赤ちゃんが言葉を話すまで 「子どもの言葉と心」の劇的な変化と発達を専門家が解説
赤ちゃんが初めて言葉を話すまでには、たくさんの脳や体の機能の発達が必要。初めての言葉が出るまでの劇的な変化と発達を青山学院大学教育人間科学部心理学科教授・坂上裕子先生にうかがいました。
発達障害グレーゾーンの子の困りごと 「これも個性、もう少し様子見」が「よくない」理由子どもには「早く」いろいろなことができるようになってほしい、ネットで情報を集めては子育ての「正しい」「効率のよい」やり方を知りたい、という気持ちは、親なら心をかすめるもの。そうした親の思いが、発達に合っていない先取り教育や、“こころ”が追いつかない態度を子どもに求めてしまうことになりかねません。
「こころの発達は、からだの発達と深く関係している」と、著書『子どものこころの発達がよくわかる本』で語っている、青山学院大学教育人間科学部心理学科教授・坂上裕子(さかがみ ひろこ)先生に、“こころとからだ”の発達についてうかがいました。
今回は、“言葉”に特化して、年齢別に親子のコミュニケーションについて、全3回で教えていただきます。
〈Photo by iStock〉
0歳から非言語コミュニケーションは始まっている
──今回は、“言葉”に特化して教えていただく、ということでしたが、「0歳から始まっている」とうかがって驚きました。まだ“言葉”を発しないうちから、親子のコミュニケーションは始まっているのですね。
坂上裕子先生(以下坂上先生):そうですね。赤ちゃんは視覚や聴覚、触覚などの五感をフルに使って周囲の世界を知ろうとしています。まだおしゃべりができないので自分の意思を言葉で伝えることはできませんが、向けられる表情、声色や口調の変化、だっこされたときや触れられたときの感触を通じてさまざまなことを感じとり、からだを使って応えています。
──赤ちゃんとコミュニケーションをとる場合、どの部分に注目すればよいのでしょうか。
赤ちゃんとのコミュニケーションで大事な3点
坂上先生:赤ちゃんとのコミュニケーションで大事な点は3点です。親子のコミュニケーションで大事になるのは、“表情”や“視線”、そして“触れる”という3点になります。
自分に向けられる笑顔、やさしいまなざし、困った顔など、赤ちゃんは相手の表情をよく見ています。と同時に、なにを見ているのか、どこを見ているのか、自分に向けられる視線も意識しています。ぜひ、だっこしてお互いの感触を確かめながら話しかけてあげてください。
〈Photo by iStock〉
──おもちゃなどで一緒に遊ぶ際は、何に気を付ければいいでしょうか。まだおしゃべりができなくても、どんどん話しかけるべきなのでしょうか?
坂上先生:赤ちゃんとのやりとりでは、相手が「コミュニケーション初心者」であることを覚えておきましょう。キャッチボールでは相手が受けとりやすい速さや軌道でボールを投げないと、ボールのやりとりが続きませんよね。赤ちゃんとのコミュニケーションも同じです。
赤ちゃんは、自分のまねをしてもらうことが大好きです。また、表情を豊かに、声にも抑揚をつけたり、口調を変えたりしながら話しかけると赤ちゃんが注目しやすくなります。言葉の意味がわからなくても、声のトーンや表情から伝わることはたくさんあります。
──具体的にはどのような声かけがいいのでしょうか。
坂上先生:コミュニケーションの主体は、常に赤ちゃんのほうです。赤ちゃんの様子を見て応えるような「笑っているねぇ」「楽しいね」「びっくりしたね」などが良いです。「あー、うー、なのね」と相手の言っていること真似してあげるのもいいでしょう。
反対に「見せて、見せて!」「これでも遊べるよ!」など赤ちゃんの反応を見ず、こちらが言いたいことだけを伝えるのはNG。赤ちゃんの「やりとりしたい」という気持ちが薄れてしまいます。
〈『子どものこころの発達がよくわかる本』より〉
2ヵ月~1歳ごろ「話す」前段階の発達
──喃語が出てくるようになると、親としては「たくさん話しかけて覚えてもらいたい」「◯ヵ月までには“二語文”出てほしい」など、子どもの“言葉”への欲が高まってくるように思います。「言葉を発する」までにはどのような段階があるのでしょうか。
