【倉敷市】阿知フェス(2025年6月1日開催)~ かつてのにぎわいをもう一度この街に。3つのエリアで味わうそれぞれの街の風景
倉敷駅前の観光地といえば、まず思い浮かぶのが美観地区。観光客にも人気のエリアで、いつも多くの人でにぎわっています。
しかし駅前には他にも江戸時代からの情緒あふれる町並みや、新しく整備されたエリアなど、まだまだ魅力的な町があることを知っていますか?
「阿知フェス」は、そのような場所に改めて目を向けてもらい、街のにぎわいを取り戻そうと企画されたイベントです。
町を歩きながら出会った風景や人々の想い、フェスのさまざまな取り組みを紹介します。
阿知フェスとは
「阿知フェス」は、2025年6月1日に倉敷駅前の阿知エリアで開催されました。このイベントは、地元の商店や建物を生かしながら、街ににぎわいを取り戻すことを目的としています。
これまでは「阿知町界隈」として阿知3丁目だけでイベントがおこなわれていましたが、2025年からはエリアを広げて、阿知2丁目やあちてらす倉敷も合同で参加。
3エリアが一体となった「阿知フェス」として、記念すべき1回目の開催となりました。
阿知フェスが生まれた背景
阿知フェスを主催したのは、阿知町界隈活性化実行委員会の皆さんです。委員の内田耕太郎(うちだ こうたろう)さん、井上雅夫(いのうえ まさお)さんに、開催の経緯とその背景を聞きました。
「江戸時代から戦前くらいまでは、阿知町は本当ににぎやかな繁華街だったのです。しかしいつの頃からか、人通りが少なくなり、静かな街並みに変わってしまいました。だからこそ、もう一度街ににぎわいを取り戻したいという想いが強くありました」
と内田さんは言います。
「阿知フェスは、倉敷市が進めているあちてらす倉敷周辺の活性化とも連動しています。あちてらす倉敷から、阿知3丁目、阿知2丁目、そして美観地区へと、人が街を歩きながら自然と流れていく。そのような人の動きを生み出すことを目指した構想なのです」
と井上さんが教えてくれました。
お二人の話を聞いていると、地域の人たちの阿知町への想いが深く伝わってきます。
三つのエリアについて
阿知フェスは、大きくわけると三つのエリアにわかれて開催しています。
三つに分かれたエリア・あちてらす倉敷エリア
あちてらす倉敷付近と倉敷一番街商店街エリア
・阿知3丁目エリア
小河原邸、内田邸、大橋家住宅付近
・阿知2丁目エリア
阿知2丁目広場、阿知スペース広場、LOGIN Kurashiki
各エリアでイベントが開かれていたり、ワークショップをおこなっていたりと盛りだくさんのようです。
筆者が会場に到着したのは午前10時頃。あまりの広さに「全部回りきれるかな…」と少し不安になりながら、まずは地図を手に取りました。
お土産がもらえるスタンプラリーに参加
阿知3丁目エリアに設けられた総合受付では、町内のボランティアスタッフが笑顔で迎えてくれます。
ここでは、スタンプラリーの台紙が配布されていました。
参加費は200円。
阿知3丁目・阿知2丁目・あちてらす倉敷の三つのエリアに設置されているそれぞれの店舗でスタンプを集めると、先着200名にお土産がもらえるので、筆者もさっそくスタンプカードを購入。
「どこから回ろうかな?」とワクワクしながら、街歩きをスタートしました。
それではここから、筆者が立ち寄ったお店を順番に紹介していきます。
阿知3丁目エリア
まず、阿知3丁目エリアに向かいました。
小河原邸(おがわらてい)でのイベント
3丁目の本部席から歩いてすぐの場所にあるのが、小河原邸。
明治時代に建てられた風格ある建物で、現在も呉服屋として営業しています。
小河原邸の駐車場を開放し、イベントスペースとして活用。最初のステージは、フラダンスです。
