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【「FUJI&SUN’25」初日リポート 】 堀込泰行、柴田聡子、君島大空、折坂悠太-。気鋭のシンガー・ソングライターつるべ打ち

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は5月31日、6月1日に富士市の富士山こどもの国で行われた野外フェスティバル「NEC presents FUJI&SUN’25」を題材に。6回目の今年は2日間で過去最大の約7500人(主催者発表)が来場した。会場を歩いた2日間を2回に分けてリポートする。(文・写真〈クレジット表記除く〉=論説委員・橋爪充)

(C)FUJI&SUN’25

冷涼な空気に包まれた5月31日午前の富士山麓。雲の流れは速く、30分後の天気も読めない。午後からの雨予報に備え、すでにレインウェアを着た参加者も多い。

フェスの幕開けを務めたのは、曇天を打ち破るような「おはやしビート」を響かせた「吉原祇園太鼓セッションズ」の面々。地元富士市に古くから伝わる「吉原祇園祭」の担い手を中心に、2015年に結成した。5回目の出演となる彼らにとって、「FUJI & SUN」はホームグラウンドのようなもの。大ステージ「SUN STAGE」は初めてとあって、例年以上に力の入った演奏を繰り広げた。

地元のスカバンド「THE SIDEBURNS」のホーンセクション、ゲストボーカルにシンガー・ソングライターのモッチェ永井を迎えた総勢14人編成。篠笛、和太鼓、ジャンベを取り入れたファンキーかつ歯切れのいいリズムで会場を温めた。冒頭には小長井義正富士市長が和太鼓奏者として飛び入りするサプライズもあった。

ライブ終了直後にリーダーでギタリストの内藤佑樹に取材すると「FUJI&SUNに育てられて10年やってきた」とフェスに対する感謝の言葉があった。「今日も楽しい雰囲気を出せたと思う」と充実した表情だった。

午後になると、富士山麓が雲の中に入ったようで、ひんやりとしたミスト状の雨粒が感じられるようになってきた。すり鉢状の小ステージ「STONE CIRCLE」で、静岡県出身のHALのDJプレイを見た。トライバル・パーカッションに濁った音のオルガンの音や、スペイシーなフィードバックノイズを重ねる。樹木の下でアイスコーヒーを飲みながら浸っていたら、葉をなでる静かな雨音とアンサンブルを奏でているように聴こえてきた。

(C)FUJI&SUN’25

午後2時過ぎ。中ステージ「MOON STAGE」で堀込泰行の演奏が始まった。今年の「FUJI & SUN」はここから優れたシンガー・ソングライターが連続で登場する。観客の多くは徒歩10分の大小ステージを急いで行き来することになる。

4連発の皮切りとも言うべき堀込はギター1本抱えて登場。自身のフェス演奏経験を踏まえて「これだけの雨は初めてかもしれない」と観客を気遣いながら、エルビス・プレスリーの「I Want You, I Need You, I Love You」からキリンジ時代の「エイリアンズ」「YOU AND ME」まで、弾き語りでやわらかな歌声を聴かせた。本番途中で差し入れられた「キャラメルマキアート」(本人談)の温かさに感謝するなど、いい意味でとりとめもないMCを連発。堀込家のリビングに招かれたような親密さを醸し出した。

「MOON STAGE」からのなだらかな坂を大急ぎで上り、「SUN STAGE」にたどり着くと、すぐに柴田聡子の演奏が始まった。「FUJI&SUN」では昨年、「STONE CIRCLE」に出演している。

椅子に座る形で始まったアコースティック・ギター弾き語りのステージ。「素直」を皮切りに2024年に発表した「Your Favorite Things」収録曲を5曲続けた後、「すこやかさ」や静岡が歌詞に出てくる「雑感」などを挟んで、再び「Your-」の「Movie Light」「Your Favorite Things」で締める構成だった。

(C)FUJI&SUN’25

ギターやキーボードの伴奏だけなのに、歌詞の言葉の連ね方や発語そのものがグルーヴを内包していて、自然に体が揺れる。会場からの声に「ありがとう!」と気さくに答える表情には、昨年の出演時とは異なる緩やかさを感じた。

富士山こどもの国のくねくねとした坂を再び駆け降りて「MOON STAGE」へ急ぐ。到着と同時に「FUJI&SUN」には3回目の出演となる君島大空が、2025年のEP「音のする部屋」からの1曲「迎」を歌い始めた。

アコースティック・ギターでささやくような歌声を届ける。過去2回の出演も見ているが、ギターの超絶技巧にくぎ付けになる。生演奏をその場で録音し音を重ねる場面もあるが、そうでなくてもギター1本で出している音とは思えないほど重層的なサウンドだ。歌と呼応するようにバロック調とも言える速弾きのフレーズが差し込まれる。

「crazy」は音源とは異なる音数の少なさで「隙間」を楽しませた。ギターと人体が一体になったように聞こえる。「Lover」の絶唱は圧巻の一言。「暗いセットリストを作ってきてしまったことを後悔している」とMCで述べていたが、観客はそう感じてはいなかっただろう。闇に無数の閃光を放ったようなステージだった。

今日何度目かの登坂を経て「SUN STAGE」へ。キーボードレス、サックス入りの4人編成をバックにした折坂悠太は最新作「呪文」の掉尾を飾る「ハチス」で幕開け。中盤のポエトリーリーディングも含め、ゆったり体を揺らしながら、言葉をかみしめるように歌う。「しいて何かを望むなら 全ての子どもを守ること」という詩には、会場との親和性を感じた。

(C)FUJI&SUN’25

「朝顔」「針の穴」などを経て、NHK「みんなのうた」に取り上げられた「やまんばマンボ」。「子どもー」という少しテンションが高いMCとともに、タイトル通りマンボのリズムの曲が始まる。力の抜けた歌唱に、これまでにない折坂の顔を見た。

マンドリンを抱えて歌い始めた「さびしさ」の伸びやかな声には、神々しささえ漂った。息が白くなるほど気温が下がった会場だったが、ステージの温度はグッと上がっているように見えた。

同じステージのラストを飾った「くるり」は終始リラックスした雰囲気で演奏を進めた。「琥珀色の街、上海蟹の朝」「ばらの花」という、フェスの「鉄板」2曲で立ち上がる。伊東市で録音した2023年のアルバム「感覚は道標」からの「California Coconuts」では、ボーカル・ギター岸田繁とベース佐藤征史の美しいハーモニーが、暗くなった空にスーッと広がっていった。

くるりのフェスでの演奏は何度も見ているが、「ブレーメン」(2007年)は初めて聞いた。彼らが主催する「京都音楽博覧会」では実績があるようだが、それ以外のフェスでは珍しいのではないか。交響曲のようなアウトロも完璧に再現され、文字通り鳥肌が立った。

本編最終曲は「東京」。1998年のデビューシングルで歌われた上京物語を、2025年の富士山麓でてらいなく、みずみずしく再現できるのは彼らならではだろう。楽曲の強度の高さとも言えるか。アンコールの「ロックンロール」で狂喜する観客を見て、その思いを募らせた。

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