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音楽と芝居が織りなす粋で洒落た『僕のフレンチ』高泉淳子が語るその魅力

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高泉淳子

今年も師走の東京に『僕のフレンチ』がオープンする。1989年に青山円形劇場でスタートし、クリスマスシーズンの風物詩となっていた『ア・ラ・カルト 役者と音楽家のいるレストラン』の最新形態とも言える、洒落た大人のエンターティナーショーだ。会場は、昨年35周年記念公演を行った有楽町の劇場「I’M A SHOW」と渋谷のライブレストラン「JZ Brat」。今年もジャズの生演奏と笑いあり涙ありのショートストーリーで、クリスマスの夜にレストラン「ア・ラ・カルト」を訪れる人々の人間模様をオムニバス形式で小粋に描き出す。さて、新たなメンバーが加わり、豪華な日替わりゲストを迎えて上演する今回『僕のフレンチ』の見どころは? 構成・台本・演出を手掛け、いくつもの役柄で出演する高泉淳子に、たっぷりと語ってもらった。

『ア・ラ・カルト公認レストラン 僕のフレンチ』

ーー2019年からライブレストランで上演されてきた『僕のフレンチ』。『ア・ラ・カルト』シリーズとして久々の劇場開催となった去年に続いて、今年もI’M A SHOWで上演されるのですね。

劇場でやることはもうないだろうと思っていたので、去年の初日は怖くて舞台袖でガタガタ震えていました。でもステージに照明が当たって、ミュージシャンが入って音を出した瞬間、お客さんからわぁっと声が上がって、ステージが見違えるほど生き生きと輝いて。みんなで1989年から時間を掛けて作ってきた『ア・ラ・カルト』シリーズは、やっぱりそれぐらい力を持った作品なんだなと改めて感じましたね。カーテンコールは客席総立ちで、2日目には劇場さんから「来年もぜひ」というお話をいただいたんです。35周年を機にテーブルや椅子といった舞台装置を処分しようと思っていたんですけど、その手配をする前で本当によかったです。劇場でありながら、お客さんにお酒やソフトドリンクを飲みながら観ていただけたのも嬉しくて。I’M A SHOWは、もともと映画館だったスペースなので、客席にドリンクホルダーも付いているんですよ。

高泉淳子

ーー今回は新メンバーが2名、日替わりゲストが7名参加されるそうですね。

そうなんです。今年はギャルソン役の山本光洋さんと釆澤靖起さんが参加できなくて、どうなるかと思ったんですが、音楽が好きでライブ感覚もお持ちの小林隆さんが出演を快諾してくださって。もう一人のギャルソンがなかなか決まらなかったので、先に日替わりゲストを決めていったんです。こっちが勇気をもらえるような方にお願いしていって、I’M A SHOW公演はROLLY、石井一孝さん、篠井英介さん、山寺宏一さん、三谷幸喜さん、JZ Brat公演はダイヤモンド☆ユカイさんと石井一孝さんに決まりました。

ーー懸案だったもう一人のギャルソンは、レジョン・ルイさん。シャンソン界の期待の新星だとか。

脚本を書く上で、もう一人は若いのにしっかりしていて、歌が歌えるフランス系の人がいいなと思って探していたんです。そんな中でルイくんのことを知って、1度ライブを観に行ったら、もう「この子だ!」と。まだ31歳で、次世代シャンソン歌手発掘コンクールでグランプリを獲っているんですよ。本人は最初、演技の経験がないからと躊躇っていたんですけど、『ア・ラ・カルト』をよく知っている人たちからの猛プッシュのお陰で、出てくれることになりました。今年はそんなふうに、何かに動かされるようにいろいろなものが決まっていったような感じです。私は私で10月中に脚本を書き上げようと決めて、10月1日からお酒を断ち、毎日1km泳いで気を引き締めて取り組んだら、ちゃんと書き上げることができて。36年目にして、やればできるんだなと思いましたね(笑)。

ーーそもそも、どういったところから『ア・ラ・カルト』のようなスタイルが生まれたのですか?

