あたし『三文私売』インタビュー――今、"あたし"が歌いたい三者三様の"愛されたい女の子"の心情
──昨年7月の以来、1年ぶりのインタビューです。あたしさんにとって、2024年は、どんな1年でしたか?
「2024年は三ヶ月間1週間に1回、【歌ってみた】を投稿などしていました。これまではこんなに高頻度で投稿してこなかったので、今までになかったチャレンジでした。でも、新しいことができて、すごく楽しい1年でしたし、聴いてくださってる方の反応が多くもらえる機会にもなって充実していました」
──リスナーさんのリアクションを受けてどんなことを感じましたか?
「今まで歌ってこなかった系統の楽曲を歌う時に、“自分の声には合わないんじゃないか?”とか、“歌いこなすことができるのか?”っていう不安がありました。でも、聴いてくださる方からは、意外と“こういう歌にも合う歌声だね”って前向きに捉えてくださる方が多くて。それがすごく嬉しかったですし、たくさんの声を聞けて、とても新鮮に感じました」
──“現役高校生あたし”から“あたし”に改名した2022年からの2年間は割と定期的にオリジナル曲をリリースしてきましたが、2024年はあえて【歌ってみた】に集中しようと決めていたんですか?
「はい。“歌い手”の活動を初めてから5年目になる節目でもあったので、1度、初心に戻って、【歌ってみた】をやってみようと考えていました。もちろん、オリジナル曲も発表したい気持ちはあったんですけど、【歌ってみた】から始まった“あたし”なので、“改めてやってみよう”と思ってやらせていただきました」
──原点に立ち返って、いろんな楽曲をカバーしてみて、どんなことを感じましたか?
「さまざまな楽曲を歌うことで、楽曲を通して、いろんな価値観を知れました。あと、“こういう歌い方もありなのか”っていう学びも多かったです」
──3月にはTOKYO DOME CITY HALLで行われた『MAISONdes LIVE #2』にも出演しました。
「MAISONdesのライブはセットもすごいし、お客さんもたくさんいたので、すごく楽しかったです。私、自分のリスナーさんに“オレンジの服を着て来て”ってお願いしていたんです。そしたら、ステージ上からオレンジの服がすごく目立って、すごくわかりやすくて。今後もオレンジの服でライブに来ていただきたいです(笑)」
──どうしてオレンジなんですか?
「私のイメージカラーがオレンジなので、配信で“オレンジの服だとわかりやすいよね”って話していて。あとでSNSなどで“あたしちゃんが着てきてって言ったから着たけど、あまりにも派手だったからちょっと恥ずかしかった…”っていうポストもありました。申し訳ない気持ちなんですけど、今後もオレンジを着てライブに来ていただきたいです!」
──(笑)この記事公開の時期には終わってしまってますが、歌ってみた最大級の動画投稿祭『歌コレ2024秋』にもグループ(「気まぐれメルシィ」歌ってみた - あたし×Eye×むト×TKS×七海うらら×Lucia)で参加していましたね。
(結果はグループ部門4位 ※)
「一緒に主催をやっているEyeちゃんと“仲の良い歌い手さんたちが出演するゲームが見たいね”っていう話をしていて。視聴者の皆さんがプレイヤーの主人公で、私は主人公の妹。あと、近所の幼なじみの子がいて、軽音部の先輩や保健室の先生もいて…。そんなゲームは存在しないんですけど、みんな大勢で合唱をやりたいなとか、いろんな妄想をしているうちに、いつの間にか参加していました(笑)。ギャルゲー風のMVを作ったんですけど、2〜3ヶ月みっちり勉強して、全部自分で作った動画なので、いっぱい見ていただきたいです」
──あたしさんにとって“歌い手”カルチャーはどんな場所になっていますか?
「やっぱり最強の2次創作というか…自分の中の妄想を形にすることができるので、すごく楽しいです」
──そして、オリジナルとしては1年ぶりとなる3曲入りのEP『三文私売』がリリースされました。音系同人イベント『M3(エムスリー)』で販売したCDの配信版となっていますが、最初にどんな作品にしたいと考えていましたか?
