入っている段階はないので不安はありますけど、もうこれは大丈夫だなってなったら、もっともっと増やしていきたいと思ってます。
鯨井:もう、うずいているのを感じてますもん。さすがに20年一緒にいると、なにかやりたいんだなって感じられるようにはなってきてる。
相葉:やりたくなっちゃうんだろうな。
佐藤:でも、リアルですね。20年って、このホンの設定で。で、翔子もそこまでじゃないじゃないですか。つきあいが浅いっていうのも含めて。
鯨井:確かに、先にこっちが知り合いで。相葉さんとは一番幼馴染み感もあるしね。
相葉:日常会話の感じで芝居が続くから、そういう意味ではやりやすいのかなとは思いますね。こういう形式だと。鯨井さんとだったらアドリブも生まれやすいと思う。
鯨井:本当に、日常会話の延長で脱線するんだと思います。「ここ面白いことやろうぜ」とかじゃなくて、テンション上がっちゃったからそのままやりそうな気はしますよね。危ないけど。
相葉:でも信頼感があるからできるかなっていう気はします。最終なんとかしてくれるっていう。
鯨井:王子のワードは全部面白いんで、僕がつっこむまでもないんですよ。彼がやりだしたことがもう面白い。僕はそれをただ聴き返しているだけ。
相葉:好きにやっていいよっていう感じだもんね。
鯨井:もうほんと、好きにやってくださいよ。
相葉:心強いですよ。
他チームとの違いについて
鯨井:僕は、この半月チームと三日月チーム(北村諒/鯨井康介/佐藤絵里佳)に出演しますけど、この二つのホンはトリッキーですね。
佐藤:設定がだいぶ飛んでますよね。
鯨井:他のチームのことは詳しい情報を知らないんですが、満月チーム(谷口賢志/山岸門人/高柳明音)は、『ダイアナ』という作品のスタンダードで、新月チーム(溝口琢矢/瀬戸啓太/平田裕香)は、色としては近いけど、若さがあって、若さゆえの新解釈が入っているのかな。男女間も年齢のギャップが逆転している感じなんですよね。年上の翔子ちゃんと、若いからこその爆発力というか、エモーショナル感、パッションみたいな。3人芝居だから会話劇で議論的にガンガンなっていくの、たぶん新月チームが一番強いんじゃないですかね。稽古の入れ替えの時に、(溝口)琢矢が、「爆裂汗かいてます。もう大変です」って言ってたし。平田さんが「すごいよ。声もずっとでかいんだから」っておっしゃっていたので、たぶん、新月にはそのパワーがあるし、すごくフレッシュな感じになるんじゃないですかね。
佐藤:なんか、可愛い感じでした。
相葉:僕たちに可愛さはないですか?。
佐藤:可愛さ……は無いですよね(笑)。
鯨井:めちゃくちゃ可愛くない? 俺ら。
佐藤:まあ、そういう見方もできますけど。
鯨井:真っすぐ見てそうでしょう。
佐藤:なんかね、面白いじゃないですか。可愛い様子が面白い。で、新月チームは本当に可愛らしい。翔子が年上っていうのも影響しているかもしれないんですが、なんていうんだろう。がんばって「好きなんだ!」っていう。
相葉:リアルに若いの?
佐藤:29歳。瀬戸くんがすごく真面目な、愚直な感じで。
鯨井:若さだね。それで言うと、満月チームの兄さん達は許容範囲っていうか、受け皿が広いじゃん、もっと。だから、この間もずっと谷口さんがアンさんとずっと熱い議論を展開されてました。。
佐藤:そうですね。
鯨井:ご本人たちがいろいろ経験されているからこそ、僕らには出せない深みとかが、あるんだろうし、表現もされるんだろうしっていう気はするよね。僕は見ていないので何とも言えないんですけど、そういう稽古をされているなっていう雰囲気を感じます。
佐藤:三日目で台本はずされてましたよ。スパルタとか言って。
鯨井:やっぱりさ、ストロングスタイルなんだよ。先輩たちは演劇ストロングスタイル。だから世代感は結構分かれそうだよね。新月チームも台本放すの早かったって聞いたよ。荒通しまでが一番早かったのが新月だったって。やっぱり、勢いとパワーがあったんじゃないですかね。
作品の魅力について
鯨井:オチに関わってしまいそうで話すのが恐いし、全チームそうかはわからないですが、僕らの作品でいうところの落としどころの部分っていうキーワードがひとつあって。恋に対しての。それが僕はこの作品の魅力というか、本筋であり、人を変え、設定を変え、何をしようとも変わらないっていう、アンさんのメッセージなんじゃないかなっていうふうには捉えているところがあって。ちょっとネタとも関わるところがあるので、これくらいで。見ていただいて「これなんじゃないかな」って思っていただけたらっていう気持ちなんですけれども。なんか、そこに向かって「恋とは」ということが語られているような気がして。それが、いろいろな人、いろいろなベクトル、設定でも、っていう、そこにあるのかなって思います。そのアンさんの思いこそが、この作品の魅力なんじゃないかなぁと思っています。なので、劇場で見ていただければと。
相葉:同じ気持ちです。きれいにまとめていただいたなって。
鯨井:わかってる?
相葉:わかってるよ。
鯨井:じゃあ、言ってみ?。
相葉:(鯨井に耳打ちする)
鯨井:違う。それじゃない。
佐藤:私が……のやつですよね?
相葉:あなたが?
佐藤:なんかいいですよね、あのセリフ。
相葉:●●●●●●●。
鯨井:あ、言っちゃった(笑)まあ、沢山の方に見ていただいて「このセリフか!」と思っていただけたら。相葉さんがこの間インスタライブでさすがなことを言ってたんですけど、横浜だからこそ恋がテーマの演劇を見たらデートに行きたくなるんじゃないか、と。お友達と遊びに行ったらいいじゃないか、と。
相葉:そうですよ。美味しいものいっぱいありますし。
鯨井:演劇を観るためだけじゃなく、観光がてら、観に来ていただけたら嬉しいですよね。