日差しが少しずつ強さを増すなか、ここだけハワイアンの音楽が流れ、まるでリゾート地のよう。
ステージに立つ出演者のなかには、今日デビューするメンバーもいて、控えめに踊る姿からは緊張感が伝わってきます。観客も皆、あたたかなまなざしで見守り、ほんのひととき倉敷にハワイの風か吹いたようでした。
トラットリア自家製蕎麦 武野屋の和牛串
小腹が空いてきた頃、小河原邸の向かいから、元気な「いらっしゃいませ」の声が聞こえてきました。
声の主は、「トラットリア自家製蕎麦 武野屋」のスタッフさん。
倉敷でも人気のお蕎麦屋さんで、なんとお店の庭園を開放して出店をおこなっていました。
その素敵な庭園からは、なんとも香ばしい匂いが…。香りに誘われるように、庭園のなかへと吸い込まれていきました。
お店の人に話を聞いてみると、ローストビーフにも使用している富良野A5和牛の牛串が、ほぼ原価に近い料金で販売されているとのこと。
そんな話を聞いてしまったら、食べずにはいられません。
テーブルと椅子が並べられた庭園で味わう牛串は、熱々で肉汁がじゅわっと染み出してほっぺたがおっこちそうなくらいのおいしい一品でした。
まだ時間も早かったので、ぜいたくな空間を独り占めして、お腹も心もほっこり満たされます。
武野屋別邸の大陶器市
同じ庭園内の奥の建物でもなにか催し物があるようです。普段はなかなか入れないので気になります。
こちらは、武野屋別邸。いつもは完全予約制のアフタヌーンティーのお店ですが、阿知フェスの特別企画「大陶器市」として一般開放していました。
店内では、実際に武野屋で使用している人気の器が30%オフで販売していて、器好きの来場者たちがじっくりと手に取って選ぶ姿も。
室内には、さまざまな出店者による雑貨やアート作品も並んでいて、まるで美術館にいるような静かで充実した大人の時間を過ごせました。
内田邸 菩提仙唐流(ぼだいせんとうりゅう)による煎茶会
小河原邸のすぐ隣にある内田邸では、菩提仙唐流による煎茶会が開かれていました。
1回500円で、本格的なお点前(てまえ)を体験できるので、入ってみることに。受付では素敵な笑顔のスタッフが、やさしく迎えてくれました。
筆者は午前11時からの回に参加。会場では5〜6名ずつのグループに分かれて座ります。
煎茶体験は初めてのかたが多く、スタッフが煎茶の作法や歴史についてていねいに説明してくれます。
筆者自身も抹茶のお茶会には何度か参加したことがありましたが、煎茶のお点前は初体験。
菩提仙唐流の先生が、「みんな忙しいからこそ、おいしいお茶を飲みながらお菓子を食べて、お話ししながらほっとする時間が大事なんです」と、やさしく語りかけていました。
お点前は、一煎目は低温でゆっくりと抽出されたお茶を飲み、続いてお菓子をいただく流れです。その後の二煎目は温度を上げて飲むので、煎茶がしっかりとした旨みのある味わいに感じられました。
参加者からは、「おいしい!」と、声が自然にこぼれ笑顔が広がります。
ただ静かに座ってお茶をいただくだけでなく、人と人とのあたたかいつながりも感じられる、心和む時間でした。
あちてらす倉敷エリア
スタンプラリーがまだまだ埋まっていないので、次のあちてらす倉敷エリアに移動します。
同じ「阿知フェス」なのに、エリアによって雰囲気がガラリと変わるのが面白いところ。
阿知3丁目エリアが「古き良き時代」の空気をまとっているとすれば、こちらのあちてらす倉敷エリアは、若者を中心としたにぎやかでエネルギッシュな空間といった印象です。
広場に設置されたステージでは、アイドルグループのパフォーマンスや、ダンススクールの発表がおこなわれていて、観客の手拍子や歓声に圧倒されます。
色とりどりの花々が販売されているすみれ花店
