Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4 虚淵玄ロングインタビュー①
TOPICS2025.02.18 │ 18:00
Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4
虚淵玄ロングインタビュー①
およそ10年にわたって展開されてきた『Thunderbolt Fantasy Project』の完結編たる劇場上映作品『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 最終章』の公開日まで、あとわずか。ここでは『最終章』に直接つながるTVシリーズ4期『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』について、原案・脚本・総監修の虚淵玄(ニトロプラス)にたっぷりと語ってもらった(全5回)。虚淵作品の根底にある哲学にも迫るこの記事を読んで、完結編の衝撃に備えていただきたい。
取材・文/前田 久
※本記事はTVシリーズ4期最終回までの内容を含みますので、ご注意ください。
Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀
シリーズの3・4・5をほぼひとまとめに構想した
――まずは『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』のアイデアの発端から聞かせてください。
虚淵 じつは『Thunderbolt Fantasy 西幽玹歌』のあと、黄亮勛さん(『Thunderbolt Fantasy Project』の映像制作を手がける霹靂社の社長)から「一旦『Thunderbolt Fantasy Project』シリーズをまとめて、完結させる方向に舵を切ってほしい」と言われたんです。その際に「シーズン5まで尺を重ねれば可能です」とお答えして、シリーズの3・4・5をほぼひとまとめに構想しました。3期で「無界閣(ムカイカク)」の話をして、4期で魔界の話をする、そして5期……結果的には劇場上映作品になりましたが、そこで全部終わらせるという段取りが、その段階からできていました。
――具体的なビジョン……魔界の世界観設定やビジュアルイメージは、どのように生み出していったのでしょうか?
虚淵 最初はものすごくふわっと「この世ならざる場所」のイメージしかなかったんです。『オブリビオン』や『デビルメイクライ』のような、ファンタジーもののゲームでは定番の魔界描写というか、「なんだか肉っぽい見た目のところ」みたいな(笑)。照明しかり、美術しかり、地上とまるっきり違う不自然な場所という表現さえできればいいかな、と。だから具体的なところは、霹靂社さんにわりとお任せでした。
嘲風がよかったので、魔族のデザインは洋風に振り切った
――魔族の人形のイメージはどうですか?
虚淵 人形のキャラクターデザインに関しては、『西幽玹歌』の嘲風(チョウフウ)のデザインがヨーロピアンテーストを取り込んだうえでうまくまとまった感じがあったので、阿爾貝盧法(アジベルファ)以降、「いっそのこと魔族は洋風に振り切っちゃいますか」という提案をして、ああいうキャラクターたちが出てきた流れですね。あのデザインは霹靂社の皆さんにとって「布袋劇の人形でどれだけ洋装が表現できるか」というチャレンジだったと思います。
――そうした霹靂社さんとのやり取りから生まれたもので、驚いたものはありましたか?
虚淵 悍狡(カンコウ)のデザインですかね。あれは人形の構造から逆算したデザインといいますか、「どんな表現ならば、布袋劇で人型じゃないモンスターを作れますか?」とあちらに投げて、いくつか挙げてもらったデザインの中から決めました。ちなみにビームを吐くのは、霹靂社さんが現場のアドリブで入れてくれた表現だったんですが、後の合戦シーンでは吐いていないので、あとからビームを吐ける個体と吐けない個体がいることにして、設定の整合性を取りました(笑)。
天工詭匠がただのおじいちゃんだと一行のお荷物に?
――3期のサイボーグに続いて、4期ではロボとガトリングガンが出てくるのには驚かされました。あの発想はどこから?
虚淵 4期の中盤以降、状況がわりと過酷になっていくなかで、天工詭匠(テンコウキショウ)がただのおじいちゃんのままだと、一行のお荷物になる懸念があったんですよね。『西幽玹歌』の段階でもおんぶされて運ばれるシーンがあったくらいなので、もっと厳しい状況で生かしておくには、なんとかしてパワーアップさせる必要がある。それで考えた結果、「よし、ロボに乗せよう!」と。
――見た目のインパクトに囚われてしまいましたが、純然たる物語上の必要性で、論理的に導き出されたものだったんですね。
虚淵 そのうえで「どうせやるなら、遊んじゃおう」みたいな気持ちで、あんな感じになりました。
――ロボのデザインはどうやって決めたんですか?
