能力はカバーできるけど、人間性はカバーできない
私がまだ駆け出しのコンサルタントだったころ、様々な会社に訪れたが、その中で一つ、思い出深いものがある。
おそらく、製造業の会社だったと思うが、ある説明会でのこと。
それは、10分から15分程度の短いもので、プロジェクトの意義を、メンバーの一人が、社内向け説明するものだった。
ただ、お世辞にも上手な説明ではなかった。
資料も、プレゼンテーションも、よく練られていたわけではなかった。
そして、同じことを思ったであろう、参加者の一人が、こんなことを言った。
「説明がわかりにくいんですけど」
ちょっと失礼な感じではあったが、当然の指摘でもある。
ところが、そこにいた役員が、「分かりにくいんですけど」と言った人に対して、こう言ったのだ。
「その言い方は良くない」と。
そしてこういった。
「説明はもっと練習すべきだし、わかりにくいという点にも同意する。しかし指摘のしかたも良くない。「ここがわかりにくいのでもう少し話をしてほしい」とか、「ここまではわかったけど、次のところが理解できなかった」とか、単に否定するだけなら、子供でもできる。」
と言った。そして続けて、
「好き嫌いを言うだけじゃなく、建設的な場にするためにどうすべきか、よく考えて発言しなさい」と言った。
*
そして、同じような話を、他にも聞いた。
例えば、採用においてだ。
私が聞いた中で、最も記憶に残っているのは
「とにかく、邪悪な人を採用しないようにする」
という、ある経営者の話だ。
「邪悪」という強いことばが何を示しているか、最初、よくわからなかったのだが、採用面接を繰り返すうちに、なんとなくわかってきた。
邪悪な人とは、仕事においては「仲間や組織風土に、悪影響を及ぼす人」を指す。
すぐにマウントを取ろうとする人。
・「別に悪口言ってるわけじゃないよ? 事実でしょ?」
・「今日のプレゼン、内容が薄いよね~」
・「君にはまだ早いかな。もう少し勉強してから提案したら?」
妬みと悪口ばかりの人。
・「今回はタイミングが良かっただけでしょ」
・「まぐれで上手くいっただけで、大したことないよ」
・「才能ないよね。」
責任を果たそうとしない人。
・「そんな理想ばっかり言っててもね~」
・「私はこの程度なんです」
・「そこまでやるように言われてませんでしたけど?」
・「勉強したくありません」
こうした発言の元にある思想は、強い利己性だ。
冒頭に述べた会議で、「説明がわかりにくいんですけど」としか言わない発言者は、その場を、建設的な場にするための努力を怠っている。
要は、幼稚なのだ。
*
この類の「幼稚さ」は、救いがたい。
というのも、仕事の能力が足りないだけであれば教育訓練によって、それをカバーできる可能性があるが、利己的な発言は人間性に根差しているので、カバーが非常に難しいからだ。
しかも、波及効果が大きい。
例えば、幼稚さの一つの表れが「無礼」だが、無礼な人間が職場にいると、生産性が落ちる。
職場で誰かに無礼な態度を取られていると感じた人は、たとえば次のような行為に出ることがわかった。
・48パーセントの人が、仕事にかける労力を意図的に減らす。
・47パーセントの人が、仕事にかける時間を意図的に減らす。
・38パーセントの人が、仕事の質を意図的に下げる。
そしてもう一つ。
幼稚さは、自分自身で気づきにくく、それゆえに基本的には直らないし、直りにくい。
自己中心的な人は、自分への指摘を受け取るどころか、それを「自分への攻撃である」と受け取り、ますます意固地になる。
実際、冒頭の「説明がわかりにくいんですけど」と言った人間は、役員からの再三の指摘に対しても、
「分かりにくいものを、わかりにくいと言って、何が悪いんだよ。」
という趣旨の発言を同僚に繰り返していたため、会社から追い出された。
能力はカバーできるけど、人間性はカバーできない。
採用の時に、「人間性を最も重視すべき」と言われる所以である。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」76万部(https://amzn.to/49Tivyi)|
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