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形なきものから生まれる、確かな存在感 ― 奥中章人「Synesthesia ーアートで交わる五感ー」展(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

「空気と水と光」を題材に、体験的な巨大作品を、各地で精力的に発表している美術家の奥中章人(1981-)。

展示室いっぱいに広がる作品で、鑑賞者の感覚を揺さぶる展覧会、奥中章人「Synesthesia ーアートで交わる五感ー」展が、WHAT MUSEUMで開催中です。


WHAT MUSEUM 奥中章人「Synesthesia ―アートで交わる五感―」展


奥中章人は京都生まれ。静岡大学教育学部を卒業した後、静岡県立美術館と障がい者施設で美術あそび講師を務めたのちに、近現代の思想を学び、美術家になりました。

奥中が影響を受けたひとりが、フランスの哲学者、ブリュノ・ラトゥールです。自然と社会の二元論を支柱とした近代のあり方を見直すことを提唱したラトゥールの思想は、奥中の創作に繋がっています。


奥中章人「Synesthesia ―アートで交わる五感―」展 会場入口


今回の会場は、WHAT MUSEUMに入って左手のSPACE 2。展示室前の壁面に貼られているのは、見る角度によって色が変化する、ホログラムシートで、今回のインスタレーション作品にも用いられている素材です。


奥中章人「Synesthesia ―アートで交わる五感―」展 会場入口


展覧会タイトルの「Synesthesia(シナスタジア)」とは「共感覚」を意味しますが、奥中はこの言葉を独自に解釈しています。

Wikipediaによると、共感覚は「ある1つの刺激に対して、通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚も自動的に生じる知覚現象」とのこと。奥中は、感覚することが自然・社会・人を繋げる可能性になるのではないかと考えています。奥中の哲学的な思考から生まれた創作のプロセスを示す資料や、作品の模型なども紹介されています。


作品の模型


では、作品を体感してみましょう。

入口前まで進むと「展示室を埋め尽くす」という表現がピッタリの巨大なバルーン。まずその大きさに驚かされます。


奥中章人「Synesthesia ―アートで交わる五感―」展 会場


この写真を見れば、バルーンの大きさがイメージできるでしょうか。

見る角度によって色が変わるため、歩きながら見ると印象も変わります。そっと押してみると、空気で膨らんでいることも実感できます。


奥中章人「Synesthesia ―アートで交わる五感―」展 会場


さらに近寄ってみると、内部が透けて見えます。

展示室を反時計回りに進んで、バルーンの入り口へ。美術作品に触れ、中に入り寝転ぶなどの体験ができることが、本展最大の特徴です。


外から覗いた作品の内部


靴を脱いで作品の中に入ると、現実離れした不思議な空間が広がります。写真では緑色が目立ちますが、光の角度によって色が変わるので、さまざまな色に包まれるような感覚になります。

バリアフリーへの配慮もあり、車椅子で作品に入ることも可能です。


作品の内部


バルーン内部の柱は、展示室内の柱の部分。ここもホログラムで包まれており、輝く柱は空間のアクセントになっています。

中央には大きな水枕があるので、ぜひ寝そべってみてください。波打つ水枕に身を委ねていると、時間を忘れるほどの贅沢なひと時を堪能できます。


作品の内部


作品を構成しているのは空気と水と光。形をもたないものがつくり出す、確かな存在感をお楽しみください。

WHAT MUSEUMでは、高橋隆史氏による現代アートのコレクションを紹介する、T2 Collection「Collectiong? Connectiong?」展も同時開催中です。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年10月31日 ]

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