あちてらす倉敷エリアの倉敷一番街商店街でも、キッチンカーや屋台が立ち並び、通り全体が活気に包まれていました。
そのようななか、筆者が足を止めたのは、地元の花屋「すみれ花店」。
色とりどりのバラや紫陽花が、お手頃価格で販売されていて、「自分へのご褒美にしようか」とつい本気で悩んでしまいました。
同じ一角に、苔テラリウムのワークショップも開催していて、子どもたちが真剣な表情で苔を配置したり、小さな世界をつくったりしています。そのようすが非常にかわいらしく、にぎやかな商店街のなかで、ほっこりとした時間が流れていました。
完熟いちこがたっぷり いちご屋ROSSO
たくさん歩いたので、喉が渇いたなとキッチンカーに目をやると、気になっていた「いちご屋ROSSO」が目の前に。
ずっとチェックしていたお店だったので、見つけた瞬間、迷わず足が向かいました。
注文したのは「いちごミルクスムージー」(500円)。
使っているいちごの種類を店員さんに聞いてみると、「おいCベリー」とのこと。
一口ゴクッと飲んでみると、甘さ控えめですがしっかりいちごの味もします。氷が溶けたときのミルクとの相性も抜群。
フェスの合間にぴったりの、美肌にもやさしい特別ないちご時間でした。
阿知2丁目エリア
スタンプラリーも、あと少し。
地図を片手に、最後のスタンプを求めて、再び阿知3丁目エリアを抜けて阿知2丁目エリアへと向かいます。
阿知2丁目エリアは、三つの会場に分かれていました。
・阿知2丁目広場
・阿知スペース広場
・LOGIN Kurashiki
阿知2丁目エリアは、倉敷美観地区のなかにあり、観光客や親子連れが集まるほのぼのとした雰囲気です。
子どもたちに人気のミニクイズラリー
そのなかでも、阿知スペース広場では、子どもたちに人気のミニクイズラリーが開催されていました。
阿知2丁目エリアのお店をめぐりながら、出題されたクイズに挑戦するイベント。
正解した数に応じて景品が変わるしくみで、地域の人が考えたクイズに子どもたちも楽しみながら参加しています。
なかでも一番人気だったのは、おもちゃすくい。
大きな桶にはカラフルなおもちゃがたっぷり浮かんでいて、子どもたちは夢中でポイを動かして、お目当てのおもちゃをすくっていました。
親子連れのかたと地域の人々との交流が楽しめるそんな空間になっていました。
ICHIGO 「たい焼き&コーヒー」
ミニクイズラリーのすぐ隣に「もっちもち米粉のたい焼き」の看板を発見。
気になって立ち寄ってみると、こちらは社会福祉法人四ツ葉会が運営する就労継続支援B型事業所「ICHIGO WORKS」による出店でした。
筆者は最近グルテンフリーや米粉に興味があったので試しに購入してみることにしました。
この日は期間限定の抹茶味バージョンが並んでいて、手に取るとふんわりとやさしい抹茶の香りが。
ひと口食べると、外側の皮はもっちりとしてやさしい食感。
なかにはほどよい甘さの抹茶あんこが詰まっていて、お腹にも心にもやさしい、体にうれしいおやつでした。
阿知フェスに参加して
スタンプラリーも無事にコンプリートし、手元には阿知町界隈からのお土産と一緒に、地域の人々との多くの出会いが残りました。
筆者自身、美観地区にはよく足を運ぶものの、阿知町はいつも素通りするだけになっていました。
しかし今日だけは「阿知町界隈」をじっくり味わいながら歩けたことは、貴重な時間だったと感じています。
それぞれのエリアに流れる空気はまったく違っていたのに、どこにも共通してあったのは、人のあたたかさと地域を思う気持ち。
今回の阿知フェスは、単なる「イベント」ではなく、地域の人たちがそれぞれの場所から「街を一緒につくっていこう」とする想いが感じられる心に残る1日でした。
また来年どのような風景が見られるのか、その日が今から楽しみです。