「わが子が怪しい…スマホ見てもよい?」と迷う親 小中学生の交際♡の見守り方を専門家が回答
ソーシャルワーカー・鴻巣麻里香さんに聞く「小中学生の恋愛バウンダリー」第2回。小中学生のわが子に付き合っている人ができたら親はどうすれば? めざすべき関係性やSNS時代のトラブルについて伺います。全4回
【読む➡】第1回 小学生5人に1人は恋人アリ!? 小中学生の「付き合ってる♡」の現実スクールソーシャルワーカー・鴻巣麻里香さんに聞く「小中学生の恋愛バウンダリー」第2回。小中学生のわが子に付き合っている相手がいることが判明したら親はどうすれば? 話の聞きだし方から、伝えるべきこと、めざすべき関係性、SNS時代のトラブルについて聞いた。全4回
●PROFILE鴻巣麻里香(こうのす・まりか)
KAKECOMI代表、精神保健福祉士、スクールソーシャルワーカー。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営。
「彼氏・彼女ができた!」と報告してくれる関係性をつくる
日々中高生の「困りごと」に向き合っている鴻巣麻里香さん。2024年9月にはティーンエイジャーの悩みと解決法を説いた『わたしはわたし。あなたじゃない。10代の心を守る境界線「バウンダリー」』を上梓し、悩める中高生やその親たちから熱い支持を得ています。
バウンダリーとは、「わたしはわたし、あなたはあなた」という心の境界線のこと。バウンダリーを正しく引き直すと、人間関係のトラブルやモヤモヤに対処することができます。
今や、小学生の5人に1人が「つき合っている人がいる」と答える時代。小学生の娘や息子に「彼氏・彼女ができた!」と報告される日も、そう遠くないかもしれません。そんなとき、親はどのように対処すればいいのでしょうか。
「親がつい警戒モードに入って𠮟ったりすると、子どもは『もう言わないほうがいいな』となってしまうので、『まずは話してくれてありがとう。で、それって、あなたにとってどのぐらいハッピーなことなのかな?』『付き合うって、具体的にどんなことをするの?』と、しっかり話を聞いてあげてください。
すると、『お父さん、お母さんに話しても、否定せずに聞いてくれるんだ』と安心し、そこから先に苦しいことがあったときにも、話してくれる可能性が高くなります」(鴻巣さん、以下同)
わが子からでなく、ウワサや伝聞で交際を知るケースもあるでしょう。
「必ずしも正しく伝わっているとは限らないので、いたずらに動揺する必要はありません。一番大切なのは、子どもが『親に何を話してくれるか』と『何を話してくれなかったのか』です。
もしかしたら、“付き合っている=普通の友だちの延長線上”で、わざわざ親に言うほどでもないと思っていたかもしれない。ただ単に、恥ずかしくて言えなかったのかもしれません。
問題は、『言ったら𠮟られると思った』というもの。たぶんそれ以前に、親に対して『これを言ったら𠮟られるな』と、心のシャッターを下ろした瞬間があったはず。それは何だったんだろうと、親自身が振り返る必要があります」
そんなとき、シャッターを無理にこじ開けようとすると、子どもは苦しくなって噓や秘密が増えていくそうです。
「普段の会話で少しずつ、『あなたの普段の様子に私は関心があるし、知りたいと思っているんだよ』ということを、子どもに伝えていきましょう。『今日、何か楽しいことあった?』と聞いたら、『なんだよ、いきなり』と返ってくるかもしれません。
そうしたら、『楽しいことがあったほうがいいし、どんなことがあなたにとって楽しいのかな、って気になるじゃん』などと話してみるんです。
さらに、『そういえば、何々ちゃんとは最近遊んでるの?』、『最近、クラスで何が流行ってるの?』などと聞くと、関心を持っているよ、話してくれていいんだよというメッセージになります」
不適切な関係にあることがわかったら……
大切なのは、「いくら恋人であっても、プライベートゾーンを簡単に触らせてはいけないよ」ときちんと伝えること。
「小学校、中学校の低年齢ですでに性的な関係があるのは、『年齢に見合っていない不適切な関係』ですよね。子どもがたとえ望んでいても、そこは問題にしたほうがいいと思います。
ただし、頭ごなしに『やめなさい』と言うのではなく、『その行為が不適切である』ことを説明することが大切。プライベートゾーンを簡単に触らせたり見せたりすると、将来大人になったときに、望まない妊娠などにつながるリスクがありますから」
行き過ぎたスキンシップは不適切なことだと子どもが気づいたら、そこから相手との間にバウンダリーを引きなおすサポートをしてあげるといいと鴻巣さん。
