さとう。『とあるアイを綴って、』インタビュー――新たな魅力を感じられる作品で"さとう。の世界観においでよ"
──昨年の1月に配信リリースした「3%」がSNSで大ヒットしました。MVの再生回数だけを見ても339万回再生を突破していますが、その反響をどう感じていましたか?
「「3%」は2020年ぐらいにもう出来ていてライブハウスでも歌っていた曲なんです。だから、聴いてもらえてとても嬉しいんですけど、すごくびっくりしたという気持ちが一番大きかったです。でも、以前から聴いてくれてる人たちが“あの曲、いいと思ってたんだよ”、“ようやくみんなに届いたね!”って言ってくれて。その人たちが喜んでくれたのが嬉しかったですし、さとう。の入口として大きな扉になったという実感はありました」
──さとう。というシンガーソングライターの名前を広く世に知らしめる曲となった「3%」は実体験を元にしたラブソングですか?
「自分の恋愛ソングではなくて、私と姉との電話から出きた歌なんです。18歳で伊豆から上京してきて、2つ上の姉と一緒に住んでいた時期があって。充電がなくなりそうだけど、“今、もう帰ってるよ”っていうのを急いで伝えなくちゃと思って電話したのがきっかけです。これが恋人同士の会話だったらどうなるんだろう?という妄想をそのまま歌にした曲が「3%」なんです」
──そうだったんですね!
「ここ数年で自分でも分かってきたことなんですけど、私は自分が見たものや触れたものにフィクションの要素をつけるのが好きなんですよ。元々あまり自分自身のことを歌にするのがそこまで得意じゃなくて。だから、フィクションが多かったんですけど、最近は“どこかの誰かのフィクションだ”という意識で、自分の歌ではなく、誰かの歌として、背伸びをしない実寸大のさとう。として歌っています。時々、さとう。自身の歌が出てきますけど、常に誰かに寄り添えるような曲作りを目指しています」
──そして、昨年夏には「3%」を含む7か月連続リリース楽曲を全曲収録した1st ALBUM『産声みたいで、』をリリース。全12曲がギター1本マイク1本の弾き語り音源となっていました。
「初めてのアルバムですし、“今までのさとう。が産んできた曲をそのまま収録したいな”っていう気持ちが強かったんです。聴いてもらった人たちからは、“尖ってるね”って意見や、“寄り添ってくれる”って声が届いて。受け取る人によって、いろいろな解釈があることが嬉しいので、そういう意味では、ああいう形のアルバムにできてよかったと思います」
──タイトルに“、“がついているのは?
「生まれたての言葉を歌にする…歌が生まれる瞬間って、“産声みたい“と思ったんです。でも、その産声を聴いて、悲しいと思う人もいれば、優しいって思う人もいる。そういうふうに、受け取った人たちにとっての答えがあればいいなと思って」
──聴き手によって、『産声みたいで、悲しい』や『産声みたいで、優しい』というタイトルに変わるってことですか?
「そうですね。同じタイトルでワンマンライブもやったんですけど、そのライブもそういうテーマを持っていて。このライブを見て、“温かな1日だったな”って思う人もいれば、“なんだか悲しい気持ちになったな”って思う人もいていいと思うんです。アルバム自体もそういう1枚になったらいいなと思っています。答えまでは出さずに皆さんに届いたらいいなと思って作りました」
──ちなみに『産声みたいで、』の中には“さとう。自身の歌”はありますか?