「今回は自分で歌詞を書いていないんです。【歌ってみた】をやったこともあって、“大好きなボカロPさんに書き下ろしていただいた楽曲を歌ってみたい“っていうコンセプトから始まりました」
──1曲目の「落第」は内緒のピアスさんの提供曲ですね。
「YouTubeでを聴いたときにすごい衝撃を受けて…暗い中にも綺麗で美しいところがあって。こういう楽曲を作る方を見つけたことにすごく感動しました。“いつかはピアスさんが作る楽曲を歌わしていただきたい”と思っていたんですけど、今回、こういう機会があったので、お願いさせていただきました。“M3で楽曲を収録したCDを販売したいのでお願いできませんでしょうか?”って直接、DMさせていただいたら、ピアスさんから、“ぜひ!”とお返事をいただいて実現しました」
──何かテーマは内緒のピアスさんにリクエストしたんですか?
「EPは『愛されたい女の子』をテーマにしようっていうのは考えていました。楽曲それぞれでキャラクターは違うんですけど、楽曲には、どこかしら自分の中に持っている“愛されたい”って感情があるといいのかな?とは思っていました」
──楽曲を受け取ってどう感じましたか?
「「プロポーズ」とはまた違う、アップテンポなロックなんですけど、歌詞自体を注目してみると、やっぱりピアスさんっぽいというか…すごく女の子の気持ちをわかっている楽曲になっていて。特にサビの言葉遊びの語呂が良くて…キャッチーな言葉を使うところがピアスさんぽいって思うんです。依存体質の女の子のぐちゃっとした感情がすごく表されていると思いました」
──この子は恋愛に依存しているんでしょうか?
「もともと1人では生きていけない依存体質ではあるんですけど、この楽曲の中では、恋愛でもいいんですが、人に依存してるというか…心のよりどころを探しているような感じがしました。だから、相手もあまりはっきりとは、イメージしていなくて。私もなんですけど、気持ちが落ちたときって、映画でもいいし、アニメでもいいし、お金を使ってめちゃくちゃ買い物してもいい。何でもいいから拠り所を探してしまうところがあるんです。だから、相手に関してはあまり想像せずにいました」
──ご自身と重なる部分はありましたか?
「私自身、生きていく上でずっとこういう気持ちっていうわけではないんですけど、例えば、気持ちが落ちたときに、ちょっと何かに依存したいな…と思うときはどうしてもあって。そこはすごく共感するところがありました。怒ったりとか、悲しんだりするときのぐしゃっとした感情がすごく似ていると思います」
──ちなみにあたしさんは、<感情バグった>ときはどうやって回復させますか?
「ときと場合にもよるんですけど、すごく寝るときもあれば、激しいロックな曲を聴いて発散させるときもあります。あまり外に出るのは好きじゃないので、ひたすらゲームしたりとか…。あと、あまりよくないんですけど、服をたくさん買っちゃったりすることもあります」
──レコーディングにはどんなアプローチで臨みましたか?
「楽曲自体がキャッチーで、言葉遊びとリズムがカチッとハマっていてわかりやすいので歌うこと自体も楽というか、すごく楽しくスッと歌えました。だから、レコーディングはテンポよく進みましたし、割と早く終わったんです」
──急にジャズの4ビートになったり、わかりやすい落ちサビパートがあったり、いろんな展開がありますよね。
「私の母親がジャズをやっていたので、個人的にジャズっぽいノリが好きというか、体に染み込んでいて。歌って楽しかったです。落ちサビは、“ここから物語のクライマックスに進むぜ!”って感じます。ここも歌うのがすごく楽しくて。ピアスさんにディレクションをしていただいたんですけど、“すごく素敵な歌い方だと思います”って言ってくださって、特に“こうして欲しい”って言われることもなくて。ただ、最後の<咲かせて>のところだけ、“強くハキハキとして欲しい”ってディレクションをしていただきました。そこに賭けようと思って、最後の<咲かせて>はすごく力を込めて歌いました。叫ぶように歌いつつ、ちゃんと歌として成立するよう歌いました」
──続く、「傀儡合い」はd.j.ァネイロさんですね。
「YouTubeのおすすめで流れてきたを聴いて出会いました。ちゃんと伝えたいものはあるんだろうけど、MVも楽曲も機械的でぐちゃっとしていて、それがすごくカッコよくて。私自身、そういう楽曲を歌ったことがあまりなかったので、“ぜひ歌ってみたい!”と、お願いしました」
──d.j.ァネイロさんとはどんな話をされたんですか?
