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ユダヤ系アーティストの代表曲はこれだ!全世界に計り知れない影響力を持つ “流浪の民”

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1965年08月30日 ボブ・ディランのアルバム『追憶のハイウェイ61』発売日

連載【教養としてのポップミュージック】vol.11 / ユダヤ系アーティストの代表曲はこれだ!全世界に計り知れない影響力を持つ “流浪の民”

ポップミュージックに受け継がれるキリスト教音楽の遺伝子


2025年1月20日、米国ワシントンD.C.で第47代大統領就任式が執り行われた。これによってドナルド・トランプが大統領の座に復帰した訳だが、彼の姿を見て改めて思い知らされたことがある。よく米国社会は多様性が高いといわれるが、にも関わらず、歴代の大統領はジョン・F・ケネディ(第35代)やバラク・オバマ(第44代)など数名を除けば、全員がWASP男性なのだ。

WASPとは “White Anglo-Saxon Protestant”の略で、“White”(白人)は人種的区分、“Anglo-Saxon”(英国にルーツを持つアングロサクソン人)は民族的区分、“Protestant”(キリスト教プロテスタント)は宗教的区分を示している。彼らは、1620年にメイフラワー号で米国に上陸した清教徒(ピューリタン)の子孫ということで、長く米国社会の主流派を形成してきたのだった。

で、ここからが本題だが、WASPの例を挙げるまでもなく、人種・民族・宗教は、性別・世代・国籍などと並んで人々の属性を分類する際によく用いられる “切り口” である。僕はこれまでに何度か、ポピュラー音楽市場の多様性の在り様について、“人種・民族” の切り口から言及してきた。なので、今回は切り口を変えて “宗教” に着目してみることにする。

世界に対して計り知れない影響力を持っているユダヤ人


よく “西洋音楽はキリスト教音楽である” といわれるが、今日のポップミュージックにおいても、その遺伝子は脈々と受け継がれている。クリスマスソングなんかは、もはや宗教の域を超えているが、例えば “ゴスペル” と呼ばれる音楽は、キリスト教の “福音” という言葉から来ている。伝統的なキリスト教音楽とアフリカの伝統音楽の融合によって形成され、20世紀に入ってプロテスタント教会でアフリカ系米国人たちによって歌われるようになったという。

しかし、だからといって、ポップミュージックの担い手がキリスト教の信者に限られているかというと、もちろん全くそんなことはない。実は、多数のキリスト教徒たちの中にあって、大きな存在感を示しているのが “ユダヤ人” なのである。

日本で暮らしているとなかなか接点がないかもしれないが、そもそもユダヤ人とはユダヤ教の信者のこと。もう少し正確にいうと、“母親がユダヤ人であれば子供もユダヤ人” “ユダヤ教を信じていればユダヤ人” とみなされるのだそうだが、いずれにせよ民族や言語で括ることはできない。そして、そのユダヤ人は、世界に対して計り知れない影響力を持っているといわれている。

エンターテインメントの世界でも、大勢のユダヤ系セレブリティが活躍


米国の大手民間調査機関であるピュー・リサーチ・センターの調査によると、2020年時点でユダヤ人は世界に1,466万人(世界人口の0.2%)しかいない。にも関わらず、ユダヤ人はノーベル賞受賞者の20%強(!)を占めるのだそうだ。

また、米国の経済誌『フォーブス』が毎年発表している “世界長者番付” では、ラリー・エリソン(オラクル創業者、会長兼CTO)、マーク・ザッカーバーグ(メタ創業者、会長兼CEO)、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン(グーグル共同創業者)、スティーブ・バルマー(マイクロソフト元CEO)、マイケル・デル(デル・テクノロジーズ創業者、会長兼CEO)といったユダヤ系の起業家・経営者がランキング上位の常連であることは、皆さんもご存知だろう。

エンターテインメントの世界でも、全く同じことがいえる。ハリウッドでは、ナタリー・ポートマン、スカーレット・ヨハンソン、ハリソン・フォード、ダニエル・デイ=ルイス、ダスティン・ホフマン… といった俳優陣はもちろん、スティーヴン・スピルバーグのようなプロデューサー・監督・脚本家など、大勢のユダヤ系セレブリティが活躍している。

史上最高のユダヤ系楽曲150選


では、ポップミュージックの世界はどうだろう? 2022年1月、米国のユダヤ系メディア『フォワード』は “史上最高のユダヤ系楽曲150選” を発表した。選ばれた150曲は単なるヒット曲や良曲ではなく、ユダヤの文化・考え方・歴史などが投影された楽曲なのだそうだが、要するに “ユダヤ人の心に響く曲” ということだろうか。この手の企画でよく名前の出てくるビリー・ジョエル、バーブラ・ストライサンド、バリー・マニロウ、ポーラ・アブドゥル、P!NKらがリストに挙がっていないのが興味深い。