「自分でイラストを描いたアルバムのジャケットにもなっているんですけど、「楽屋」はフィクションを歌うさとう。の中でも、さとう。自身のノンフィクションを歌った曲です。私は2019年4月に音楽の専門学校への進学をきっかけに上京して、その年の11月に初めてライブハウスに出て。“これから徐々にライブを頑張って行くぞ”っていう矢先にコロナ禍になって…。ライブも全部キャンセルになり、学校も始まらず、実家にも帰れなくて。線路沿いの1Kで一人暮らをしていて、もう本当に“誰も自分の歌を聴いてくれないまま終わっちゃうのかもしれない“って本気で思いました。それまで大きな挫折がなかったので、そこで一回、沈んで落ち込めたことは、今になっては学生生活の宝になっていますけど、そのときには書けなかったんです。でも、何年か越しに、その挫折の時期を思い返して、ようやく書けた曲です。「楽屋」が今の自分を支えてくれているし、”つらいことや悲しい経験もちゃんとさとう。は歌に出来るんだ”って自信にも繋がった曲でもあります。このアルバムの中では、「楽屋」はさとう。にとってすごく大切な曲だと思います」
──昨年冬にはLIVE TOUR『線路沿い1Kを飛び出して』も行っていますが、次の作品はどんなツアーにしたいと考えていましたか?
「7ヶ月連続リリースを経てフルアルバムを出して、そのアルバムを携えてインストアライブやツアーをやって。2024年は本当にみんなに会いに行けた年というか、いろんな人と出会えた年でした。その前からさとう。と出会ってくれた人たちにももっと届けたいですし、このアルバムから出会った人たちにも、“これからずっとさとう。をそばに置いてもらえるような作品を作りたい“と思っていました。初めてのバンドアレンジもありつつ、今までみたいな弾き語りに寄り添った曲もちゃんと込められたミニアルバムにしたいという思いで、この6曲を収録しています」
──TVアニメ『花は咲く、修羅の如く』のエンディング主題歌「朗朗」も収録されてますが、初のアニメタイアップにはどんな姿勢で臨みましたか?
「原作コミックのファンの方が多くいらっしゃるので、主人公たちにちゃんと寄り添える楽曲を作りたいって気持ちもありましたし、“作らなきゃ”っていう使命感もありました。2024年の1年間でたくさんの人と出会う前のさとう。は、“さとう。の歌を歌うぞ”っていう、どちらかというと内側に向いた気持ちがずっとありました。“誰にも聴いてもらえなくてもいいから、さとう。の歌を歌わないといけない”と強く思っていたんです。でも、そんなさとう。の歌を受け取ってくれる人たちと2024年にたくさん出会いました。“私はこの人たちにちゃんと届けなくちゃいけない”って、大きく変わった1年でもありました。そんな中で、アニメのエンディング主題歌のお話をいただいて、原作コミックを読んだら、“朗読”のお話だったんです。誰かの言葉を自分の声で届けていくことに重きを置いている人たちで、“今までのさとう。と真逆の立場にいる人たちだな”と思いました。そこでハッとさせられたんです。だから、「朗朗」を書き下ろしたときは、キャラクターたちに寄り添えるような歌詞を書こうっていう気持ちで、サビの<誰かの言葉でも構わない 伝えるんだ>っていうフレーズを書いたんですけど、レコーディングやライブを経て、だんだんと“この歌詞は、今のさとう。の本心なんだな”っていうふうに気づかせてもらいました。改めて、1st ALBUMやツアーを経て、たくさんの出会いがあって、その人たちに伝えていきたい、届けていきたいっていう気持ちに気づかせてくれた作品でしたし、それを形にできた曲になっています。この曲でさとう。はまた一歩進めましたし、そういうきっかけをもらえた作品にすごく感謝しています」
──<この声を 想いを 僕を 信じてよ>というフレーズはアニメにもさとう。さん自身にも重なって聴こえますね。これまではライブもアルバムもずっと弾き語りでしたが、バンドアレンジはどうでしたか?