「d.j.ァネイロさんには、“あまりはっきりしたキャラクター像を作らずに、『愛されたい女の子』を大まかなテーマとして作りたいんです”ってお話をしたら、この子も依存体質とはいえ、またちょっと違うキャクターの女の子が出来上がってきました。タイトルからも感じる通り、操り合うじゃないですけど…」
──騙し合う感じですよね。
「そうですね。騙されているようで実は騙しているとか、よりダークなところに触れていただきました。歌詞は、最初と最後で、“どういう意味なんだろう?“って考察しがいがあると思います」
──<彼方らしい故意(あなたらしいこい)>から始まったのに、最後は<あたしらしい恋>になっています。
「そうなんです。実はこのキャラクターの方が操っているんじゃないか?という…。すごく考察しがいがある楽曲です。自分自身、考察するのはすごく好きなので、面白い歌詞だなって思いました。あと、ァネイロ早口言葉のような言葉遊びが気持ちよかったりします。その部分もすごく好きです」
──共感する部分もありましたか?
「さっきも言った通り、ずっとこういうマインドでいるわけではないんですけど(笑)、依存しているようで依存させている相手に対して支配欲を抱く気持ちはわかります。より心がダークに落ちたときにすごく共感する部分だと思います」
──サウンドはインダストリアルなヒップホップというか…。
「歌ったことがないジャンルだったので、“すごく難しそうだな…”と思いつつ、本当にかっこよくて。最後の盛り上がりが、“うわ、きたっ!”ってなる楽曲なので。チャレンジにはなるんですけど、歌うのがすごく楽しみでいっぱいでした」
──ラップで始まりつつ、ウィスパーボイスになる箇所もありますね。
「3曲中、この曲が一番難しかったです。言葉が詰まっていたりとか、早口言葉っぽいところもあって。<有り難がる蟻が集まるアンリアルじゃ>とか…。機械の音声でデモをいただいて、ある程度イメージはついていたので、今までの【歌ってみた】での経験もいろいろと交えつつ、滑舌の練習をしながら、何とか歌える方法を模索してレコーディングしました」
──新しいチャレンジでユニークな曲でした。3曲目「ワルキューレ」がこめだわらさん。
「YouTubeでを初めて聴いたときに、すごく落ちているし、明るい曲ではないんですけど、どこか意思があるようなところを感じました。私自身こういう、地に足がついたストレートなロックがすごく大好きで、歌いたいと思ったので、こめだわらさんにお願いしました。この楽曲のキャラクターは、他の2曲のキャラクターとは違って、どちらかというと、自分で生きていく意志を持っています。“自分で気持ちを掴みたい”という、ちゃんと自立している女の子を書いていただきたくて、“そういうキャラクターでお願いしたいです”って、こめだわらさんにお願いしました」
──『愛されたい女の子』ではあるけど、依存体質ではない?
「そうです。一人で生きていこうとする意思を持っている子という言い方が近いと思います。歌詞はすごくストレートで、「ワルキューレ」のキャラクターのことを偽りなく強く歌っています。私自身、こういうストレートな歌詞もすごく好きですし、自分が書く歌詞でもストレートな言葉を使うことが多いので、一番親近感がわきやすい楽曲でした」
──ご自身と似ていますか?
「“こうでありたい”っていうのが正しいんですけど、私自身、この「ワルキューレ」のキャラクターが近いです。自分が楽に生きていく上でも、自立するべきだなと思っていて…。だから、最後の楽曲は意思があるというか、1人で生きていく力を持っている子になっています」
──この曲は、“愛されたい”っていう自分の願いではなく、同時代を生きる女性たちに対するメッセージを投げかけていますよね。
「そうですね。やっぱり”戦うべきだな”って思うので(笑)」
──あたしさんには、もともと戦う女性のイメージがあったんです。特に「うぉーしゃんだんす」や「着心音」は、“戦う女性の夢”というイメージがありましたし。
「はい! いつでも戦闘態勢でいられればなと思っています。だから、戦う女の子たちを応援する気持ちも込めて歌わせていただきました。特にサビの<戦えよ乙女たち>って歌詞です。個人的には“こうでありたい!”と思っていて。ウジウジしたり、落ちてるだけじゃ駄目なんだって思っているので、背中を押してくれる、この歌詞がすごくかっこよくて。歌っているときも一番力が入ります。ただ、力むだけじゃよくないので、できるだけ力を込めたように聴こえる歌い方を心がけました」
──愛されたい女性たちを描きつつ、“愛されたいだけの女なんて枯れてくもんだ”って歌っているんですよね?
