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「叱りたくないけど、叱るしかない…」苦悩した発達障害息子への関わり。児童相談所の介入がわが家の転機に

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「叱りたくないけど、叱るしかない…」苦悩した発達障害息子への関わり。児童相談所の介入がわが家の転機に

監修:初川久美子

臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち

道路に飛び出す、物を壊す…強く叱ることで命を守ろうとしていた幼少期

タクが発達障害の診断を受けたのは小学校1年生の終わり頃のことで、それまでは落ち着きがなくてトラブルが多いのはしつけの至らなさが原因だと思っていました。物心がつく頃から、考えるよりも体が先に動いてしまうタクは、周りの同世代のお子さんよりも手がかかることが多くて、発達に違和感をおぼえていました。

ですが、3歳児健診の際に相談しても保健師さんに「考えすぎですよ」と言われ、発達障害の可能性を消してしまいました。幼稚園では集団行動に参加できずに先生に負担をかけることが心苦しくて、常に申し訳ない気持ちでいました。公園に遊びに行った時には、知らない子のおもちゃや三輪車を勝手に使おうとするのでタクを連れて歩くことに負担を感じていた時期もありました。

何度も何度も目を見ながら注意したり語りかけたり、遊びに行く前にお約束をしたりと接し方を試していたけれど、毎回のようにトラブルを起こしてしまう……。そのうち私は、親としての無力感やイライラが募っていきだんだん叱り方がきつくなっていきました。特に急に走り出す癖には困らせられました。気になるものがあると周りが見えなくなって走り出してしまうので、道路を歩く際は気が抜けませんでした。何度言葉で説明してもなかなか変わらないので、命に関わるような危険な行動をした際は強く叱るようになりました。

義母に言われた「ママは怒らないもんね」にショック

それでも、なかなかタクの行動は変わりませんでした。周りに迷惑をかけているのが親としてとても腹立たしかったです。このままだとタクは皆から嫌われてしまうかもしれない……!という心配がどんどん大きくなっていきました。根気強く注意していた私でしたが、周りから見たらタクは「問題がある」と思われるようになっていました。

パパも積極的にタクの育児に関わってくれていましたが、どうしてもパパが叱ると「私が」ストレスを感じてしまっていました。私の連れ子であるタクをパパが叱ることに、何故か嫌悪感が湧いてくるのです。叱ってくれてありがたい気持ちと同時に、私の子を叱らないで!という理不尽な怒りが湧いてきていました。とても身勝手な考えではありましたが、可愛いわが子を自分以外の人に叱られたくない!という気持ちから、私一人で背負う!という考えになっていきました。でも、現実には問題行動を減らすことができずに無力感を感じていました。

そしてある日、同居していた義母に言われました。「タクには困っちゃうね、ママは全然怒らないもんね」と。義母の目の前で孫を強く叱るのを見ると気分も悪くするかもしれないと思い、気を遣ってきつく叱らなかった私でしたが、まさかそんな風に思われていただなんて……!とてもショックだったし、もっと叱らなきゃいけないのかと暗闇の崖に突き落とされたような気分になりました。

児童相談所への通報から一時保護されることに…

それから学校や学童でトラブルを起こすたびに、以前よりも強く叱るようになりました。タクが発達障害があると診断されてからは、「タクの行動は特性から来るもの」と分かってはいましたが、少しでもタクに伝わればいいなと思っていたのです。それはパパも同じで、いつの間にかタクが問題行動を起こす度に夫婦そろって強く叱るようになっていきました。丁寧に話をすると、タクはこちらの意図をやっと理解してくれます。しかし、また翌日に同じ間違いを起こすこともしばしばありました。

当時の私は「特性だから悪気はないと分かっている……叱りたくないけど、叱るしかない」と思い込み、その考えを抑えられずに苦しんでいました。パパは「特性だからすぐに変わることは難しいかもしれないけど、少しでも親の考えを伝えたい」と感じていたようです。しかし……タクが4年生になったある日。私たちの様子を見た方が児童相談所に通報し、タクが一時保護されるというつらい体験をしました。

つらい出来事が私自身の転機に

タクが将来困らないように、一般常識をしっかり教えたい、命に関わるような危険な行動を止めたい、さまざまな思いが交錯する中でいつしか「強く叱りすぎる」ようになっていたわが家。それは外部から指摘されなければ気付けないような状態になっていました。

児童相談所が介入してからは、繰り返し保護者の面談が行われて、認知やコミュニケーションを見直すための援助を受けました。児童相談所に通報されて保護されてしまった時のことは、思い出しても胸が苦しくなる出来事でしたが大きな人生の転機になりました。私自身が病院やカウンセリングに通うきっかけになり、発達に関する勉強をして資格を取得して、タクのことをより理解しようという気持ちが強くなりました。今、わが家はすごく穏やかで、時には喧嘩する時もあるけど何でも話せる家族関係になっていると思います。