今回、僕はこの150曲の中から、一般の音楽ファンにもよく知られているアーティスト5名と代表曲各1曲を選んでみた。僕自身、普段はほとんど意識することがなかったが、これらの曲を改めて続けて聴いてみると、各曲の空気感にどことなく共通するものがあるような気がする。単に気のせいかもしれないが、皆さんにもそれを確かめて欲しいと思う。

一般の音楽ファンにもよく知られるユダヤ系アーティストTOP5


【第5位】 ドナルド・フェイゲン
いわずと知れたスティーリー・ダンの創設者で中心人物。相方はウォルター・ベッカー。ニュージャージー州パサイク郡のユダヤ人夫婦の間に生まれた彼は、歌手だった母親が、ユダヤ人がよく集まるホテルで歌っていたのを見て、強い影響を受けたという。

「エニ・ワールド」は、よその街で新しい生活を探す以外の選択肢を持っていない人々の心に響くような曲だそうだ。おそらくユダヤ人が歴史上経験してきたことと、何らかの関係があるのだろう。シングルリリースはなく、4枚目のアルバム『うそつきケイティ』(Katy Lied)に収録。

【第4位】 スザンナ・ホフス
1980年代を代表する米国のガールズバンド、バングルスのリードボーカル。ロサンゼルスで精神科医の父親と映画監督の母親という恵まれたユダヤ人家庭に生まれる。

「胸いっぱいの愛」(Eternal Flame)は、バングルスが1988年にリリースしたアルバム『エブリシング』からシングルカットされ、米英シングルチャートで1位を獲得。この曲で作詞を担当したビリー・スタインバーグが、ヘブライ語で “永遠の灯火”(Eternal Flame)の意味を持つ “ネール・ターミード” がシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)で点灯されるのを見て着想を得たのだとか。

【第3位】 ニール・ダイアモンド
史上最も成功したアダルト・コンテンポラリーのアーティストの1人。ジョン・F・ケネディの娘で元駐日大使のキャロライン・ケネディのことを歌った「スイート・キャロライン」や、モンキーズに提供した「アイム・ア・ビリーバー」は、誰もが聴いたことがあるだろう。

「ブルックリン・ロード」は、ニューヨーク・ブルックリンのユダヤ系移民の家庭に生まれた彼が、自身の生い立ちを描いた内省的な名曲である。1968年リリースのアルバム『思い出のシャイロ』(Velvet Gloves And Spit)に収録。

【第2位】 ポール・サイモン
ニュージャージー州ニューアーク市で生まれた彼は、同じ小学校に通っていたアート・ガーファンクルと共に中流のユダヤ人家庭に育つ。無二の親友となった2人は、1964年にサイモン&ガーファンクルとしてアルバム『水曜の朝、午前3時』(Wednesday Morning, 3 AM)でデビューするが、​​デビュー当時は話題にもならなかった。

「サウンド・オブ・サイレンス」(The Sound Of Silence)はこのデビューアルバムに収録されていたが、2人が知らない間にフォークロック調に作り直されてシングルカット。翌年全米1位を獲得。このバージョンはセカンドアルバム『サウンド・オブ・サイレンス』(Sounds Of Silence)に収録された。歌詞に “預言者の言葉は地下鉄の壁やアパートの廊下に記されている” (The words of the prophets are written on the subway walls and tenement halls)とあるように、この曲は “預言の歌” といわれている。“預言”とは神から預かった言葉のことである。

【第1位】 ボブ・ディラン
ユダヤ系の両親のもと、ミネソタ州ダルースに生まれる。ヘブライ語も流暢に話せるらしい。上述した『フォワード』の150曲の中で、最多の8曲が選出されている。1970年代末にキリスト教に改宗して物議を醸したが、後にユダヤ教に回帰。2016年にノーベル文学賞を受賞したのは記憶に新しい。

「追憶のハイウェイ61」(Highway 61 Revisited)は1965年発売の同名アルバムに収録され、その後シングル「窓からはい出せ」(Can You Please Crawl Out Your Window?)のB面としてもリリースされた。この曲は神がアブラハムに言った “お前の息子を生贄に差し出せ”(Oh God said to Abraham, “Kill me a son”)という歌詞で始まるが、このアブラハムというのはユダヤ教・キリスト教・イスラム教の出発点である預言者の名前であり、ボブ・ディランの父親の名前でもある。

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