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好きな仕事でワーキングプアになった建築士が40代で悟ったこと。

スタジオパーソル

スタジオパーソル編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。今回は、好きなことを仕事にして葛藤したエピソードをご紹介します。

建築士の平野 裕子さんは、20代で自分探しの旅に出て、30代で未経験ながら好きなことを仕事にするも、うまくいかずにモヤモヤとした時期を過ごしました。そして40代でようやくたどり着いた心境について、noteに投稿しました。

※本記事の引用部分は、ご本人承諾のもと、投稿記事「知識・スキルゼロの未経験から、建築士になり独立するまでのリアルな話」から抜粋したものです。

オーストラリアで自分探し。行き着いた先は愛媛。

今は建築士としてはたらく平野さんですが、20代はやりたいことが分からず、自分探しをしていたそうです。オーストラリアのタスマニアに環境を学ぶため2年間滞在し、現地の人と国際結婚をするなど、アクティブに生活していました。

ところが、採用された仕事は事務職。学んだ環境の知識を生かすことができず、複雑な気持ちで過ごしていたそうです。

仕事を辞め、離婚をしたことが重なり、将来計画が白紙になりました。これから先も東京で満員電車に揺られながら通勤し、事務職の仕事しながら淡々と日々を過ごすという未来に耐えられなくなりました。

「知識・スキルゼロの未経験から、建築士になり独立するまでのリアルな話」より

やけっぱちになった平野さんは、31歳で「好きな場所に住んで、好きな仕事をしよう。」と決め、愛媛へ移り住みます。そして「安定した条件での職探し」から「好きなことを軸にした職探し」へ切り替えました。

興味を持ったのは建築設計の仕事です。設計デザインをしている友人の話を聞いてワクワクしたのがきっかけですが、平野さんには建築の知識も経験もありませんでした。本屋で建築士について調べてみると、建築系の大学を出ていない人は設計管理の実務経験を7年積まなければなりません。

これはかなりハードル高い! はい、終了!

いったんはそう思った平野さんですが、松山の職安で「職業訓練校で建築を学べるコースがある」と知ります。それから職業訓練校の総合建築科で必死に学び、無事地元の工務店に就職したのです。

しかし、念願の仕事はあまりにも過酷なものでした。

好きな仕事でワーキングプアに

地元の工務店で、平野さんは木造の注文住宅の設計管理の仕事を8年間行いました。ようやく好きな仕事を始められたはずが、小さな会社で福利厚生はほとんどなく、サービス残業にサービス出勤と、働けども働けどもワーキングプアな低賃生活が続きます。疲れた体に鞭を打って勉強し、二級建築士に合格するも、心身はボロボロになってしまいました。

念願だった建築設計の仕事に就き、建築士にもなれたのに、幸せとは程遠い生活。プライベートを犠牲にして、遊ぶ時間もないほど仕事しているのに、ワーキングプア状態。プライベートでも事件が次々と起こり、食べれない、眠れない、うつ状態になって、心が折れて立ち直れなくなってもおかしくない、ギリギリのところにいました。

「知識・スキルゼロの未経験から、建築士になり独立するまでのリアルな話」より

低空飛行の30代の日々。「好きな仕事を選んだはずなのに、これが本当に望んでいた生活なの?」そう自問自答するも、答えられずにいました。

そしてついに、40代で「今ここで決断しなければ後悔する」と会社員を辞める決意をし、脱サラしてフリーランスになります。

最初はアルバイトや副業をかけもちしながら生計を立てていましたが、さまざまな仕事を受けているうちに、平野さんの中にとある違和感が芽生えていったのです。

きっかけは、デザイン重視、安さや見た目だけでビニールクロスを選択するやり方に心から嫌気が差し、気持ちが受けつけなくなっている自分を発見した時でした。

「知識・スキルゼロの未経験から、建築士になり独立するまでのリアルな話」より

そうはっきりと自覚したのは、フリーランスになってから3年後のこと。自分の「嫌」を自覚すると、そこから目指したい建築の方向性が見えてきたそうです。

・何でも屋にはならない・好きな仕事は自分でつくり出す・一緒に仕事をする人を選ぶ・木造住宅専門でいく・自然素材でつくる(新建材を極力使わない)・環境と健康のことを追求する

上記の方針を決めたところ、平野さんの仕事人生を左右する出会いが生まれます。

「好きな仕事」は見つけるものでなく、育てるもの。

仕事人生を左右した出会いとは、手刻みの大工さんたちとの出会いです。環境を考えて自然素材で木組みの家を作る大工さんたちは、平野さんにとって「ああ、やっと自分の居場所ができた」と心が温かくなる存在でした。

そこから平野さんは「自分が目指す建築の方向性」をよりはっきり理解し、設計事務所を立ち上げます。さらに自然素材の事務所&ショールームが欲しくなり、築30年の古民家を購入し、リノベーションした住宅兼事務所を作ります。ここでようやく海外で環境を学んだ経験が実を結びました。

手刻みの大工さんと打ち合わせて作り上げた住宅兼事務所は、仕事に対する愛情をより深く感じられる場になったそうです。

好きな仕事というのは、見つけるものじゃないんだな、と今になって思います。時間をかけて自分の選んだ仕事を好きになっていく、好きな仕事にしていくものなんだ。それが個人的な体験を通じて学んだことです。

「知識・スキルゼロの未経験から、建築士になり独立するまでのリアルな話」より

これまでの紆余曲折ある長いキャリアでそう学んだ平野さん。悩みや葛藤をたくさん重ねてきたからこそ大きな喜びを得ることができ、「何かを手に入れたかったら、それに対する対価を差し出さなくてはならない。」と知ったそうです。

「好きな仕事をしたい」と考える人は多いものの、実際に好きなことを仕事にした時に、うまくいかずに挫折する人も少なくありません。平野さんも最初は心身のバランスを崩してしまいましたが、脱サラしてはたらき方を変え、自分の気持ちと向き合って方針を見定めたことで自分に合ったはたらき方を見つけることができました。

もし好きな仕事に挑戦してうまくいかなかったとしても、はたらく場所やはたらく人によって好転するかもしれません。あきらめずに自分に合ったはたらき方を探すことが、好きを叶えるきっかけになるのではないでしょうか。

<ご紹介した記事>知識・スキルゼロの未経験から、建築士になり独立するまでのリアルな話【プロフィール】平野 裕子 / 水と木の間で暮らしの設計デザイナー『水と木の間で』代表 ・住まいの環境と健康を考えてます ・愛媛県松山市に移住→海の側の暮らし ・同居人はポーランド人パートナーと2匹の猫 https://www.btwwaterandtree.com/

(文:秋カヲリ)

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