遊◎機械/全自動シアター​という劇団をやっていた時に、12月に『SEASON OFF シアターらいぶ』という、ボツになったシーンを集めて、その間をつなぐために歌ったりする公演をやっていたんです。それが『ア・ラ・カルト』の原型ですね。一緒にやっていた白井晃さんも音楽が好きな人たちで。私も中学生の頃からジャズが好きで、大学で演劇研究会に入った時からずっと、芝居にもう少し音楽のライブ感があったら面白いのになと思っていたんです。映画も好きだったから、劇研の先輩に「どうしてお芝居の人たちは、ずっとセリフをしゃべっているんですか?」と聞いたこともありました。映画には、セリフがない、ただ情景を映すようなシーンがたくさんあるのに、当時私が観たお芝居は、ずっと誰か出ていて、ずっとしゃべっているものばかりだったから、なんだかもったいないなと思って。自分が芝居を始めた頃のそういう思いが、大もとにはあります。『ア・ラ・カルト』で一番作りたかったのは、おばあちゃんとおじいちゃんのシーンでしたから。

ーー老夫婦がプレゼントを交換し、音楽にのせて踊るシーンですね。セリフはほぼ無いのに、何度観てもジーンときます。20周年を区切りに白井さんと陰山さんが抜けた後も、続けようと思われたのは?

お客さんもどんどん増えていましたし、私の中では、まだ書きたいことや、やれてないことがあったから。それで音楽監督の中西(俊博)さんに相談して、新メンバーで『ア・ラ・カルト2』を始めたんです。それを機にゲストを日替わりにして、1~2回のリハーサルだけで出てもらえるように変えたら、春風亭昇太さんをはじめ、お忙しい皆さんにも出てもらえるようになって。実際に飲んだり、食べたり、やることもいろいろあって大変なので、ゲストのセリフやキーワードをギャルソンが渡すメニューやワインリストに書いておくという工夫も上手くいって、これは面白いぞと思っていたんです。そうしたら、想像もしなかったことが起きて……。

高泉淳子

ーー本拠地にしていた青山円形劇場の閉館ですね。

青天の霹靂でした。26年間やってきた場所だったから、あまりにもショックが大きくて。それで、BLUE NOTE TOKYOの知り合いに相談に行ったら、モーション・ブルー・ヨコハマを紹介してくださったんです。それは本当にありがたかったですね。そうか、これで逆に、ずっと私が夢見ていた、お酒や食事を楽しみながら観てもらえるものができるんだな、夢が叶うんだから、くよくよする必要はないなと思えて。モーション・ブルーの人たちもすごく結束してくださって、本当に嬉しかったです。そうこうするうちに30周年がやってきて、記念公演を東京芸術劇場のシアターウエストでもやれることになって。その公演を最後に、もう劇場ではやらないことにしたんです。年老いていく自分たちのことを考えると、さすがにもう昔の『ア・ラ・カルト』みたいなことはできない。でも、ライブレストランであれば、やり方を考えれば続けていけるなと思ったから。そんな時に紹介してもらったのが、渋谷のeplus LIVING ROOM CAFÉ&DININGで、入った瞬間に「ここだ!」と感じました。それで2019年に『僕のフレンチ』として新たにスタートしたんです。

