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【「3776」井出ちよのさん、石田彰さんインタビュー】 「全宇宙史」を音楽に。「宇宙しかないだろう、というのはありました」

アットエス

富士市出身のアイドル井出ちよのさんが「3776(みななろ)」名義では5年ぶりとなるフルアルバム「The Birth and Death of the Universe through Mount Fuji」を発表した。4月10日には東京・渋谷区でのワンマンライブも控える。「全宇宙史」を音楽にするという前代未聞のコンセプトアルバムについて、井出さん、プロデューサーの石田彰さん(富士宮市)と語り合った。(聞き手=論説委員・橋爪充、写真=久保田竜平〈CD〉)

3776をもう一度「ちゃんとやる」

-3776名義では「歳時記」以来、約5年ぶりのアルバムですね。製作に至った経緯は。

石田:ちよのさんが東京で活動をすることになり、3776はもう終わりにしようとしていたんですね。でもコロナ禍があってうやむやになっちゃって。そうこうしているうちに、「また作りましょう」と言ってきて。

井出:活動がぼんやりしていたので、3776をもう一度ちゃんとやりましょうと声をかけました。

石田:2022年の年末ぐらいだったと思います。「ちょっとコロナも落ち着いてきたけれど、東京での活動がそんなにできていない。だったら3776をやりましょうよ」みたいな話をされました。

-「井出ちよの」ではなく3776名義にした理由は。

井出:一番長く続けていて、一番復活を望まれていた名前だと思ったんです。(ライブを)見たいという声も多かったし。

石田:3776ではなく「井出ちよの」でやることを前提したものも含めていくつか話をして。その一つが今回のアルバムの案だったんですが、ちよのさんの“食いつき”が良かった。

井出:インパクトがあったんだと思います。

-それにしても壮大なコンセプトですね。富士山を出発点にするのは分かるのですが、宇宙の誕生と消滅というところまで広がったのはどうしてでしょうか。

石田:「富士山って何からできているんだろう」を出発点にして「どこをスタートにしたら良いんだろう」という話になったんです。それならまず宇宙だと。「地球ができるところから」では中途半端になってしまう気がしたんです。

井出:富士山ができる過程というのはすでに3776でやっているので、次のコンセプトは宇宙しかないだろう、というのはありました。割と自然な流れでしたよね。

石田:最終的に、CD1枚に入るように(楽曲の)どこをカットするか、というのがたいへんでした。最初は「もしかしたら収まらないかもしれない」とすら思っていたんです。

-ナレーションは宇宙の歩みなのに、楽曲の歌詞は女子高校生の入学から卒業までをテーマにしています。この手法はどう思いついたんですか。

石田:日常とか恋愛の歌になればいいとは思っていました。何曲か作っているうちに、(宇宙の歩みと)並行させることもできると気づいたんですね、

-ソロ名義の「わたしの高校生活」では井出さんのコメントを集積して石田さんが歌詞を作っていましたが。

井出:今回は一切関係していません。よその人です。歌いながら何となくフィーリングを合わせて。自分の中でつじつまを合わせて。

-井出さんの宇宙科学、地球科学に関するナレーションと歌が交互に入っています。切り分けを意識しましたか。

井出:ナレーションは、難しいことを言っているので単語を大事にしようと、重要な単語を強調し、なるべく聞き取りやすい声でしゃべろうというのは頭にありました。

-曲によっては、だじゃれや言葉遊びが宇宙科学と高校の教室を接続していますよね。つまり井出さんのナレーションがちゃんと聞き取れないと楽曲につながらないわけで。

井出:そうですよね。録音している時に「もうちょっとはっきり(言葉を)出してくれ」と言われたこともあります。(聞き取りやすいのは)その甲斐あってかなと。

石田:(曲と曲の)隙間にこの文章を詰め込むのは無理があるから言葉をカットしようとか、そうしたことはやってました。科学的に間違ったことを言ってはいけないので、どこをカットするかは難しいところでした。
 