虚淵 もともとは『未来少年コナン』に出てくるロボノイドのイメージから始まったんですけど、布袋劇の着ぐるみで表現するにはそれなりのサイズがないと厳しいので、結果としてあれくらい大袈裟な見た目になりました。それが決まったので、じつはガトリングガンはその前振りとして出そうと思ったんですよ。あのロボみたいなものが出てきても突飛にならないように、あらかじめほどほどに突飛なものを出して、お客さんに目を慣らしていただこうと。あそこは霹靂社さんも、普段やらないことができたという点で楽しんでもらえたのかなと思います。
霹靂布袋劇のチャレンジポイントを作っていく
――本家の霹靂布袋劇のシリーズにも相当突飛なものが登場しますが、巨大ロボは新しいラインでしたか。
虚淵 そうですね。ターミネーターみたいなキャラはいるんですけどね。ロボ以前にも、そもそも着ぐるみを暴れさせるというのが、『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』からの試みだと思います。あのあとで本家の本編(霹靂布袋劇のこと)でも着ぐるみのモンスターが出たので、そういうチャレンジポイントを作っていくのも、我々のシリーズだからこそできることなのかも……と思ったんですよね。それ以来、シーズンごとに何か面白いものを出そうと意識しています。それで4期はロボ、『最終章』ではラスボスにひとつ大きな仕掛けを……という流れになりました。
――それは楽しみですね。ロボは歌攻撃のサウンド増幅装置になる変形ギミックも印象的でした。
虚淵 登場させてから「困ったときはあいつに何かやらせよう」みたいな便利アイテムになりました。ドラえもんのひみつ道具状態です(笑)。僕の脚本では「両手がウーファーになります」くらいしか書いていなかったんですよ。でも、霹靂社さんがちゃんとデザインの辻褄を合わせてくださった。映像が完成するまでは変形前・変形後の形しか見せてもらっていなかったので、間をつなぐCGの変形シーンは完全にあちらのアレンジで「ここまでやってくれるか!」という感動がありましたね。
魔宮貴族や浪巫謠の魔人体はもうちょっと出したかった
――他にも驚いたデザインはありました?
虚淵 魔宮貴族のキャラクターデザインは霹靂社さんに投げていたのですが、あの多彩さはよかったです。活躍させられなかったのがもったいなかったですね。デザインが全部できたあとで「5期はシリーズではなく、劇場で」という話になったので、あわてて登場シーンを切り詰めることになってしまったんですよ。シリーズを前提に考えて「新キャラが8人いれば、話がもつだろう」という算段を立てていたので、そんなに増やすんじゃなかったな……みたいなことに。
――霹靂社さんから上がってきたデザインの中で、とくにお気に入りのものはありますか?
虚淵 佩雷斯(ハイラース)ですね。あのペルシア感と言いますか、霹靂社さんにはこういう引き出しもあるんだ、という面白さがありました。
――烏蕾娜(ウライナ)も面白いデザインで、印象に残りました。
虚淵 すごくおいしいデザインだったんですけれども、もったいない退場になりました。魔宮貴族しかり、浪巫謠(ロウフヨウ)の魔人体も、もうちょっと出したかったんですけどね。出番がオープニングと本編でのあの一度きりになってしまったのは、もったいなかったなと思いますね。
第2回(②)に続く虚淵玄うろぶちげん 株式会社ニトロプラス所属のシナリオライター、小説家。『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS サイコパス』『仮面ライダー鎧武/ガイム』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『GODZILLA 怪獣惑星』『OBSOLETE』など、数々の映像作品の原案や脚本を手がける。作品情報
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