仕事において「ブレない芯」を持っていることは重要だという話
「この人の言葉は、なぜか信じられる」
そんな人の共通点は、派手なスキルでも圧倒的な成果でもなく、“ブレない芯”を持っていることです。
どんな状況でも自分の判断軸を見失わない人は、周囲に安心感を与え、信頼を積み重ねていきます。
では、その「芯」はどこから生まれるのでしょうか。
今回は、12年間にわたり経営コンサルティングに従事し、現在はティネクト株式会社の代表としてWEBメディアの運営支援や記事執筆を行う安達裕哉さんが、 “信頼される人”が持つ一貫性の正体、そして「ブレない芯」を育てるための思考法 を紐解きます。
一貫している人は、なぜ信頼されるのか
仕事をしていて「この人は何を考えているのかわからない」と感じたことはありませんか。
気まぐれに怒る。あるときは強気に主張するのに、別の場面ではあっさり意見を翻す。
逆に、相手の反応を気にして言葉を選びすぎ、結局どこにも立場を示さない。
こうした人物は、どうしても信頼を寄せにくいものです。
では、逆に「この人はいつも一貫している」と思わせる人はどうでしょう。
多少の逆風があっても言うべきことを言う。
人によって態度を変えない。
行動の背景に「この人には軸がある」と感じられる。
そうした人物は「次の発言の予想がしやすい」「安心感がある」と評価されます。
実際、独裁者が手に負えない理由は、その「気まぐれ」にあります。
彼らがどこまで行っても、誰にも信用されず、恐怖されるのは、「何を言い出すかわからない」からです。
逆に、偉大な指導者や宗教家は、 細かい話をせず、ただひたすら理念を説く 。
理念が一貫していれば、 その大きな「安心」の下で、後は部下や弟子が、勝手にそれを解釈し、動いてくれます 。
仕事も同じです。
仕事において、「ブレない芯」を持っているかどうかで、成果も人間関係も大きく変わってきます。
実際、私のお会いした、あるIT企業の経営者は、社員からいつも
「うちの社長なら、絶対こう言うよね」と言われるほど、わかりやすい人でした。
また、それだけではなく、 「社長ならこう考える」 という価値観の部分まで、共有されていたのです。
これは細かいルールを作るよりも、はるかに効果的で、 社員が迷いなく仕事を進める上での強力な武器になっていた と感じます。
「ブレない芯」とは何か
では、もう少し解像度を上げていきましょう。
具体的に「ブレない芯」とは何を指すのでしょうか。
簡単に言えば、 自分の行動や判断を決める基準 です。上で述べたように、価値観とも言えますし、仕事の上では 「優先順位を決める考え方」 と言い換えても良いでしょう。
たとえば、営業では「顧客の成果に対して嘘をつかない」という芯を持つ人は、短期的に契約を取るためのごまかしをしないでしょう。結果として一時の成果を逃すかもしれません。
もちろん、だからといって長期的に顧客からの信頼を獲得できるとは限りませんが、とにかく「人間として」それを守らねば、という意思を持っている。
一方、芯を持たない人はどうでしょう。上司に言われれば方針を変え、顧客に強く迫られれば姿勢を崩す。目の前の状況に左右されて、一貫性がない。
その良し悪しはともかく、 「人として譲れないこと」が仕事の中にあれば、 それが「ブレない芯」となります 。
芯があることは良いことなのか?
では、芯があることは良いことなのでしょうか?
「信頼」を得る上で有利なのでしょうか?
こう考えてみてください。
信頼とは、 「リスクはあるが、この人の言うことを信じてみよう」 と思えたときに生まれます。
しかし、そのリスクをとるためには、 何かしらの根拠が必要 です。
そこでよく使われるのが 「発言の一貫性」 。コロコロ意見を変える人よりも、一貫性のある人のほうが、相手にとって信頼しやすいのは当然です。
したがって 「ブレない芯」を持つ人は、信頼を得やすい傾向がある でしょう。
また、芯を持つ人は 「判断の基準が明確」 なので、意思決定が速い側面もあります。
スピードが重要な仕事においては、迷いが少なく、軸に照らして即座に決断できる人は、成果を上げやすい場合もあるでしょう。
しかし「ブレない芯」というと、聞こえは良いですが、裏を返せば時にそれは「頑固さ」とも言うことができます。
周囲の意見を聞かず、自分の意見に固執することもまた、人から信頼を失うことの原因となりますから、限度というものがあります。
形だけの「ブレない芯」であれば、むしろ信頼という点ではマイナスに働くでしょう。
優れた「芯」とは
したがって、「ブレない芯」は、それ自体では、良し悪しはありません。
むしろ 「どのような芯を心に有しているのか」 のほうが、はるかに重要な問題です。
思うに、優れた芯には、少なくとも二つの条件があります。
ひとつは 「人としてどうすべきか」という、哲学的な問いに答えていること です。
これは、他者にとって理解可能であるだけでなく、相手が「その人の言動の裏には、この考え方がある」と理解できるものでなければならないからです。
理解可能であるからこそ、周囲は安心して従い、また同じ基準で物事を判断できるのです。
もうひとつは、 「人として」を考えた結果として、時代や環境に左右されない大きさ・深さを持つこと です。
たとえば、「顧客に対して不誠実なことはしない」という芯は、10年前と今日とで具体的な手段は変わるかもしれません。しかし理念そのものの実効性は、100年たっても変わらないでしょう。
ブレない芯を持つことはできるか?
しかし、言うは易し行うは難しです。
私たちは自分の芯を持てるのでしょうか。
答えは「YES」ではあります。
しかし、漫然と過ごしていて、得られるものでもありません。
ほとんどの人は日常の忙しさに流され、自分の価値観を明確に言語化する機会を持たないからです。
重要なのは、時間を取って言語化することです。
宗教が聖典を定めるのはなぜか?
企業が経営方針を発表するのはなぜか?
トップアスリートが目標を書き出すのはなぜか?
簡単です。
言語化されないものは、実行されないからです。
自分が重要だと感じる価値観を書いてください。
豊かさ、誠実さ、思慮深さ、思いやり、信頼、成功……
様々な言葉を書き出せば、自分なら何を優先するのかをはっきりさせることが可能でしょう。
書いてしまえば、後は小さな場面で実行してみることです。たとえば無理な要求をされたとき、芯に照らして断ることができるか。
会議で全員が賛成しているときに、芯に反するなら「違う」と言えるか。
日常の中で小さく実践することで、芯は「単なる言葉」から「信念」に昇華するのです。
プロフィール
安達裕哉
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。 品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。 大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。
現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」および生成AIコンサルティング会社「ワークワンダース」 の代表として、コンサルティング、webメディアの運営、記事執筆などを行う。
代表著書
『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること(日本実業出版社)』
『頭のいい人が話す前に考えていること(ダイヤモンド社)』
X(旧Twitter)
安達裕哉