こんなの人間に歌えませんよ

-音の話をします。いつも以上にさまざまな音楽の要素が入っている気がします。モータウンのリズムあり、ボッサあり、シューゲイザーあり、ニュージャックスイングあり。今回はDJミックスのようなつながりを強く感じました。

石田:3776で同じように「歳時記」を作ったんですが不満が残っていて。それで今回もやりました。「きれいにつなげたい」という思いがあって。

-1曲目「INTRODUCTION」を受けた2曲目「THE BIRTH OF THE UNIVERSE」は入学式が誕生日の女の子の歌。キックが強いですね。

石田:にぎやかな曲にしたいなというのがありました。

井出:最初に聞いたときに「ボカロみたいだね」と言った気がします。早口で、人間が本来歌う感じじゃない。

-ものすごく難しい曲ですよね。

石田:ボカロっぽい曲も参考にしたりしていました。ちよのさんは「こんなの人間に歌えませんよ」と言っていました。

井出:「これ、人が歌うんだ」みたいなのがありまして。でも、日々訓練してライブで披露してからのレコーディングだったので、いい形で挑戦できました。このアルバムに関しては全曲そうですね。

-4曲目「THE BIRTH OF OXYGEN」は水素とヘリウムがただようだけの暗黒の時代からファーストスターの誕生あたりを解説した上で、美術部の先輩に引かれる歌につなげています。コード進行がとてもおしゃれですね。シティポップ的と言えるような。

石田:そういう音にしたかったんです。コード進行は3776の「春がきた」に近いですね。リズム、メロディーは違うけれど。あのコード進行が好きなんです。

-8曲目「THE BIRTH OF MOUNT FUJI」はギターサウンドで少し不良っぽい歌になっています。

石田:このアルバムは一昔前のアイドルのヒット曲が頭にあるんですが、「THE BIRTH OF MOUNT FUJI」は中森明菜さんの「少女A」や山口百恵さんの一連の作品を参照しています。ちよのさんにも「百恵さんに似せて」と言いました。

井出:「これこれこういうイメージだから見ておいて」みたいな指示がありまして。これまでの活動ではそういう「かっこいい」感じはなかったので、いよいよやらなければいけない時がきたなと。この曲に限ったことではありませんが、このアルバムではこれまでやらなかった歌い方が多いと思います。

-富士山の誕生までで終わりにしてもいいのに、ここで折り返して物語が続くのが本作の素晴らしいところだと思います。

井出:確かに。

石田:宇宙が誕生してここまできて、聴く人の興味としてはこの先どうなるんだろうっていうのがあると思ったんですね。ナレーションを入れる時にずっと頭にあったのは手塚治虫さんの「火の鳥」なんです。はるか昔からずっと存在していて、はるか未来もずっといるという。

-11曲目「THE DEATH OF LIFE ON EARTH」はこの作品で屈指の名曲だと思います。地球上の水が干上がってしまい、生命は死を迎える。生命の居場所を与えられない地球が申し訳なさそうにしている。そこから部員が二人になって廃部になりそうな将棋部を舞台にした歌が始まります。

石田:このシチュエーションを思いつくのは結構たいへんでしたね。学校だとどういう状況だろうと考えて。こういうこともあるかなと思って。

-井出さんのナレーションと歌の切り替えも耳に残ります。

井出:何も考えてないんです。何とか歌いきるぞとしか思っていなくて。フィーリングがうまくはまったのかもしれませんね。

-4月のライブはどのような内容になりそうですか。

井出:バンド編成でやるのは初めて。ただ「歌う」こと以外はまだ決まっていないんです。3776では「3776を聴かない理由があるとすれば」「歳時記」でも再現ライブをやっているんですが、どちらも歌以外がたいへんでした。バンドの人たちとうまくコミュニケーションを取りたいです。

<DATA>
■3776 x OTOTOY presents Vol.9 ~第8回3776ワンマンライブ
会場:WWW (東京都渋谷区)
日時:4月10日(木)午後6時45分開場、7時半開演
料金:スタンディング 4300円

 

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