「正直、未知数というか、わからなくて…。“どういうアレンジになるんだろう?”って思っていたんですけど、関口シンゴさんがさとう。の弾き語りの姿勢を汲み取ってくれる人で。ちゃんと弾き語りをしているさとう。の絵が浮かぶようにアレンジをしてくれていますし、今までのさとう。のファンの人も“ギターの音も聴こえて、さとう。さんのバンドアレンジって感じで素敵です”って言ってくれる方が多くて、すごく自信に繋がりました」
──『とあるアイを綴って、』ではバンドだけじゃなく、さまざまなアレンジにも挑戦していますよね。「点滅する」は弾き語りから始まってバンドが入ってくる形です。
「mini albumの1曲目に置きたいと思いましたし、実際に置くってなったときに、“さとう。のギター1本、声1本から始めたい“っていうのがあって。Aメロからバンドアレンジにするっていうやり方もあったと思うんですけど、いい意味で”裏切っていきたい“と思って、ライブでいつもやってるような感じのままにしたアレンジになりました」
──「点滅する」は信号機がモチーフになっていますよね。
「自分が好きなアーティストさんをお招きして、信号機がタイトルになった3マンライブを2回していて。1回目が『信号が変わる時』というタイトルで、そのときのメンバー(イトウセレネさん、夏野さん)がすごく良かったので、去年の7月にも『信号待ちに口ずさめば』っていうタイトルでやりました。その時には書き下ろした楽曲になっていて。ライブを一緒にやったアーティストたちもそうなんですけど、さとう。の周りにいる人たちはすごく人間味に溢れていて、“もうしんどいんだよね”とか、“ちょっと疲れちゃって、最近つらいんだよね”っていう部分までもさとう。に見せてくれるんです。それってすごく愛おしいなと思って。これまであまり背中を押すような強い応援歌をなかなか書けずにいたんですけど、そういう暗闇にいるあなたもちゃんと肯定したいって思ったときに、“背中をさするような寄り添い方ならできるんじゃないかな?“と思って書き下ろした曲になっています」
──<出会えた奇跡に 歌いたい>っていうのはスリーマンについて歌っているんですよね。
「その人たちだったり、私に出会ってくれた人たちだったりです。「3%」を経て、もしかするとみんなからキラキラして見えているかもしれないですけど、「楽屋」のときだったりコロナのときだったりっていうのは本当に真っ暗で。“何もキラキラなんかしてない“っていうときにもずっとさとう。の音楽を傍に置いてくれたあなたと、これから先ずっと一緒に渡っていきたい。そんな気持ちをすごく込められた楽曲になっています」
──3曲目の「アマレット」はアコギの弾き語りとチェロのデュオ編成です。
「リキュールの名前なんですけど、お酒の酔った感じとか、歌詞に出てくる海の波の揺れる感じが欲しいと思ったんです。バンドアレンジのイメージがつかなかったときに、アレンジャーさんが“チェロを入れてみるのはどうかな?”って提案してくださって。私も“いつかストリングスを入れたい”と思っていたので、実際にレコーディングをして、生の音を聞いたら、もう“これだ!”ってなって。そのままチェロとさとう。の声とギターっていう、とてもシンプルで、でも、とても重みのあるアレンジに出来上がりました」
──酔ったまま海に入って心中しちゃいそうなムードを感じました。
「あははは。この曲の主人公は、“君には帰る場所があるから”っていうのがわかっていて。だから、帰してあげなきゃっていう。いろんな捉え方をしてもらいたいんですけど、さとう。のイメージでは、許されないと言うか、そこまで綺麗じゃない恋の終わりです。今までも悲しい恋愛の曲が多かったので、『とあるアイを綴って、』でもそういうポジションの曲がちゃんと残せたのはすごく嬉しいです」
──続く、「春一番」ではピアノを弾いていますね。
「ピアノ曲は前から数曲あったんですけど、この曲は去年の4月に書き下ろした楽曲です。ピアノの曲にもチャレンジできるという意味では、『とあるアイを綴って、』から新しくなったさとう。を如実に表していて。春の寂しさを突きつけてくる感じを歌にしたくて、サビにも<嗚呼、余計なことをするなよ>って春に対する怒りを込めながら歌っています」
──学校を卒業して、二度と会えなくなってしまった人を思い出しました。
「“今、言うしかないのにうまく言えない“ってなる、むず痒い感じをきっと誰しも経験してると思うんです。どうしても今、伝えなきゃいけないけど、上手に言えないもどかしさ。さとう。もそういう経験がたくさんあって。でも、きっと歌になる。”もう歌にするしかないんだ“っていう諦めにも近い希望がここにはあるかな?っていう感じです。この3月っていう春のタイミングで出せるのはすごく嬉しいです」
──「夕陽になった人」は完全なバンドサウンドによるギターロックですね。
「はい。中学生の時に邦ロックにハマっていたので、“ロックな感じを出したいな”と思って。この曲もフィクションが多く混ざっているストーリーです。夕陽の色や景色、街を見たときに、もう会えない人や昔大事だった人を思い浮かべたりする経験がきっと誰しもあるだろうなと思って」
──さとう。さんにとっての「夕陽になった人」というのは?
