【県立美術館のクラウドファンディング】彫刻プロムナードの作品を修復したい!美術館初のクラファンの背景は?
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは、静岡県立美術館が実施中の散歩道「彫刻プロムナード」の修復資金をクラウドファンディングで募る「アートとみどりの散歩道再生プロジェクト」。先生役は論説委員の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年9月4日放送)
目標1000万円、現在650万円
(山田)今日は県立美術館の話ですか。
(橋爪)モンドさん、最近県立美術館に行きましたか?
(山田)行ってないですね…。最後に見たのは恐らく「大大名(スーパースター)の名宝」展(2023年10月17日~12月10日)ですかね。狩野派の黄金色の屏風があったりして。
(橋爪)その県立美術館、県美がいま、クラウドファンディングをやっています。目的は「彫刻プロムナード」の再生。「彫刻プロムナード」は、県立美術館や県立中央図書館の利用者用の駐車場から県立美術館の正面玄関にたどり着くまでの、なだらかな坂道のことです。
(山田)あそこ、だいたい200メートルぐらいでしょうかね。
(橋爪)もうちょっと長いような気もしますね。石畳の街路には国内外の彫刻家の作品14点が点々と置かれています。四季折々の花々も楽しめます。ドウダンツツジ、コナラ、サルスベリ…。春先はソメイヨシノがずらりと花を咲かせます。
(山田)気持ちのいい場所ですよね。
(橋爪)この「彫刻プロムナード」、実はかなり古いんです。美術館は1986年4月18日開館ですが、いくつかの作品はそれより前に設置されています。40年ぐらいたっていますので、彫刻の塗装の剥落や腐食、さびなどの損傷が目立つわけです。街路の草木の手入れも行き届かなくなっている。
(山田)なるほど。
(橋爪)一方で、県の予算措置は十分ではないんです。ここからは一部想像ですが…こうした維持管理の予算については、特段の事情がなければ前年度からの大幅増は見込めません。一方で、作品や建造物は時間がたてばたつほど劣化していきます。修復費用は比例的に増加していく。予算と費用にどんどんギャップが生まれていくわけです。ということで、そのギャップを埋めようと始めたクラファンですが、さっき見たら、10月末までの目標1000万円に対して、62人から650万円超が集まっていました。
(山田)やっぱり、あの道を好きな人、多いんだ。
(橋爪)いろんな思い出のエピソードを寄付と共に寄せている方もいますね。
(山田)途中のベンチで休憩もできますし。いいところですよね。集まりますね、やっぱり。
トニー・スミスと清水九兵衛の作品を修復
(橋爪)集まったお金を何に使うのか。県立美術館は以下のように明示しています。一つ目。トニー・スミス「アマリリス」の修復費に約360万円。
(山田)かかりますね…。
(橋爪)坂道を上りきった広場に置かれている彫刻ですね。トニー・スミスは米ニュージャージ州生まれの彫刻家。作品は鉄製で黒い塗料が塗られているのですが、最後の塗り替えから16年経過していて、劣化した塗料が粉状になって指につくそうです。塗膜に亀裂が入ってはげ落ちたり、さびた鉄材が現れているところもあるとのこと。今回のクラファンで、その修復、再塗装と腐食個所の防さびを行いたいと。
(山田)なるほど。
(橋爪)二つ目。プロムナードの真ん中あたりにある、赤っぽいパイプ状の作品、分かります?
(山田)あ!分かります。パイプと言うよりもエビの甲羅のような。ホッチキスの芯がガチャッと地面に刺さっているような形状。
(橋爪)それはいい形容ですね。清水九兵衛さんの「地簪(ちかんざし)」という作品です。清水さんはアルミニウムを素材とした抽象彫刻で知られています。赤い作品なので、周囲の緑を背景に、映えるはずなんですが、塗装が剥がれ、さびも出てきています。この赤色を復活させたい。もともと、京都の神社の鳥居の朱色に近い色で、「京都レッド」と名付けられているそうです。
(山田)もっと真っ赤だったんですね。いまはエビの色みたい。
(橋爪)前回の塗り替えからすでに30年が経過しています。今回のクラファンはきれいな京都レッドをよみがえらせるのが目的です。これが約240万円。このほか、植栽やベンチなどの整備について約400万円の費用を見込んでいて、全部で1000万円ですね。
各地で広がる美術館のクラファン
(山田)前回は県の予算で修復だったんですか?
(橋爪)そう聞いていますが、時代を経てやりくりが難しくなったのが実情でしょう。ここで言いたいのは、美術館・博物館のクラファンは近年「よくあること」なんです。
(山田)そうなんだ。
(橋爪)代表的な例は、国立西洋美術館や国立工芸館を運営する独立行政法人国立美術館。ここは2019年に専用のCFサイトをつくっています。一番最初は、西洋美術館所蔵のクロード・モネ「睡蓮、柳の反映」をデジタル推定復元するプロジェクトで、300万円が集まりました。2023年には国立科学博物館のクラファンに9億円超が集まりました。
(山田)これ、大きなニュースになりましたよね。
(橋爪)もう一つの事例。フランス・パリのルーヴル美術館は、博物館クラファンの成功例として語られています。2010年に初めて行い、これまで私が確認できただけで4回実施していますね。絵画の購入、建築や彫刻の修復費用を集めるのが目的です。
(山田)寄付すると、自分はルーヴル美術館を支えているんだ、と思えるでしょうね。
(橋爪)そういう効果は確かにあるでしょうね。日本においてクラファンを行う背景には、国や自治体からのお金が十分でないということは挙げられますが、もう一つ、2017年制定の文化芸術基本法があると思います。
(山田)どういうことですか?
(橋爪)2001年制定の文化芸術振興基本法が改正されて文化芸術基本法になったわけですが、ここで、博物館がまちづくり、観光、国際交流、福祉、教育、産業など、博物館の立地する地域とのつながり、地域の文化の活性化への寄与が打ち出されています。クラファンはまさにこうした方向性を体現していますよね。
(山田)県立美術館のクラファンはどうやって進めているんですか?
(橋爪)ふるさと納税制度を使っています。寄付金の2000円を超える部分は所得税の還付、住民税の控除を受けられます。
(山田)返礼品は?
(橋爪)ふるさと納税なので、県内の人は残念ながら受け取れません。
(山田)寄付はできるわけですね。
(橋爪)県外の人に限りますが、ユニークな返礼品があります。例えば、伊藤若冲「樹花鳥獣図屏風」特別鑑賞会。通常は展示ケース内でしかみられない作品を、ケースから出して学芸員の解説付きで鑑賞できます。これが100万円以上の寄付者対象です。
(山田)100万円以上!
(橋爪)家族、友人など最大15名で鑑賞できるそうですから、ぜひ 県外の知り合いを「100万円寄付してよ」とそそのかしてみてはいかがでしょうか。
(山田)いい形で残っていってほしい美術館ですから応援しなくてはいけませんね。今日の勉強はこれでおしまい!