坂上先生:赤ちゃんは「音を聞き分ける力が先に発達する」と言われています。最初は、母親の胎内で音を聞くところから。おなかの中では羊水に浸かった状態で外界の音を聞いているので、はっきりと聞こえないため、言葉の抑揚やリズムを感じとっている、と言われます。
出生後は、必要な音を聞き分ける段階に。音のリズムを手がかりに、母語とそのほかを区別していきます。徐々に養育者が話す母語から必要な音を聞き分けるようになります。
生後6ヵ月ごろになると、養育者の話す言葉から、音のまとまりとして、単語を聞き分けるようになります。そうして、だんだんと“言葉”を発する段階に近づいてゆきます。
──音を聞き分けるというのは、もうお腹のなかにいる段階から始まっているのですね! こうした段階を経て、“話す”に繫がると思うのですが、次の段階はどうなるのでしょうか。
坂上先生:音をわかっていても、話すまでには時間がかかります。
大人でも外国語を学ぶときは耳で音を聞いて、どんなふうに発音するのかわからないと、話せるようにはなりませんよね? それと同じように養育者が話している言葉を聞いて、言葉を構成する音を聞き分ける能力を発達させていきます。周囲のいろいろな言葉を聞きながら、自然と母語に含まれる音を覚えていくのです。
それに言葉は「音を覚える」後に「理解」が先に来ます。「話す」のはその後です。
〈『子どものこころの発達がよくわかる本』より〉
1歳ごろ まずは1語からスタート!
──「話す」より「理解」が先、というお話でしたが、どういうことでしょうか。
坂上先生:初語がでると、まずはその1語、例えば「マンマ」というひと言で、「お母さん」や「ご飯」、「犬」や「ねこ」まで表そうとするのが普通です。しかし、コミュニケーションをとるうちにやがて「モノには対応する名前がある!」と気づくときがくるんですね。「マンマ」=「ご飯」、「ワンワン」=「犬」、「にゃんにゃん」=「ねこ」、という感じに。
──なるほど! それが「理解」ということなんですね。
坂上先生:それが、だいたい1歳半~と言われています。名前とモノが頭の中で少しずつ結びついて、語彙が一気に増える時期です。名前を知りたくて、「あれは? これは?」と質問を頻繁にくり返し、こうしたやりとりが楽しいと、「もっと知りたい」という好奇心も強くなります。2歳を過ぎるころには約300語を理解するといわれています。
──「知りたい」と思う力が、「話す」ことを促すようになるんですね。改めて、子どもの「知りたい」欲を刺激するコミュニケーションが必要だと感じました。
坂上先生:そうですね。「知りたいことがたくさんある」「周囲の反応が楽しい」のが、このころの特徴です。大好きな人が発見の驚きや喜びを共有してくれることで、言葉を介するやりとりが子どもにとってより楽しいものになります。
〈『子どものこころの発達がよくわかる本』より〉
坂上先生:1歳半~2歳ごろになると語彙が増え、「マンマ、食べる」など単語を組み合わせた二語文を話すようになります。3歳ごろには、「赤い、長ぐつ、はきたい」というように3語以上の言葉を使ったり、名詞や動詞の使い分け方も理解できるようになったりします。4歳ごろには話し言葉はほぼ完成し、大人とだいぶスムーズに会話できるようになります。
今回は、0~2歳ころの“言葉”について、おもに発語や言葉の理解の過程を中心に坂上裕子先生におうかがいしました。次回は、1歳~4歳ごろ、言葉のやり取りを楽しむようになるころの言葉の発達について、おうかがいします。
■今回ご紹介の書籍はこちら
『子どものこころの発達がよくわかる本』
発達はさまざまな事柄が関係しあい、枝葉のように広がって進んでいくものです。たくさんの枝葉を支える太い幹と根っこが育つには、長い時間が必要です。子どもも親も試行錯誤して、失敗と修復を繰り返しながら、育っていきます。
本書では、保護者や保育者向けに、就学前までの子どもの発達や対応の具体例をわかりやすく解説しています。
『子どものこころの発達がよくわかる本』青山学院大学教育人間科学部心理学科教授・坂上裕子/監修 講談社