ナイアガラ50周年!大滝詠一のストリングスアルバム「NIAGARA SONG BOOK」完全版登場
永井博のジャケットデザインによる夏のアルバム「NIAGARA SONG BOOK」
1981年3月21日にリリースされた大滝詠一の『A LONG VACATION』はずっと色褪せない日本のポップスアルバムのエバーグリーン。これまでどれだけ聴く人の心に潤いをもたらしてくれたことだろう。それから1年と少し、1982年6月1日に発売されたのが、NIAGARA FALL OF SOUND ORCHESTRAL名義によるインストゥルメンタル・アルバム『NIAGARA SONG BOOK』であった。『A LONG VACATION』と同じく永井博のジャケットデザインによる夏のアルバムである。
大滝のインストゥルメンタル・アルバムはこれが初めてではなかった。1977年に駒沢裕城のスティールギターをフィーチャーして哀愁の北欧インストを追随した『多羅尾伴内楽團 Vol.1』 、1978年には村松邦男のギターで王道のサーフインスト『多羅尾伴内楽團 Vol.2』 、そして1981年7月には『A LONG VACATION』のインスト版『Sing A LONG VACATION』も1万枚限定でリリース。つまり『NIAGARA SONG BOOK』は通算4枚目にあたるインストアルバムということになる。売上げが芳しくなかった『多羅尾伴内楽團』のオトシマエだと1984年に音楽誌『ミュージック・ステディ』のインタビューで語られていた。
「白い港」のストリングスが決め手
ビーチ・ボーイズのストリングス・アルバム『The Beach Boys Song Book』を着想として生まれた『NIAGARA SONG BOOK』だが、キーマンとなったのは井上鑑だ。大滝が松田聖子に提供した「風立ちぬ」でストリングスを担当したのが最初で、『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』に収録された「白い港」のストリングス・アレンジが決め手となったらしい。井上は同年3月に東芝EMI(現:ユニバーサルミュージック)からファーストアルバム『PROPHETIC DREAM - 予言者の夢』を出したばかりであったが、これはもう井上鑑の2枚目のアルバムと言っていいかもしれない(実際に大滝も前述のインタビューでそういった発言をしている)。
『NIAGARA SONG BOOK』は、『A LONG VACATION』からの6曲と『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』からの2曲に、「青空のように」と「夢で逢えたら」を加えた計10曲。「Summer Breeze」は「Velvet Motel」と同一楽曲で、アン・ルイスに提供される予定だった際のタイトルで収録された。2013年に出された30周年記念のCDでは、その後の新曲「幸せな結末」と「恋するふたり」が追加されている。
インストアルバムとしては大健闘のチャート11位の好成績を上げたこともあり、1984年には3月21日にニューアルバム『EACH TIME』が発売された後、6月1日には早くも『NIAGARA SONG BOOK 2』が発売になった。『EACH TIME』からの8曲と、『NIAGARA CALENDAR』に収録されていた「真夏の昼の夢」、最後に置かれた「夏のペーパーバック」のRepriseで計10曲。ジャケットデザインは『EACH TIME』同様、河田久雄が手がけている。『NIAGARA SONG BOOK』よりも原曲に忠実なアレンジが施され、ストリングスのパートはスタジオではなく、千葉県の浦安市文化会館大ホールで別録りされるという拘りの録音であった。1989年に出されたリマスター盤では曲が差し替えられ、「Bachelor Girl」と「白い港」がフルサイズで収録された。
スペシャルディスクを含めるCD3枚組のコンプリート盤として発売
今回発売になったコンプリート盤はCD3枚組で、Disc-1には未発表音源をメインに全10曲で構成された『NIAGARA SONG BOOK 3』が新登場。Disc-2には従来の『NIAGARA SONG BOOK』と『NIAGARA SONG BOOK 2』がカップリング。そしてDisc-3は『NIAGARA SONG BOOK RARITIES』と題した、未発表音源と大滝のラジオトークによるスペシャルディスクになっている。新作の『NIAGARA SONG BOOK 3』は、松田聖子「ガラスの入江」、ラッツ&スター「Tシャツに口紅」、渡辺満里奈「うれしい予感」など、大滝が他者に提供した作品もあってバラエティに富んだ選曲が楽しめる。
コンプリート盤のジャケットは漫画家のわたせせいぞうが書き下ろしており、清涼感のあるイラストレーションがナイアガラワールドとの絶妙なマッチングを見せる。80年代に「ハートカクテル」を愛読していた世代にとってこの上なく嬉しい起用に違いない。2021年の『A LONG VACATION』40周年のイメージポスターで相性の良さが証明され、2023年の『暑さのせい EP』にも使用されて以来のナイアガラとのコラボレーションとなった。こうなると『NIAGARA SONG BOOK』と『NIAGARA SONG BOOK 2』がリマスタリングされる度に買い続けてきた身としてもいよいよ購買意欲をそそられてしまうのだ。
『A LONG VACATION』をはじめ、LPからカセットテープに録音してマイカーのカセットボックスに常備していたあの頃。『NIAGARA SONG BOOK』もドライブやビーチタイムに欠かせない夏のマストアイテムであった。40年を経た今もそれは変わらない。今年も死ぬほど暑くなるであろう夏をナイアガラで生きぬこう! いや、やりぬこう!