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浮世絵版画が起こした革命~ 牧野健太郎さん

TBSラジオ

ファッションデザイナー:コシノジュンコが、それぞれのジャンルのトップランナーをゲストに迎え、人と人の繋がりや、出会いと共感を発見する番組。

牧野健太郎さん(Part 2)

1956年生まれ。日本ユネスコ協会連盟個人会員、東横イン顧問。ボストン美術館とNHKプロモーションが共同制作した「浮世絵デジタル化プロジェクト」の日本側責任者。「浮世絵の伝道師」として、江戸の庶民生活や現代に通じる生き方を国内外で紹介しています。

出水:あらためて、浮世絵版画とは何でしょう?

牧野:浮世絵というのは大きく言うと、「肉筆」=手で描いたものと「版画」があります。基本的に僕たちは浮世絵「版画」を浮世絵ということで見ております。その中でも私たちが見ているカラーの版画ができたのは、諸説あるんですが、鈴木春信さんから。1760年から10年間しか活動していないんですが、ほとんど彼が作ったんじゃないかというくらい、浮世絵の元ができています。

出水:当時春信さんはどういった作品を?

牧野:ものすご~いかわいい女の子や美人画。この人化け物なのが、10年間でオールジャンルやってます。風景画もやってみたり、古い歌を取ってみたり、活動的なもの、春画的なものをやってみたり・・・これもはっきりしないんですが、春信さんが住んでいたのが神田白壁町、今のJR神田駅の真下です。そこにたまたま3歳年下の平賀源内さんが来て、2人でご相談してトンボ「T」のマークを発明したんじゃないかと。あれで色版がずれなくなって、どんどん刷れるようになったんじゃないかと。もちろんスポンサーがいたりあるんですが・・・彼が作った浮世絵版画がその後蔦江重三郎、歌麿、北斎、広重とか後の100年に続いてく。

JK:でも基本的には浮世絵のもとは美人画ですよね? 「浮世」の絵だから。

牧野:これが「浮世」、広い意味での世の中なんですよ。女の浮世もあれば、男の浮世もあるし、風景浮世もあるし。

出水:今でいうチラシやポスターのようなものですか?

牧野:チラシ、グラビア、雑誌、新聞等々、印刷物すべて。

JK:遊び人の環境ですね。でも子どもにはよくないわね。

牧野:よくないと言われると、よいものも作る。世に出てないだけで、いいものもあったんです。子ども用に、賢婦とか、親を大事にするかわいい子どもシリーズとか。もっとすごいのになると、絹の作り方how to本とか。彼らのすごいのは全部取材するんです。版元が取材するんですが、そこから集めてきたものを作家にぶつけて、作家がオイシイところを取り出して作品にする。今と同じことしています。

出水:おもしろいですね~! しっかり分業されていたんですね。当時のファッションのトレンドがありありとわかりますね。

牧野:浮世絵が出るまでは、ひな形本といいますか、デザインブック集があって、それで着物を選んでたんです。ところがひな形本はデザイン帖、浮世絵では人間が歩いてますから「こっちのほうがいい」って流行っちゃった。それでひな形本が廃れていくという、ある意味メディアの転換期でもあった。

出水:当時いくらぐらいで売られていたんでしょう?

牧野:1枚16文と言われていますから、今でいうとイメージとして400~500円。

JK:誰でも買えたのかしら? 1回で何枚も刷れるの?

牧野:意外と誰でも持ってましたね。人口も小さいですし。1つの版で1日200枚。でも1日ですから、すごいのになるとトータルで4000~8000枚。

JK:けっこう大量生産ね! だから今まで残ってるわけですね。蔦屋重三郎は摺り師? 版元?

牧野:版元。しかもアクティブな版元。あとからあとから追いかけてきて、最初からいた版元さんを追い抜いて行くという、すごいやつが蔦屋重三郎。

JK:1人でそんなにできるものなの?

牧野:たまたま生まれが吉原の中で、吉原のガイドブック「吉原細見」を作ったんです。もともと常時売れてたんですが、それまではあんまり工夫しなかったんです。でも蔦屋重三郎が改革的に、「こんな花魁いるわけねぇだろ」っていい情報をどんどん入れちゃった。それでどんどん売れて独占しちゃった。

JK:センスですね!

