性暴力からの解放「被害者・加害者・傍観者にならない」 20年ぶりに静岡県の会場で開催へ
■性教協の「全国夏期セミナー」 清水テルサで8月3、4日に開催
性教育を学ぶ全国レベルのセミナーが静岡県で開催される。性教育の実践を積み重ねてきた一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会(以下、性教協)」は8月3日と4日の2日間、静岡市の清水テルサで「全国夏期セミナー東海大会」を開く。静岡県が会場になるのは20年ぶりとなる。今年は「性暴力の被害者にも加害者にも、そして傍観者にもならない」という願いが込められ、性暴力からの解放と人権を守る教育を掘り下げる貴重な場となる。
ジャニー喜多川氏による性加害や大手進学塾講師による盗撮など、子どもや若者が被害を受ける事件は後を絶たない。同時に、性に対する社会的関心や性教育の重要性は高まっている。ただ、性教育の必要性を感じていても、どのように子どもたちに伝えたら良いのか迷う大人が少なくないのが現状だろう。
セミナーを開催する性教協は1982年に創立し、「科学・人権・自立・共生」をキーワードに性教育を研究して実践を積み重ねてきた。会員は教員をはじめとする学校関係者、助産師や医師といった医療関係者、福祉関係者や研究者など多岐に渡る。性教協は全国にサークルを持ち、それぞれが「子どもとともに性の在り方や生き方を考える活動」を続けている。
中でも規模が大きく、重要度の高い活動の1つが「全国夏期セミナー」だ。教育現場が今、直面している問題や課題をテーマに取り上げる。各分野の専門家による講演や分科会などを通じて解決方法を探す。
■現役教師の模擬授業や性暴力に関する分科会
今回のセミナーでは現役の教師が中学や高校で実践している模擬授業、性暴力の被害者・加害者への対応や子どもが知りたい性に関する分科会などが予定されている。静岡市の元養護教諭で、セミナーの副実行委員長を務める本間江理子さんは、「全ての大人に参加してほしい」とセミナーの意義を語る。
「近年は性暴力の事件に関して、被害者が声を挙げることでクローズアップされてきました。こうした動きから国は『生命の安全教育』と名付け、性暴力に特化した教育を慌てて推進させようとしています。もちろん、これも大事なテーマですが、それだけでは足りないと気付いてほしいのです。今回の夏期セミナーでは、性暴力の加害者にも被害者にも傍観者にもならない願いを込め、そのためには包括的な性教育がいかに必要なのかを広く知らせる目的で企画されています」
長年にわたって性教協で活動している本間さんは、日本の性教育の歩みは世界的に大幅に遅れていると指摘する。国を動かす立場にある政治家による性差別や人権軽視の発言は枚挙にいとまがない。ジャニー喜多川氏の事件に象徴されるように、被害者が勇気を出して声を挙げて初めて、事件が明るみになり、事の重大さが認識される。
それでもなお、当事者意識を持てない大人が職場や学校、家庭で性や人権を無視した行動を繰り返す。本間さんは、そんな世の中の現状に危機感を募らせる。
「現場の先生方の多くが性教育を学んできていない、どうやって性を語れば良いのか分からないと口にしています。先生方は性教育の大切さに気付いています。子どもたちが、日常の中で行動や言葉で訴えるからです。せめて教育学部を持つ大学には、もっともっと教育課程の中で必須項目として性教育を位置付けてほしいと切に願うばかりです。保育園でも幼稚園でも幼少期から始める性教育に取り組み、家庭でも性について語り合える家族関係を築いてほしいと思います」
■静岡県の会場は20年ぶり Zoomでの参加も可能
全国夏期セミナーは毎年実施されており、静岡県が会場となるのは2003年以来となる。住んでいる地域を問わず、中学生以上であれば誰でも参加できる。申し込みは性教協のホームページから受け付けている。
費用は1日のみの参加が一般3500円(30歳未満の学生1500円、中高生500円)、2日間の参加は一般のみ6500円。性教協の会員は割引きとなる。会場の清水テルサに加えて、Zoomでの参加も可能となっている。
(間 淳/Jun Aida)