キャラクターへの「共感」は書き手の語彙力にかかっている?【プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑】
文章表現は語彙力が9割〝ヒトゴコロ〟を描き切る
活き活きとしたキャラクターを描くには、読者が感情移入できる〝ヒトゴコロ〟すなわち人心を登場人物に持たせなければなりません。物語で活躍するあらゆるキャラクターは、現実世界と同じように、その世界観のなかで息づき、生きているからです。
主役はもちろん、脇役や悪役たちも、喜怒哀楽という感情を相手や事象に抱き、泣いたり笑ったりして初めて、書き手から生を授かるといっていいでしょう。
魅力的で面白い作品――小説でも漫画でも映画でもアニメでも――は、キャラクターの気持ちがつねに激しく動きながら、感情が行動を引っ張っていきます。
そして行動原理は感情を起点として沸き起こるため、「なぜそうするのか?」という理由を明らかにする必要があります。ここに説得力があれば、読者の感情移入につながるわけです。
となれば書き手に求められるのは、感情という〝ヒトゴコロ〟を描き切る文章力です。言い換えるなら、人物描写のテクニックです。
これが難しい。人物描写がうまくなるには、2 つの要素が求められます。
観察眼と、語彙力です。
優れた書き手は、日常でつねに他人を観察し、その行動を起こすに至る感情の変化を読み解く訓練をしているといわれます。
〝ヒトゴコロ〟の機微をきちんと把握することは、それくらい物語創作において重要な役割を担うのです。〝ヒトゴコロ〟を描き切る 仮に、感情の変化を読み解く観察眼が鍛えられたとしても、読み手へ伝えるための描写テクニックが拙ければ意味を成しません。しかも感情の動きは、目に見えるものでもなければ、色分けで表せるわけでもなく、あくまで感覚的なニュアンスでしか具象化できません。
そこで語彙力が大きく問われます。言葉=語彙といわれるほど、その力は多大です。語彙の集大成がコミュニケーションの根幹を形成し、あらゆる表現を司るからです。
たとえば、「怒り」という感情のなかには、激昂するのか、地団駄を踏むのか、イラッとするのか、怒鳴り散らすのか、じつにさまざまなレベルの「怒り」が存在します。語彙力さえあれば、その「怒りレベル」を正しく伝えられます。
こうした差異をシーンに応じて的確に描き切ってこそ、作品に魂を吹き込め、〝ヒトゴコロ〟を持った活き活きとしたキャラクターを物語で息づかせていくことができます。
さらには、キャラクターの感情を読み手の気持ちとシンクロさせて強い共感を呼び起こし、一心同体とすることが可能になるのです。登場人物を生かすも殺すも、書き手の語彙力にかかっています。
【出典】『プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑』著:秀島迅