牧野:33歳のころには左団扇。でもそこで終わるんじゃなくて、「俺は出版を改革するぞ!」と言ったわけですが、日本橋に出て行って、油町という今の三越の300~400m先ぐらいに自分の店を開いて、新しい人たちを集めて出版を始めた。

出水:そんな蔦屋重三郎を描いたのが今年の大河ドラマ「べらぼう」です。楽しみですよね!

牧野:渡辺謙さんが主演ということですから、これは時代が先に進まないぞ~! 北斎は絶対出てこないなぁ~(^^)

JK:牧野さんのマサカは?

牧野:昔夫婦で歩き遍路をやったんですよ。ぐるっと。そしたら毎日毎日、なにか不思議な人たちが出てくるんです。僕たちは「弘法くん」と呼んでたんですが、やさしそうなおばあちゃんが「せっかくやから、こっちの道に行ったら本当の遍路道があるから行ってみい」って言って、行ってみたら延々と続く山道で(笑) 山中を歩いてたらかわいい子猫がみゃおんと鳴いて、ずっとついてくるんです。こっちが走ると猫も追いかけてくるんです。追いかけてきたのに、なぜか抜く(笑)

JK:何か不思議ね(笑)

牧野:四国遍路では橋の上だけは杖をつくなと言われているんです。橋の下に弘法様が寝てらっしゃるかもしれないから。絶対いるぞ、ということが頭にあるからかもしれないですが、毎日毎日、誰かしら不思議な人に会った

JK:何日間ぐらい?

牧野:44日間、1日平均32km。大変なんですよ、現役のころだから休みが取れない。休暇が3日以上取れたら、奥さんと2人で「行くか!」と決意していく。長くたって夏休みで1週間でしょ。その都度とりあえず飛行機で行って、飛行機で帰って来るから、エラいお金かかるんです(^^)

出水:牧野さんの忘れられない浮世絵は?

牧野:「浅草田圃酉の町詣で」。どの偉い先生に聞いても教えてくれない。「これなんですか?」「田んぼだよ」「どこですか?」「まぁ浅草だ」

出水:明言できないってことですか?

牧野:いいえ、みんな言いたくないんです。「吉原の遊郭の2階から富士山を見ている(その手前に浅草の田んぼ道が見えているよ)」っていう絵なんですが、誰も教えてくれないので1個1個調べていったら、一番左にある黒い線が実は屏風の裏張りだとか、吉原雀がならんでいるとか、手ぬぐいは付け届けで誰の文様だとか、何気なく畳の上に置いてあるかんざし、熊手、熊手の上に乗ってるおたふく、その横の巻いてある小さな紙・・・それが全部意味があって、それが分かって面白くなってしまったという1枚です。

JK:ここは吉原だってわかっちゃった!

牧野:しかも11月のお酉さんの日ですから、寒いんですね。「窓なんか開けやがってコノヤロウ」って怒ってる絵なんです(^^)

出水:表情は写ってないですが、そこまで読み取れるんですね(笑)

牧野:先生方とも論争したんですが、間違いなく怒ってます! よく見ればなんとなく分かるかなぁ。

出水:そんなふうに想像がふくらむ1枚なんですね。

JK:ひとつのストーリーが丸見えね(^^) 今後もっともっとやってみたいことは?

牧野:何やりましょうね? 本で実現しちゃいましたからね、どうしようかと思って・・・あ、ひとつ面白い経験。初めて仕事で浮世絵を見た時に、ふつうの人とは見方が違うことに気が付いたんです。みんなは絵画として見てた。僕は生活として見てた。なんでだろう?と思ったら、僕が4つの時に祖母のお兄さん、本家のおじいちゃんが、浮世絵の話を僕らにしてくれてたんです。まったく記憶はないですよ。30~40のときに法事かなんかで話をしたら、全員が江戸好きなんですよ! 全員がそれぞれ関係ない商売やってるのに、江戸の話は知っている。

JK:そうか! 4つぐらいの子にお話をしてあげると、永遠に残るんですね!

牧野:絶対に。関係なくても聞いてなくても、話をするのはいいんだろうなと。ただ、うちのおじいちゃんが賢かったのは、お菓子をくれたところです(笑)

(TBSラジオ『コシノジュンコ MASACA』より抜粋)

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