一人で抱え込まずに、周りの人を頼ってほしい

発達障害のある子を育てていると、負担がかかる場面も多くて親は常に悩み、疲労困憊な状態が続きやすいと思います。実際に、心身に不調をきたしてしまう人もいます。そして、問題行動の多さから、周りから「しつけがなってない」と思われることもあり、実際に面と向かって指摘されることもあります。

そんな時、真面目な人はますます「私がしっかりしなくちゃ!」と自分を追い詰めてしまうのではないでしょうか。つらい時期を過ぎた今だから分かることは、子育ての悩みを自分だけで抱え込んではいけないということです。発達障害のある子の子育てをしていることは恥ずかしいことではないと、当時の私に伝えたいです。義母に指摘された時も、自分自身のできない面を隠さずにさらけ出して関わってもらえばよかった。実親や先生や市の職員さんにも弱音を吐いて、親がカバーしきれない部分をサポートしてもらえば、もっと精神的にも穏やかな子育てができていたのかもしれません。

今、当時の私のように悩んでいる方がいたら、決して一人で抱え込まずに、周りの人に頼ってください。そして、自分自身の心も大切にしてほしいと思います。そうすることで、子どもへの関わり方においても気負いすぎることなく、適切に関われるようになっていくのではないかと思っています。

執筆/もっつん

(監修:初川先生より)
ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)のあるタクくんを育てる中での母もっつんさんの葛藤、苦しみ、気負いなどつらい時期を経て今感じていることのシェアをありがとうございます。多動や衝動のあるタクくんを守るために、常識的な立派な子に育てるために頑張ってこられたがゆえに、強く𠮟りすぎてしまったこと。そして、ステップファミリーがゆえの難しさ、再婚されたパパが自分の連れ子であるタクくんを叱るときの複雑な思い。タクくんが成長とともに「問題がある」と周囲から思われる中で、もっと追いつめられる構図。児童相談所に一時保護されたという保護者からするととても衝撃的かつ大きな出来事。そこからの関係やコミュニケーションの修復やご自身の特性についても捉えなおす機会となったこと。どれもこれも本当に大変な局面だったと思います。

もっつんさんが最後に書かれていましたが、1つには、大変な時に弱音を吐く(弱音とは限らずに、大変だと言う)ことがその後の支援を得やすくするきっかけになります。子育ては親が責任もって、他人様に迷惑かけずに頑張るものだという風潮があるために、まじめな方や一生懸命な方は困りごとを抱え込んでしまうかもしれませんね。支援職である私からすると、そもそも子育ては家庭でのみ行えるものではなく、園や学校、地域などさまざまな大人に支えられながら進むものだと感じます。どんなお子さんでも少なくとも園や学校の先生にはお世話になっているはずで、だからこそ、お子さんを真ん中に据えて、育てる上での困りごとや悩みをお子さんに関わる大人たちが一緒に考えていけたらいいなと思っています。

また、タクくんの幼少期にもっつんさんは「発達に違和感」を感じられていたとのこと。この違和感も大事にしていただきたいと思います。健診などで相談しても「大丈夫」あるいは「様子を見ましょう」と言われてしまうこともあるかもしれませんが、それでもその後の折々に「違和感があります」と言い続けてほしいと感じます。それを聞いた側(支援者や先生方など)は、そのお子さんをよく見るようになるからです。一番お子さんのことをよく知っている保護者がそう感じるには何かがあるかもしれない。そう思いながら、お子さんのことを見てもらい、保護者のサポーターになっていただけたらと感じます。

そして、「強く叱りすぎてしまう」。それほどまでにお子さんの行動を変えたり、言って聞かせたことを実行させたりするのに苦労される場合、あるいは保護者の側が叱らずにはいられないくらいに感情的になるのを抑えられない場合。ぜひとも相談機関や医療機関に相談していただきたいと感じました。地域の子育て支援センターや児童相談所、かかりつけの小児科、小学生以上ならスクールカウンセラーや教育相談室などさまざまな機関があると思います。どこでもいいので、強く叱らざるを得ない、強く叱りすぎてしまうその状況をお伝えいただいて、一緒に考えていけたらいいなと思いました。お子さんに発達障害の特性や症状がさまざまあり、行動面に危うさがあっても、強く叱られ続けていいことはありません。強く叱られることでお子さんが一時的によい行動を取ることができても、別の場面ではまた同じようなエラーや問題行動を起こしてしまうことが発達障害のある子の場合よくあります。それは叱ることが最適解ではないということです。

お子さんにどのような対応をしたらよいのか、あるいはお子さんがエラーや問題行動を起こさないようにする事前の工夫はどんなものがあるのか。お子さんはコミュニケーションを学ぶ時期でもあります。強く叱るコミュニケーションをモデリングとして取り入れていくのではなく、よきコミュニケーションを見せていくためにはどんな工夫ができるか。そのあたりをぜひ支援者や先生方と保護者の方が一緒に考えていけるといいなと思います。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

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