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「梅棒サンタクロースは心温まる思い出をプレゼントしてくれるはず」~完全新作、梅棒 19th GIFT『クリス、いってきマス!!!』稽古場レポート

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梅棒 19th GIFT『クリス、いってきマス!!!』稽古場より

ダンス×演劇で独創性あふれるエンターテインメントを生み出す「梅棒」の最新作、梅棒 19th GIFT『クリス、いってきマス!!!』が2024年12月1日(日)から開幕。梅棒1年ぶりの完全新作が東京・サンシャイン劇場を皮切り、大阪、愛知の3都市にて上演される。

本作のテーマは12月上演にぴったりなクリスマス。今回は事前に一部配役が明かされており、サンタクロースの弟子の少年・クリス役を生駒里奈、現サンタクロースのニコラス役を天野一輝(梅棒)、サンタクロースと因縁のあるビクター役を多和田任益(梅棒)、その娘・アンバー役を志田こはくが演じる。

梅棒初参加となる生駒、志田のほか、筒井俊作(演劇集団キャラメルボックス)、一色洋平、SuGuRu、岡島源武(Protea*)、髙澤礁太、鳥飼真大、山﨑琉豊がゲストキャストとして名を連ねる。梅棒からは、天野と多和田に加え、伊藤今人(愛知のみ)、梅澤裕介、鶴野輝一(東京・大阪のみ)、塩野拓矢、野田裕貴が出演。総勢16名のキャストが、“梅棒流クリスマス・ストーリー”に挑む。

梅棒がクリスマス・ストーリーを描くとどうなるのか。期待を胸に、冬の到来を感じる11月某日、稽古場を訪れた。この日行われた衣裳付き通し稽古の様子をレポートする。

稽古場はサンタクロースをはじめ、クリスマスならではのキャラクターたちが往来し、一足早いクリスマスムードに包まれていた。お互いの衣裳姿に「想像通り似合うね」と盛り上がる面々や、梅棒公演には5年ぶり4度目の出演となる一色が「演劇の時間だぁ!」と声を張り上げて笑いを誘うなど、梅棒メンバーやゲストキャストの垣根を超えた、なんとも賑やかでいい雰囲気が漂う。

作・総合演出を手掛ける伊藤今人は、愛知公演のみの出演。この日は演出卓から「衣裳をつけて情報量が本番に近くなっているからこそ、妥協なくお芝居をしてほしい。演劇面にこだわって、今日の稽古を大事に」と声をかけると、カンパニーにも心地よい緊張感が走った。

いよいよ通し稽古が始まると、定番のクリスマスミュージックに乗せて前説が始まる。どうやらこの世界では、近年すっかりサンタの人気は陰ってしまったそう。

ここから、クリスに誘われる形で物語が動き出す。30年前、クリスの師匠であるニコラスは、どうやって世界に1人のサンタクロースに選ばれたのか。候補者たちによるサンタクロース後継者試験の様子が描かれていく。

後継者試験のシーンでは、天野演じるニコラス、多和田演じるビクターらが登場。アップテンポで思わずリズムを取りたくなってしまう音楽に合わせ、賑やかでパワフルで面白おかしいシーンが続いていく。セット転換も含め、梅棒の魅力であるスピード感を存分に味わえる導入部分といえるだろう。ダンスに加え、さまざまな修行の様子も音楽に乗せて描かれていく。ベテランとして活躍するキャスト陣が、少年として溌剌と躍動するミスマッチ感が面白くありながらも熱く、曲が終わる度に観客から自然と拍手があがったほど。

印象的だったのは、本作のヴィラン・ビクターを演じる多和田の表情。サンタクロースを強く愛しているからこそ候補者に選ばれたはずのビクター。そんな彼がサンタクロースに選ばれなかったとき、彼は果たしてどんな大人になってしまうのか? 絶望に染まっていくビクターと、心優しく努力家なニコラスの対比の構図は、どこか少年漫画的な熱さを持ち、気持ちがグッと前のめりになるのを感じた。

30年後の世界では、本格的にクリスや、志田が演じるビクターの娘・アンバーが活躍する。生駒も志田も梅棒サイドからの「絶対に梅棒に合うと思う」という熱烈なラブコールを受けての初参加。2人も待望の梅棒作品だと、嬉しそうにインタビューで語っていた。

生駒演じるクリスは冒頭の30年前のシーンでは、師匠であるニコラスに感情移入しながら、後継者試験の行方を見守る。傍観者としての立ち位置ながらも、ダンスや表情から、クリスがニコラスへ寄せる弟子としての愛情がたっぷりと伝わってきた。そこから物語が現在に移ると、改めてクリスという少年の人間性が見えてくるのだが、生駒の想像力を掻き立てる芝居は見事。彼女が表現者として培ってきた技術の高さを存分に感じられた。

そんな生駒の繊細かつ思い切りのいい表現力や、志田の高い身体能力とコロコロ変わる表情は、今回が初参加とは思えないほど梅棒作品に馴染んでいる。2人ともハードな役どころではあるが、役を体現しながらも楽しそうに演じ、踊っていた。自分の出番を待ちながら、曲に合わせて踊っている姿も観られ、この衣裳つき通し稽古に至るまで、充実した稽古期間を過ごしたことがうかがえる。

ニコラスとクリスの師弟関係、ビクターとアンバーの父娘関係、ニコラスとビクターのライバル関係……。それぞれ違った形の人間ドラマが交わり、今作のキャッチコピーにある“笑って泣ける心あたたまる”ストーリーが展開されていく。ドラマ面だけでなく、意外な形での修行シーンやアクションシーンも盛りだくさん。一色の記者を巻き込んでのアドリブに、キャストもスタッフも声を上げて大爆笑する一幕もあり、本番がますます楽しみになった。

通し終わってみるとあっという間の約2時間。途中で衣裳変えや小道具のタイミングが合わず数回止まった箇所はあったものの、キャストの集中力が切れることはなく、最後まで本番さながらの熱量の“妥協のないお芝居”を浴びることができた。終演後、稽古場には衣裳つきで最後まで通すことができた安堵感が漂いながらも、同時に「もっとよくできるはず」という気概に満ちていた。ここから本番までの数日、さらなるブラッシュアップが重ねられていくことだろう。

今作は、梅棒作品の中でも映像演出が多いとのこと。今回の稽古では映像はなかったものの、とくに物語に置いていかれることはなく、むしろ想像力を刺激される観劇体験となった。改めて、梅棒が長年培ってきたダンス×演劇という表現手法の持つ可能性に触れることができたように思う。と同時に、映像演出も入った“完成版”への楽しみがいっそう募った。

サンタクロースがくれるものはプレゼントだけなのだろうか? サンタクロースはきっと、プレゼント以上にあたたかな気持ちを届けてくれるのだろう。少なくとも、今年のクリスマス、東京・大阪・愛知に現れる“梅棒サンタクロース”は、観客に体温まる興奮と笑いと、心温まる思い出をプレゼントしてくれるはずだ。それをぜひ劇場で受け取ってみてほしい。

取材・文=双海しお     撮影:角田大樹

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