“濃い心”をザワつかせる“超”豚骨ラーメン。博多駅南で「豚に夢中」!
「福岡でのラーメン新規出店数をジャンル別に見ると、非豚骨が豚骨を超えた」。
ニューオープンにアンテナを張っている熱心なラーメンファンなら非豚骨の台頭は肌で感じているはずですし、そうでない人もこの種のニュースを小耳に挟んだことがあるのではないでしょうか。確かに事実。
僕はラーメンライターとして、豚骨の未来を危惧するような現状についてコメントを求められることも多いのですが、この場でも声を大にして言わせてください。「豚骨ラーメン全然大丈夫っしょ! むしろ価値が高まっていく!!」のだと。
理由は大きく3つ。まずは、非豚骨が豚骨を超えたというのはあくまで新規出店の数であり、既存店、トップランナーとして走っている店の数は圧倒的に豚骨が多いこと。第2に現在、非豚骨にカウントされているラーメンにも、かなりの割合で素材に豚骨が入っていること。つまり、ジャンルとしての非豚骨の多くには、素材として豚骨が息づいているんです(もちろん完全非豚骨もあります)。最後は、九州全体でも豚骨に美学を見出した若手が徐々に増えているという点。豚骨一辺倒だったから非豚骨が増え、そして非豚骨が飽和するとまた豚骨が着目される、というのは自然な流れともいえます。ともあれ、「豚骨ラーメンこそ最強」が口グセの僕にとって、とても嬉しいことですね。
今回紹介する「豚煮夢中-BUTANI MUCYU-」はそんな“豚骨の復権”の一翼を担う実力派。飲んだ瞬間にハッ!となる豚骨濃度、トロリと粘度の高いスープが最大の持ち味です。加えて、においの問題など街なかでの豚骨出店が難しくなっている昨今、博多駅南という好立地で、“店炊き”濃密豚骨を実現しているのも着目すべきこと。そこには周辺環境に配慮した作り手の創意工夫、「持続可能な豚骨ラーメン」の新たな形がありました。
「豚煮夢中-BUTANI MUCYU-」の店主は嘉数(かかず)亮平さん。出身地の沖縄そして東京の有名店での修業を経て2024年4月に同店を開きました。嘉数さんはラーメン歴も長くジャンルの引き出しも多い人ですが、豚骨王国に東京発の非豚骨をもってくるのではなく、ズバリと「突き抜けた豚骨」で勝負をかけたことに気概を感じます。そして沖縄育ちで豚骨ラーメンにはあまり親しんでこなかった嘉数さんだからこその福岡ラーメンシーンを俯瞰し「勝機あり」と繰り出した一杯。僕らにとって“おもしろみ”があるんですよね。
看板メニューの『濃厚豚骨』(900円、写真は味付け玉子、生タマネギ入り1,100円)は、見ただけででドロリとしているのが分かる茶濁スープ。ブリックス濃度は仕上げ時測定で20%を超えます。これはいわば“濃さ”の目安となる数字で、高いからいい、低いから悪いというわけではありませんが、比較的サラッとした古の博多ラーメンが8〜12%ほど、カップラーメンは5%ほどなのでその濃度の高さが分かるでしょう。この濁流豚骨ともいうべき特濃スープはぶっちゃけ九州の他店にもあります。それらはいわゆる“呼び戻し”であるのに対し、「豚煮夢中-BUTANI MUCYU-」は“取りきり”手法で作られているのが大きな違いなんです。「呼び戻し」と「取りきり」の詳細は長くなるので別の機会にしますが、簡単に言うと前者は“熟成”、後者は“できたてフレッシュ”。フレッシュと聞くとあっさりイメージですが、骨量が多いと当然濃くなります。麺がスープを“持ち上げる”ような驚きの濃さの取り切りスープ。それが「豚煮夢中-BUTANI MUCYU-」の醍醐味です。
「できるだけ濃い豚骨ラーメンを出したい。でも、周辺環境への配慮や女性も入りやすい面でも極力匂いを出したくない。両立するべく行き着いたのが、羽釜での呼び戻しでなく、寸胴を使っての取り切りです。材料は強い旨味が染み出す豚ゲンコツ、背骨に、コラーゲンのとろみ、甘味も醸してくれる豚足も大量に入れ“度肝を抜く”濃度に仕上げました。比較的ライトにいける第二のスープ『純豚骨』もありますので、ぜひ食べ比べてみてください」と嘉数さん。
厨房を見せてもらうと「濃厚豚骨」(右)、「純豚骨」(左)のスープの色の違いは歴然。「純豚骨」は乳化系の真っ白いスープで、「濃厚豚骨」とは別取りした全く異なるスープです。麺は「製麺屋 慶史」に特注した細麺と中太の2種類。細の方でも一般的な博多ラーメンと比べるとちょい太めで、よりモチモチ感が立っているのが特徴。替え玉はありますが、麺の硬さの要望にはあえて応えず、嘉数さんが考える最良の茹で加減で出してくれます。また、黄身がリキッドな丸1個の煮玉子には、一つずつ丁寧にロゴの焼印をジュジュリ。
ラーメンのお供に、「チャーハン」(700円)もオーダーしました。
刻みチャーシューの脂の旨味も生かし、「ラーメンの濃厚スープありき」で作られたあっさりとした味付け。チャーハンをパクつきすぐさまスープをズズッ! 最高ですね。
福岡でも“特濃豚骨”で名を馳せる名店はありますが、こと博多駅エリアでいうと「豚煮夢中-BUTANI MUCYU-」は間違いなくトップの濃さです。
福岡の中心地で豚骨スイッチが入った時、また「“濃い心”が抑えられない時」にぜひ訪れてみてください。