ーー『僕のフレンチ』では、ワイン好きな常連客の高橋という淳子さん扮する人気キャラクターが、レストラン「ア・ラ・カルト」のオーナーを引き継いでいるんですよね。

でも、コロナ禍がやって来て、2020年は無観客配信をすることになって。それはそれで映画っぽいカットを入れたりして、楽しかったですね。ただ、ライブレストランでの公演に頭をすっかり切り替えて、35周年はどんなふうにやろうかなと思っていた矢先に、今度はLIVING ROOMが突然閉店になってしまって。すでにLIVING ROOMもミュージシャンも押さえていたので、かなりのショックでした。それで、いろいろなライブレストランを回ったんですけど、すでにどこも12月は埋まっていて。今年はついにできないのか、でも35周年だから、なんとか2日間取れたJZ Bratさんで昼夜やるしかないなと考えていたら、I’M A SHOWさんから連絡をいただいたんです。『ア・ラ・カルト』のファンだった方が、ちょうどI’M A SHOWに移動になったとのことで、高泉さんが困っていると聞きました、ちょうどお芝居を音楽と一緒に楽しめるような、これからの新しい大人のエンターティナーショーを探していたんです、と。これはもう天から降ってきたような話だなと思いましたね。

ーーやっぱり多くの人に愛されている作品だからこそ、何度もピンチに見舞われながらも道が開かれてきたのでしょうね。場所やメンバーを変えながらも上演し続けてこられた淳子さんの原動力は何ですか?

たぶん、自分の嫌いな要素がないから続けられているんだと思います。この間テレビで、大谷翔平選手の成功の鍵はオートテリック・パーソナリティだという解説を見たんですね。彼は勝ち負けや報酬のためじゃなく、純粋に野球が好きで楽しいからやっていて、自分なりの最高を求めるためなら何事も苦には感じない、と。私もこの『僕のフレンチ』に対しては、オートテリック・パーソナリティなんだろうなと思いますね。

もう一つ、こういうスタイルの芝居がほかにないことも理由です。自分たちがやらないことで無くなってしまうのは、もったいないなと思うから。私がおばあちゃん役しかできなくなった時、『僕のフレンチ』を観て興味を持った若い人がオーナーとかやっていたら面白いですよね。ミュージシャンにも若い人たちがどんどん入ってきたらいいなと思います。

高泉淳子

ーー『ア・ラ・カルト』初演から音楽監督を務め、ずっと共演もされてきた、盟友ともいえるヴァイオリニストの中西さんには、どんな思いがありますか?

私は毎年恒例の自分のバースデーライブで、今までやってきた人物を全部やることにしているんです。それを、今の自分はどこまでやれるか? というバロメーターにしていて。中西さんは『僕のフレンチ』がそういう存在なんですって。大きな事故に遭ったりして、弾けなくなった時もあったんですけど、今はすごく良くなっていて、ご自分でも「以前の僕は、これでもか、ここどうだって聴かせたいタイプで、今思うと、すごく嫌らしいミュージシャンだった。今は、できなくなっていくことは多いけれども、いろんなアイデアが浮かんでくる」と話していました。同じ曲を弾いて「あ、ここが弾けなくなってる」と感じた時、とっさに違う方法を見つけるって。私も40代の初めの頃、あれ!? この声が出ないとか、動けなくなっていることに気付いてショックを受けていたんですけど、その分、違うことを見つけられるし、自分が随分余計なことをしていたことにも気付くんですよね。中西さんは元々凄い人でしたけど、また違う凄さに変わったなと感じています。

ーー最後に改めて『僕のフレンチ』の魅力を聞かせてください。

生のいい音楽があって、歌があって、ちょっといいお話がある……それが一番楽しくて贅沢なものだと私は思っていて、そこから作ったのが、このどこにもないスタイルの作品です。ミュージシャンと役者が同格で、音楽が中心にあるので、お客さんも居心地がいいと思いますし、お芝居を観たことがない人も、フレンチジャズを知らない人も、一人でも、誰かを誘っても、楽しんでいただけると思います。『ア・ラ・カルト』は関川夏央さんの小説にも、人を誘って喜ばれる舞台として出てくるんですよ。ROLLYも初めて母親を招待した作品が『ア・ラ・カルト』で、すごく喜んでもらえたと話していました。今年は新メンバーも2人いますし、どのゲストの回も面白いと思います。13日、14日、15日の公演はアーカイブ付きの配信もあります。ぜひぜひ、ご覧ください!

高泉淳子

取材・文=岡﨑 香 撮影=岡崎雄昌

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