衝撃!こんなワルい桃太郎、見たことない!芥川龍之介が込めた時代を超えたメッセージ
子どもだけでなく大人も楽しめる絵本を、絵本セラピスト協会認定「大人に絵本ひろめ隊員」、そして2児の母でもある、HBCアナウンサーの堰八紗也佳(せきはち・さやか)がご紹介します。
今回は、誰もが知る昔話「桃太郎」に注目します。
絵本によって「桃太郎」って実は性格が違うんですよ。以前の記事でもご紹介しています。
そんななかでも異色なのが1924年に発表された芥川龍之介の短編小説「桃太郎」。
冷酷な桃太郎が平和な鬼ヶ島を侵略するという、誰もが知っている昔話・桃太郎からは想像もつかない、奇想天外な物語。
全身ピンクで網タイツ姿の桃太郎は、一度見たらやみつきになること間違いなし!
大人の世界の桃太郎です。
芥川龍之介の桃太郎 著:芥川龍之介 画・寺門孝之(河出書房新社)
宮沢賢治や新見南吉の童話など、文豪たちの名作が今の時代に絵本として蘇ったシリーズは色々とありますが、『芥川龍之介の桃太郎』ほど、衝撃を受けた絵本はありません。
芥川龍之介は、『蜘蛛の糸』『杜子春』『藪の中』など、人間の欲深さについて考えさせられる作品が多い印象です。
桃太郎も欲深い人間として描かれているのかと思いきや、欲深いというよりは、傲慢で怠け者で、勝手気ままな性格。
お伴する猿やキジや犬も、仲が悪くて大変!
日本の昔話を全く違う目線で書き換えており、「これってありなの?」と正直心配になってしまうほどでした(笑)。
まずはあらすじだけでも知りたいという人は、著作権の保護期限が切れた作品として「青空文庫」で公開されているので、ぜひインターネットで検索して読んでみてください。
注目ポイント①不気味さを演出するピンク色
画家・寺門孝之(てらかどたかゆき)さんの独創的な画は、大胆さの中に繊細さも兼ね備えていて、とても芸術的。
表紙からもわかる通り、不気味なほど発色の良いピンクが、黒の背景に映えます。
この桃の木は1万年に1度実をつけ、その実は1000年落ちることがないといいます。
しかしある日、1羽のヤタガラスが1つの実をついばみ落としてしまいました。
その実が谷川へ流れ、洗濯をしていたおばあさんに拾われて生まれたのが桃太郎です。
そんなおばあさんに感謝するどころか、おじいさんやおばあさんのように畑や川で働くのが嫌だから鬼ヶ島に征伐へ行くという桃太郎。
怠惰な桃太郎は寝そべり、鼻に指を入れています…。
おじいさんとおばあさんも、桃太郎に愛想をつかし、一刻も早く追い出すため、出陣の支度を整えます。
そして桃太郎は、仲の悪い猿・キジ・犬と揉めながら鬼ヶ島へ向かい、残酷な侵略を行うのです。
注目ポイント②桃太郎に込めた芥川のメッセージとは?
芥川龍之介の「桃太郎」は1924年(大正13年)、「サンデー毎日 夏期特別号」で発表されました。
明るく平和な鬼ヶ島へ、何の罪もない鬼たちを襲撃しに来た桃太郎。
降参した鬼が理由を尋ねると「島を征伐したいと思ったからだ」と、まったく答えにならない回答をしています。
そこから読み取れるのは、当時の帝国主義的な日本を風刺している芥川龍之介の思いです。
物語のラストは、暗闇の中でピンクの実を輝かせる桃の木の画と、「ああ、未来の天才はまだそれらの実の中に何人とも知らず眠っている。」という一文。
終わりなき恐怖は、今の時代にもなくならない理不尽な侵略や、罪のない人たちを巻き込む戦争を予言したものではないでしょうか。
あなたは芥川龍之介の桃太郎から、どんなメッセージを受け取るでしょう。
単なるパロディーではなく、文豪ならではの奥深さのある桃太郎を、ぜひ味わってみてください。
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「連載コラム・今月の絵本通信」
文|HBCアナウンサー 堰八紗也佳
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編集:Sitakke編集部あい