「望まないのにされた、常習化している、年齢に見合わないような進みすぎた関係があるなどの場合は、子どもに『不適切なことだ』と理解させることが大切。そのうえで、『そのとき、どんな状況だったのかな』と状況を把握し、『何て言えばよかったかな』、『今度はなんて言おうか』と、一緒に考えていきましょう」
子どもたちの間で不適切な関係が進行していることは、相手の保護者や学校の先生など、関係する大人でしっかり共有する必要があります。
「その際には、『あなたたちを守るために、ごく限られた人たちの間で話し合いをさせてほしい。あなたのプライバシーは絶対守られるようにするし、不利益をこうむらないようにするね』と、子どもに伝えることが大切です。
『このことについて話を聞いてくれる、カウンセラーさんやお医者さんがいるよ』と、子どもに提案してみるのもひとつの対処法だと思います」
「親が小中学生の我が子の恋愛を知って不安になるのは、いたってノーマルなことだと思います」と鴻巣さん。 写真:安田光優
SNS時代ならではの恋愛トラブルに警戒を
スマホなどのデジタルデバイスの影響で、子どもたちはプライバシーがあまりない生活を送っていると鴻巣さん。家に帰った後も、SNSを通じて、学校でのおしゃべりが家の中まで入ってきてしまうのです。
「最近の子どもは一人になって、『本当はどうしたいんだろう』と、自分と対話する時間が圧倒的に少ないんですね。SNSなどテキストベースのコミュニケーションで起きたことが、リアルなやりとりよりも優位になることもよく起こります。
いじめもSNSでのやり取りがきっかけになりますし、恋愛もSNSやオンラインゲームで知り合った『顔の見えない誰か』が相手になることもある。実際に会いに行ってトラブルになった、または性的な関係をもっちゃった、という問題も起きていますね」
そういった事態を未然に防ぐためには、やはり日ごろからちゃんと話せる関係性を築くことが大事。それ以外、防ぐ方法はないそうだ。
「繰り返しになりますが、子どもが原因でトラブルが起きても、『子どもが悪い!』と怒ってしまう前に、苦しいときに話してもらえなかったことを見つめましょう。
ただ、それとトラブルシューティングとはまた別の話。例えば性暴力やいじめなど深刻なトラブルが起きたら、まず『あなたの気持ちを置き去りにしちゃうかもしれないけれど、守らなきゃいけないものがあるから、ちょっと行動させてもらうね』と、関係各所と連携して行動する必要があります」
子どものスマホを勝手に見るのは重大なプライバシーの侵害
最近、子どもの様子がおかしい。でも「何かあった?」と聞いても、「別に」としか返ってこない……。子どもが思春期にさしかかると、よくこんな状況になるものです。心配のあまり、子どものスマホをこっそり見てしまう人もいるかもしれません。
「そこでいじめや不適切な交際のほか、犯罪に巻き込まれていた、詐欺にあっていたなどの問題が発覚することがあります。でも子どものスマホを勝手に見るという『ルール違反をしたこと』と、『トラブルを察知できたこと』は、分けて考える必要があるんです。
まずは子どもに、『あなたに聞いても答えてもらえなくてついつい、心配からプライバシーを侵害してしまった。これについては申し訳ない』と謝罪することが大事。『そうしなければ、トラブルがわからなかったじゃない!』と、開き直ってはダメですよ」
子どもと向き合う際には、大人同士の対等性のある関係とは、また別の配慮が必要です。
「親は親権という名のもとに、子どものプライバシーを侵してもいい、コントロールしていい、と間違いがちなんです。子どもには権利(人権)があり、プライバシーの保護は本来保障されるべきもの。ですから危険を守るためだったとはいえ、まず大人がバウンダリー(境界線)を踏み越えたことを謝る必要があります。
『不適切な手段で発見したことについては、申し訳ない。でも、できれば不適切な手段を私が取る前に、相談してほしかったな。きっと、言えない何かがあったんだよね』というスタンスが大事です。
そして時間をかけて、何が子どもの口を封じていたのかを探りながら、子どもとコミュニケーションをとっていく必要があります」
──次回は、「恋愛におけるバウンダリーの定義とその役割」を伺います──
取材・文/萩原はるな
10代の生きづらさとその解決策をリアルなエピソードとともに紹介した『わたしはわたし。あなたじゃない。10代の心を守る境界線「バウンダリー」』(出版:リトルモア)。2024年9月発売から1ヵ月弱で重版に。