「そうですね(笑)。自分が生活している中でも、気持ちはそんなふうにぐちゃぐちゃしてしまうので。“そんなん言ってる場合じゃねえ!”って思っているときもあれば、“もう無理…”って思っているときもあるので。3曲を通して聴いていただければ、そのぐちゃぐちゃ感が伝わると思います」
──3曲揃って、『三文私売』というタイトルがついています。
「もともとの『三文芝居』には臭い芝居という意味があって。でも、大衆的とか、展開がわかりやすいとか、日常的で想像しやすいものって捉えることもできます。私達が作った3人の女の子のお話もわかりやすくて、どこかしら共感する部分があったらいいなという思いもあって、“三文”とつけました。“芝居”を“私売”にしたのは、“売る”っていう言い方はちょっとイメージが悪いかもしれないですけど、やっぱり私を知ってほしくて。ワルキューレちゃんも“強く生きていこう”と思いつつ、わかってほしいから言葉にしていると思うんです。私をわかってほしい、知ってほしい…“聴いてほしい!”って気持ちです」
──ちなみに『M3』に参加してどうでしたか?
「今までライブでファンの方とお会いしたことはあったんですけど、ライブはステージと客席で距離があって。でも、『M3』はすごく近い距離で、これまで対面で喋ることもなかったので、とても緊張しました。でも、『M3』には試聴コーナーがあるんですけど、そこで私の存在を全く知らない人が声と楽曲だけを聴いて、“気になったので買いに来ました”って言ってくださった方が何人かいました。それがすごく嬉しかったです」
──今回、自分で歌詞を書かない提供曲を歌ってみて、何か気づいたことはありましたか?
「歌詞まで全て書き下ろしていただいた楽曲をオリジナルで出すことがあまりなかったので、すごく面白くて楽しかったです。【歌ってみた】じゃないですけど、【歌ってみた】っぽいところもありました」
──ボカロPの楽曲を歌うという意味では、アプローチとしては一緒ですよね。
「そうですね。とはいえ、より自分の解釈で歌わなくちゃいけないので、その塩梅が難しかったです、でも、新しい挑戦ができて楽しかったです。あと、歌詞に関しては、自分が使うような言葉ではなくて、やっぱり、“その人にしか出せない言葉遣いがあるんだな“と感じました。私は「落第」のように、ストレートな言葉ではないけど、語呂が良くて、耳に残ってキャッチーな言葉使いはできなくて。漢字も苦手なので、「傀儡合い」のような、言葉が難しくて、かつ、考察しがいがある歌詞も書けません。「ワルキューレ」のようなストレートな歌詞を書こうと思っていますけど、ここまで素直に言葉を伝える歌詞を書くのは難しいですし、それぞれ自分にはない言葉が使われていて。すごく勉強になった3曲でした」
──この先、何かもう考えてることありますか?
「はっきりしたものはないですけど、引き続き【歌ってみた】をやり続けながら、オリジナル曲もたくさん作っていきたいです。今回は全曲書き下ろしの提供曲でしたけど、今後は歌詞を書くだけじゃなくて、曲作りもチャレンジしたいと思っています。あと、最近、動画作りにハマっていて…。投稿している【歌ってみた】でも自分で作った動画があるので、いろんなものを作ることに挑戦したいと思っています。そして、なにより、やっぱり、より多くの人に聴いてもらえるようになりたいです。ライブの機会も増やしたいです。リアルだけじゃなく、投稿や配信も増やして、より多くの人に“あたし”を見ていただけたら嬉しいです!」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
RELEASE INFORMATION
2024年12月13日(金)配信
あたし『三文私売』
あたし「イベリス」インタビュー
"現役女子高生あたし"から"(元)現役高校生あたし"...そして"あたし"
現役女子高生あたし名義で"歌い手"として活動を開始して以来、変幻自在、琴線に触れる歌声で“あたし”色に染める人気急上昇中20歳若手クリエイター=“あたし”が歌う理由、これまで、そしてこれからをじっくり聞いた。
インタビューはコチラ >>
(2023年7月6日 掲載)