新学期に体調を崩す3つの理由、ASDの私の中高時代を振り返って
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
新年度はいつも調子を崩す…
私立の中高一貫の女子校に通っていた私。公立の小学校に通っていた頃に比べ、おっとりとしたクラスメートに囲まれて、学校での人間関係ではずっと楽に過ごせていました。
しかしいま思えば、決まってなんだか心身がザワザワして調子が悪くなるな、という時期がありました。それが新年度の時期です。
登校時間が早くなる
私の通っていた学校では夏時間と冬時間がありました。夏時間は冬時間に比べ、タイムテーブルが前倒しになります。新年度になったら夏時間が適用され、冬時間の時期よりも少し早く起きて早く登校しなければならなくなる仕組みでした。
2時間かけて登校していた私は、冬至前後の時期は起きるとまだ真っ暗。それが年度末に向かって徐々に夜明けが早くなり、起きるのが楽になっていく。でも4月になって夏時間が適用されると、せっかく楽になったぶんが登校時間の前倒しで相殺されてしまうのです。そうして、また真っ暗な時間に起きなければならなくなるのでした。
まだ自分に発達障害があり、人よりも疲れやすい傾向があることを自覚していなかった私。睡眠不足で疲れ切り、過緊張で睡眠の質も悪い状態で、まだ真っ暗なうちに起きて支度しなければならないのは、身体にも心にもとてもしんどいことでした。
4月の電車は混んでいる
登校時間帯は通勤ラッシュの時間帯でもありました。新年度の時期は新入生だけでなく、新社会人や転職した人などが新しく入ってくるので、「いつもの時間のいつもの車両」でも、違う環境になってしまうわけです。
新しく入ってきた人たちはなんとなく電車の中での身のこなしに慣れていなかったりして、ただでさえぎゅうぎゅうの電車がさらに混んでいるように感じられます。「ここの車両のここの椅子の前の、端から何番目のつり革」とだいたい立ち位置を決めていたり、毎日顔を合わせるうちになんとなく互いに気を遣い合って無言の中で立ち位置を融通しあっていたような人との関係性も変わってしまったりします。
私は小柄でつり革に手が届きづらいですし、DCD(発達性協調運動症)の影響かバランスをとるのが苦手で、電車が揺れるとすぐにフラついてしまうので、この時期はとりわけ、電車を降りた時点でぐったりしてしまったのでした。
学年が上がると「暗黙のルール」が変わるのが気持ち悪い
新年度になると1つ学年が上がり、私は生徒たちの中で1年先輩になります。そして、「学年が1つ上がるごとにスカートの丈を3センチずつ短くしてもいい」「3年になったら第1ボタンを外してリボンを少し緩めていい、高校になったらリボンなしでいい」みたいなルールが適用されていきます。
しかも、それらのことははっきりと「今日からこれをしていいよ」と明言されるのではなく、そのルールに違反したときに上級生からシメられる、同級生から白い目で見られる、ということから徐々に明らかになるのです。
こういう、「歳が1つ上というだけで扱いが1つ緩くなる」「私は私なのに3月31日を境に社会的な扱われ方が変わる」みたいなことが、暗黙のルールとか社会的な相対的関係性の感覚が発達していなかった私には気持ち悪くてしかたありませんでした。
こうした気持ち悪さはストレスの量としてはそれほど大きなものではありませんでしたが、すでにいろいろなストレスの累積している私にとっては「コップの水を溢れさせる最後の1滴」のようなものでした。当時言語化はできなかったのですが、胸がモヤモヤザワザワしてつらかったのを覚えています。
中高当時恵まれていたこと
私の通っていた学校は保守的なお嬢様校だったため、校則はとても厳しかったです。また、大学以降の生活と違い、学校側がギチギチにタイムテーブルを組んでいました。
これは息苦しくもありましたが、学校側の用意するルールやルーティンに従順に従っていれば日々が回っていくということでもありました。その点は、変化の苦手な私にとっては楽だったかもしれないと思います。
今はぼちぼち新年度を乗りこなせている
今はフリーランスとして働いている私。取引させていただいている企業や行政手続きの関係で、やはり年末年始や年度の変わり目といった節目には私も間接的な影響を受けます。
それでも、そもそも無理のない範囲の仕事しかしないようにしていますし、変化が苦手な自分の特性もよく理解しています。調子を崩しそうな兆候に早めに気づいて対処でき、ぼちぼちの状態で乗り切れるようになりました。
自分の特性の理解と、特性に合わせた環境の調整は本当に大事だなと、つくづく実感しています。
宇樹義子/文
(監修:鈴木先生より)
誰でも環境が変わる時には不安がつきものです。ASDの特性の一つとして環境の変化に弱いことがあります。同じ環境が続けば楽なのです。私立の学校の場合は公立と違い、教師の異動がないのでその分、多少環境の変化は少ない状況にあったと思われます。ただ、4月はクラス替えもあり、周りの環境は多少なりとも変化する時期です。卒業後も大学や会社の異動などで今後も環境の変化は避けられないことがあります。できるだけ早く仲間をつくって緊張を和らげる工夫をしてみてください。暗黙のルールも行間の汲み取りが苦手なASDの方にとっては苦痛です。ただ、郷に入っては郷に従えで、社会人になってからも仲間づくりが解決の一歩になりえます。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。