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【rockin’on sonic】 プライマル・スクリームが40年かけて作り上げた「ロックンロール・ショウ」

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は1月4,5両日に千葉県の幕張メッセで開催された音楽フェスティバル「rockin’on sonic」を題材に。同フェスは焼津市出身の清水直樹さんが代表取締役社長を務めるクリエイティブマンプロダクション(東京都渋谷区)と音楽誌「ロッキング・オン」の共催。

幅広い世代の洋楽ファンを強く打ち抜くラインナップの初開催屋内フェス。キャパシティー2万人のGALAXY STAGE、8000人のCOSMO STAGEに2日間で16組が登場した。出演はパルプ、セイント・ヴィンセント、プライマル・スクリーム、ウィーザー、デス・キャブ・フォー・キューティー、マニック・ストリート・プリーチャーズ、ジーザス&メリーチェインなど。1980年代から1990年代に結成され、今なお活動を続ける英米のバンドが中心だった。

今の音楽フェスは、どこも「祝祭」「祭り」のイメージが強い。これは悪いことばかりではないが、チケットの価値に占める「音楽」の比重がかつてに比べて下がっているのは否めない。フェスのキャラクターにもよるが、ステージでの演奏よりワークショップや子ども向けのアトラクションに相当な時間を費やす参加者も多いのではないか。

1990年代後半から2000年代前半のフェスはちょっと違っていた。「1枚のチケットでこんなにたくさんのバンドが見られるのか」といったある種の「お得感」と未知の音楽への好奇心がない交ぜになり、できる限りたくさんステージを見ようとする人が多かったように思う。国内外のアーティストの演奏を、半ば貪欲に楽しんでいた。

「rockin’on sonic」には、そうした雰囲気があった。二つのステージの演目が交互に組まれたタイムテーブルに従えば、出演した16バンドを全て見ることが可能。現場では、観客がステージ間をぞろぞろと大移動する光景が見られた。

「酒を飲む暇もない」という声さえ聞かれた。「できる限りたくさん見る」という観客の姿勢が充満していた。日本の野外フェス黎明期の「あの雰囲気」が満ち満ちていた。

個人的には初日のプライマル・スクリームに胸打たれた。黒人女性シンガー2人、サックス奏者を含む7人編成。ラメのストライプが入った黒スーツのボビー・ギレスピーはくねくねと踊り歌いながら、広いステージを右に左に動き回った。

新作「Come Ahead」の「Love Insurrection」から1994年のアルバム「Give Out But Don't Give Up」収録の「Jailbird」、再び新作の「Ready To Go Home」と続くグルーヴィーな幕開けも良かったし、「Loaded」「Movin’ On Up」が連なる「Screamadelica」(1991年)コーナーでは不覚にも落涙した。

「最高にくそヤバいロックナンバーだぜ」(意訳)とのMCから「Rocks」で締め。盛り上がる観客を前に、ギレスピーは心底うれしそうに笑った。彼が40年かけて作り上げた「プライマル・スクリーム一座」の「ロックンロール・ショウ」の格好良さと価値は、見た者全ての心に届いたはずだ。
(は)

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