「会えない人ではないんですけど、自分の家族がオレンジ色が好きなので、家族のことを思うことが多いです。夕日を見た時や、夕陽の色を見て、誰かを思い浮かベたときに寄り添える楽曲になったらいいなと思っています」
──そして、最後にアコギ弾き語りによる「Aini」が収録されています。
「毎年、“年末の12月31日に白紙の状態から1曲書き下ろす“っていうことを2019年からやっていて。この曲は2023年12月31日に書いた曲です。年が明けた翌年から、本当にこの曲の通りになりました。何度も言っていますけど、2024年はみんなに会いに行けましたし、みんなが会いに来てくれた1年でした。出会いにすごく感謝した1年でしたけど、<出会いたいな あなたに>という祈りはずっと変わらずに自分の中に取っておきたいと思って。”まださとう。を知らない人たちに会いに行けたらいいな”って祈りで終われるように、この曲を一番最後に持ってきました」
──アルファベットにした「Aini」と通ずるものがあるかもしれませんが、mini albumのタイトルを『とあるアイを綴って、』と“アイ”をカタカナにしたのはどうしてですか?
「ラブの“愛”もそうですし、自分自身の“I”もそうですし、“哀”や“会い”とか、いろんな“アイ”が込められた1枚になっています。さとう。の中では括弧書きがあるんです。ジャケット写真のメッセージボトルはさとう。のテーマになっているんですけど、“(あなた)とあるアイを綴って、”が自分の中で完成系だと思っています。メッセージボトルも歌も受け取ってくれるあなたがいないと成り立たないですし、完成しません。このアルバムもメッセージボトルみたいに、まだ見ぬあなたの元に流れ着いて、届いたときに初めて、『(「あなた)とあるアイを綴って、』っていうmini albumが出来上がると思っています。そういうふうに完成できたらいいなっていう祈りがこもったタイトルになっています」
──LIVE TOUR『朗朗、その声だけを頼りに』も決定していますが、こちらも初のバンド編成となっています。どんなツアーになりそうですか?
「弾き語りもやって、バンド編成もやる予定です。なので、今までのさとう。を知っている人も、アニメやmini albumを通してバンドアレンジのさとう。を聴いた人もちゃんと楽しんでもらえると思います。みんながそれぞれの気持ちを持って帰ってもらえるようなツアーにしたいと思いますし、前回のツアーと比べてキャパも大きくなったので、まだ出会えていない人たちにも出会えるようなツアーにできたらいいなと思っています。そのあとも、ツアーに限らず、いろんなところでライブをして、いろんな人たちと出会っていきたいです。さとう。を知らない人たちの前でライブができる機会がもっとあったらいいなって思っていますし、いっぱい出会って、“さとう。の世界観においでよ”って巻き込んでいきたいです」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
LIVE PHOTO/スエヨシリョウタ
ライブ:さとう。LIVE TOUR『線路沿い1Kを飛び出して』TOUR FINAL
撮影日:2024年12月6日
会場:SUPERNOVA KAWASAKI
RELEASE INFROMATION
2025年3月12日(水)発売
BZCS-1226/2,000円(税込)
さとう。『とあるアイを綴って、』
LIVE INFORMATION
3月21日(金) 東京 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
3月29日(土) 愛知 名古屋SPADE BOX
3月30日(日) 大阪 南堀江knave
SUPPORT MUSICIAN : Ba. 出口博之(モノブライト) Dr. ZACK
【TICKET】
e+:https://eplus.jp/sato-darari/
ローソンチケット:https://l-tike.com/sato-darari/
LIVE TOUR『朗朗、その声だけを頼りに』